始まりの始まり
「中尉さん、何で生きてるの。」
ヴィレムの私室に呼ばれたアーニーは開口一番に言い、
「……勝手に殺すなよ。」
半ばあきれつつフィデリオが突っ込む。
「まあな、悪運もあるが、やっぱり俺の専門は逃げ隠れしつつの戦いだ。やることやってほとんど全員脱出させたんだが……」
ヴィレムの明るかった顔が若干暗くなる。
「……守れなかった奴もいた。
それに、だ。俺みたいに召集された奴も1人や2人じゃない。本音を言えば戦争なんざやりたくねえ。そうだろ。」
2人と従兵がそろって頷く。
「だが、この国にいる以上仕方ねえ。早く戦争が終わるように努力せにゃならん。わかっ……」
「失礼します。出撃命令です。」
彼がしゃべっている最中に通信班の士官―新任と書かれた少尉の階級章を付けている―が入ってきた。
「……なんでまた俺のとこに来る。無線連絡は当直士官に回すのが基本だろう。」
「当直のクルーガー少尉は膨大な仕事を部下に与えて姿をくらませた、との情報を得ました故ここに来ました。」
「ちなみに今の当直士官はだれだ。」
あきれてものも言えない2人を無視しヴィレムが質問する。
「パーシウス曹長がやってました。」
「とりあえず出撃をかけろ。」
「了解。」
通信士官はそのまま部屋を出て数十秒後にブザーが鳴った。
「2人とも何をしているんだ。さっさと準備をしろ。」
言われるまま2人は自身の部屋へ急いだ。
響く爆音、たまに鳴る銃声。敵兵、味方の怒号。
ここは間違いなく戦場だ。
(クルーガー少尉はなんつってたっけ。)
“
「ただいまよりブリーフィングを開始する。
必要があれば各員メモを取るように。」
クルーガーが言っていたのは数時間前のことだ。
「昨晩23時50分ごろこの基地から北西に40キロほどのところで敵1個中隊程の戦力が野営していたのを偵察隊が発見。今回の作戦は彼らを撃破、もしくは撃退させることだ。
敵には車両が確認されていないがそこまで国境から200キロある。
開戦から3日でここまで来たのならおそらく車輌が存在すると考えていいだろう。
上からは無理しないようにと連絡が来ている。
俺たちも無理しないように敵の撃退に集中しよう。
以上。何か質問はあるか?」
「敵に何か特徴はありますでしょうか。」
聞いたのはマクシミリアンだ。
「普通の歩兵らしい。偵察隊か先遣部隊かのどちらかだが、気を抜かなければ十分勝てる相手だ。」
「戦場にどうやって移動するのでしょうか。」
アーニーの質問に対し、
「40キロも歩いて行ったら日が暮れらぁ。車で行くんだ。車。」
答えたのはストラトスだ。
「他に質問はないな。
今回の戦は場合によっては戦況を変える可能性もあるが、深く考えず目の前のことに全力を尽くすこと。いいな?」
”
彼は地面の溝から周囲を確認した。
敵は距離100メートル前後から迫撃砲も使いつつライフルで攻勢をかけている。
一方こちらはというと、
装甲車が主砲の35ミリ砲で榴弾をぶっ放し重機関銃やライフルで敵の進行を防ぐという守りの姿勢を取っている。
「榴弾手!何やってんだ撃て!」
その指示を忘れかけていた彼はすぐにヴァイストパトローネから対人用の榴弾を撃つ。
仰角を付けて放たれた榴弾は、特徴的な風切音をたて敵部隊の中心付近に落下し爆発し、土くれともども爆散する。
「突撃来たぞ!機関銃手。弾幕!」
突撃を迎え撃つ立場にある彼らの分隊に配置された機関銃手はアーニーだ。
彼女は遠慮なく9発ずつの弾幕を張り、突撃を防ぎ、それでも到達した敵兵―十数人がもはや数名になっていた―がフィデリオに向かってくるが彼は無造作にヴァイストパトローネの散弾を装填し、遠慮なくぶっ放した。
辺りには一部がなかったり血まみれだったりする敵兵の遺体が残ったが、彼は頭を振り、他の敵の状況を調べる。
その20メートル左側でも生き残った敵兵がいた
「これでも、喰らえ!」
ストラトスが手榴弾を高く放り投げ、
「サヨナラです。」
ローサの銃剣が首を裂き、それらはすぐに対処された。
そのように迫撃砲や榴弾で数が減った敵兵の動向を遠くから観察していたヴィレムはしかしできれば見つけたくないものを見つけた。
「戦車、か。」
「分隊長、戦車があるそうです。」
ブリアンが無線連絡を伝える。
「聞いたか野郎ども。
敵さんは戦車があるようだが落ち着いて対しょ……退避!」
パーシウスのその言葉を遮ったのはその戦車の榴弾だ。
「無事か!」
10個の同意の声がするのを確認したうえで後ろに誰もいないのを確信してフィデリオは対戦車榴弾を放ち、敵戦車の上面に当て、破壊した
そこから見えたもう1両はというと、
「今だ。」
段差を登ろうとしたところをマクシミリアンの操作する装甲車の35ミリ砲で底面を撃たれ撃破された。
それを見た敵兵たちは総崩れとなり撤退を開始した。
「深追いするな。だそうです。」
通信を伝えたブリアンの声で隊員たちは落ち着いた。
「よし。全員帰還するぞ。」
1人もかけてないことに笑顔を持って装甲車に乗り込もうとしたパーシウスだったが。
「きゃー、衛生兵!衛生兵!」
そのそばにいたソニアが絶叫した。
彼の背中は血まみれであった。
「どうしましたか……」、
その傷を顔面蒼白のリーが手当した
装甲車の中で治療された彼は翌日見事に何もなかったかのように復帰した。
「まったく。血まみれであんな笑顔出せるなんて、どこの戦神だよ。」
というヘルマンの言葉もあり、戦後飲み会の話のタネになったのであった。
改良の余地あり。いずれ改良します。