それぞれの交錯
さて、航空機と新キャラを出しますよ。
「戦死が1……第3中隊のエドワード3等兵が特進して1等兵、か。一人でも消えるのは辛いな。」
朝早く、というより夜半を過ぎた頃一人執務室で呟き、報告書に記載したのはやはりというべきかヴィレムだ。
「戦場処理はどうします?」
臨時の手伝いをしている女性下士官が聞いた。
「こっちの分は今日葬式。敵さんは明日の早朝か今晩にでも出発して埋葬しよう。……。重傷と軽傷の人数をもう一回言ってくれ。」
報告書の手を止めずに答えたのち質問する。
「重傷3人、内障害が残るのは1人で、軽傷は6人、入院の必要はありませんが2,3週間は戦闘参加は無理ですね。では今日午前10時にエドワード1等兵の葬儀を行い、明日の朝戦場処理ということで問題はありませんね。」
「ああ、構わない。……本日の戦闘に勝利すれども戦死者あり。敵の錬度はなかなか。油断すべからず。と。……よし、終わり。寝る。」
彼は机に散らばった筆記用具を回収し、私室へ戻った。
その翌々日、彼らは前回の戦場にいた。
なぜなら、彼らの任務に「戦場処理」というものが存在するからだ。
「戦場処理」とは戦時国際法で正式に定められた軍のやるべき事の1つで、簡単に言えば戦場の後始末をすることだ。
「……」
フィデリオは無言で敵の死体をシーツに包み、中隊の独立工兵小隊が掘った穴に埋めた。
この作業は辛い。
仲間がこんな姿になるのでは、という不安と、敵兵とはいえ人を撃ったという事実を否応なく実感できるのだ。
彼が黙々と作業を進めていると、手を止め、俯いているローサがいた。
(……泣いてる?)
彼女が気付いたのだろう。
「すみません。見苦しいところをお見せしました。」
彼女はそれだけ言うと手を再び動かしだした。
その数十分後、小休止の時間になるとローサが彼の元へ近寄ってきた。
「隣、失礼します。」
そう言ってすぐそばに座りこむと、彼女は話し出した。
「私達、本当に戦争してるんですね。」
「……そう、だな。」
話が見切りきれなかったので、彼は適当に応じた。
「因果な商売だよな、兵隊って。
3食付き、住み込み、制服支給、命の保証なし。言ってみるのは簡単でも実際はこうだ。」
「そう、です。私も何回かこの作業はしましたが、いつも味方がこうなる気がします。
軍曹。私達は一体何の為に戦ってるんでしょうか?」
難しい質問をしてきた、と思った彼は自分の考えを素直に言った。
「友達とか、家族とか、……恋人とか。」
最後に空いた間は若干ためらったからだ。
「そうですね。みんな大事な物を守るために戦っているんですよね。
でも、あの方達にも守るべき人や物はあるはずです。」
彼女が真新しい十字架に指をさしつつ言った。
「だから戦争なんざすべきじゃないんだ。」
話に割り込んだのは分隊最年長のストラトスだった。
「兵隊ってのはこういう商売で、命が商品、無くなればそれまでだ。
俺も戦争なんざしたくはない、けど守るものがあるから戦う。そのくらいでいればいいんだ。」
空気が重いのは何も死臭だけのせいではないだろう。
その時作業再開の号令がかかった。
その数時間後。
戦場処理の作業と、並行して行われた陣地設営―塹壕や掩体壕掘り、機関銃座の設置など―が終わった直後のことだった。
「敵、発見!」
叫んだのは別の中隊の見張り要員だ。
だが地上には何もない。
ただ轟音が響いているだけだった。
そう、轟音だけである。
「上だ!」
その声につられて彼が上を向くと、多数の航空機が飛んでいた。
「戦爆が16、重爆が4、か……
総員退避。壕に潜れ!」
ヴィレムが号令をかけ、兵たちはすぐに掩体壕
など上が塞がった所へ飛び込む。
その直後強烈な爆音が軽い衝撃波を伴いやってきた。
「戦爆の60キロ爆弾、だな。」
そう判断したのは2年前の紛争に参加して実際に空襲を受けたパーシウスだ。
「けど、それに混じって75ミリ榴弾の爆音がする気がするのはなぜ?」
聞いたのはアーニーだ。
「知るか。」
答えは素っ気なかった。
「指示です。車両は即座に壕から出て車載機関銃で、歩兵は塹壕や車輌を盾に各種火器で応戦せよ。とのことです。」
全員に分かるようにブリアンが言った。
「総員持ってる武器全部使ってあの敵撃てぇ!」
どこかの分隊長が放った号令と共に対空戦が始まった。
第2分隊の装備には各自グレネード弾兼用の手榴弾と半自動式のライフルであるAR-1942デビッド、パーシウスとストラトスの私物である半自動ライフルR-1928 カーネル38、フィデリオのヴァイストパトローネ、シベリウス兄弟用の対装甲ライフルAAR-1939アルべリヒ、アーニー用の支援軽機関銃AR-1942(mg)―通称D-mag―が配備されている。
「一番手前のあの敵撃てぇ!」
パーシウスが下したものも他の分隊長のものと大差は無い。
その号令と同時にフィデリオとシベリウス兄弟以外の全員が戦爆に向けて各自のライフルや機関銃を連射する。
フィデリオはというと大急ぎで草刈りを始めた。近場にあった草を適当に刈ってヴァイストパトローネの逆側へ詰め込み―カウンターウェイトのかわりだ―、誰もいないはずの掩体壕に逆側を向けて時限信管付の対人榴弾を発砲する。そこへ1機の戦爆が飛び込むが、元が対人だから威力は低かったようである。
彼は思案顔でその掩体壕へ隠れた。
一方シベリウス兄弟はというと、塹壕の底面ヘ伏せて巨大な、けれど驚くほど軽い―といっても総重量10キロ弱―の対装甲ライフルAAR-1939アルべリヒの組み立てをやっていた。
意外とシンプルな機構部に無骨な金属製ストックを取りつけ、長いバレルを装着、各部を軽く叩いて調子を確かめる。
その重量故に分解して運ぶ必要があるもののこのライフルは補って余りある破壊力がある。
「親父……案外ロクな仕事してんだな。」
設計を担当したアルべリヒ技師の息子であるフィデリオは、壕の中で父親のことを見直した。
そのことにはまるで構わず、ヘルマンはアルべリヒを構えるとちょうどこちらへ降下した重爆撃機に向かって発砲した。
その直後、重爆撃機は機首を爆発させて墜落した。
「敵、1機撃破。」
「……どう、やったんだ?」
唖然としたフィデリオが聞いた。
「筒内爆発だ。75ミリ砲に突っ込ませそうだったから、やってみたらできた。」
「ばけもんかよ。おまいは。」
まさに唖然とした顔でフィデリオが感想を述べた。
「おい。航空支援はまだか?」
パーシウスがいらだった声を上げたのは戦闘開始から30分ほど後だった。
戦況はそう良いわけではなく、敵機は戦爆12機、重爆2機と依然多いままだ。
「30分前にヴェルゼンハイム飛行場よりFW180Aが16機、およびKS210が8機それぞれ発進。巡航速度でこちらへ向かっています。到着予想時刻は間もなくです。」
返事を返したのは通信兵のブリアンだ。
「歩兵部隊。対空戦闘御苦労。以降は俺たちに任せろ。」
彼の背負った無線機から声が聞こえた。
「……繰り返す。こちらはヴェルゼンハイム陸軍第5航空兵団戦闘機隊複座小隊指揮官ハインツ・バルクマン中尉だ。歩兵部隊。対空戦闘御苦労。以降は俺たちに任せろ。」
「こちら地上の予備役第4師団第2大隊第1中隊中隊長ヴィレム・ドールマン中尉だ。援護感謝する。」
「いいってことよ。これが俺たちの仕事だ。」
航空隊の指揮官はそうとだけ言うと、敵機ヘ挑んだ。
単発機隊が戦爆を容赦なく撃ち落とし、それをぬって双発機が重爆を付け狙い、ジグザグ戦法で撃墜する。
航空機隊の到着後戦闘はすぐに終わった。
「機種、なんでした?」
ふと気になったフィデリオがブリアンに聞いた。
「FW180AとKS210でした。」
ブリアンが答える。
「FW180とKS210……
あれ、確かクルツの作品だったような気がする。」
どうせ油が余ってるんだからという戦闘機隊の繰り広げる曲芸飛行を眺めながら彼は呟いた。
とりあえずこんな感じ。
後で訂正を加える、かも