奇襲前編
「照明弾、だな。」ドールマンが窓から周囲を確認し判断する。
「共和国、か?」
「もちろん。ほかにどこのだれが撃つ?
で、これから私は防衛線に向かうが、ちと敵さんの勢力がでかい。であるからによってフィデリオ、お前さんには市街戦の用意と住民の避難と消灯を自警団の連中と協力してやってくれ。」
「了解、できる限りをやります。」
「で、アーニー、元小隊付き狙撃兵の護衛兼観測手なんだから狙撃はできるか?」
「300メートルまでなら何とか。そっから先は神頼みってとこ。」
「では、迫撃砲、機関銃等の重火器の射手を黙らせろ。
この戦いでは自警団と軍人それからお前達市民の対応によって今後が左右されるだろう。
何はともあれ各自生き残ることを第一に考えて行動するように。以上。出撃。」
訓示らしきものを残しドールマンは照明弾により明るくなった市街地―村であるが―に消え、
「天窓から撃つから。市街戦になったら援護よろしく。」
若干出窓のようになった天窓に梯子をかけ、アーニーがその出窓部分から長いスナイパーライフルを外に向け、迫撃砲を探し出し、
「ま、演習で習ったことでも実践するか。」
カウンター脇のロッカーに置かれたデビッドライフルを取り出し、フィデリオは弾薬箱を持って外へ出た。
フィデリオが向かったのは街に四か所ある北方軍屯所の一つである小屋だ。
「いない……」
そこは全くのもぬけの殻だ。彼は一瞬考えると
「中尉さーん!避難とかに人裂いてますかー?」
大声で質問した。
「おーう。さっき自警団員を一五人ばっかし回した!お前は大通りとかいかにも敵が来そうな所に適当に仕掛け罠を仕掛けろ!」
「了ー解!屯所の資材 使いますよー!」
「好きなように使え!あと俺たちには分かるようにしといてくれ!」
彼はあるところには爆弾を仕掛け、あるところには花火を仕掛けまたあるところには灯油とアルコールを撒き、またあるところには穴を掘り、という風に仕掛け罠の作成を始めた。
一方アーニーはというと、
「見つけた。」
一発目の照明弾が燃え尽き周囲が真っ暗になりいざ二発目が撃たれようとした時だった。
(距離五八〇、無風高度差五)
癖で敵との間合いを取り強烈な銃声を立て発砲。
「迫撃砲手、撃破。」
ボルトを操作し、迫撃砲に群がる敵兵を撃つが、一発目以降はなかなか当たらない。
「腕がなまったものね。」
そう言いつつも新たに発見した重機関銃手に照準を合わせ発砲。
「重機関銃手、撃……。」
そこで彼女の手が止まった。
自警団並びに在郷軍人団が防戦を開始してから四〇分が経過したところで共和国軍の擲弾が着弾しヒーサ村北門が破られた。
それを確認すると教会の鐘楼に陣取ったフィデリオは仕掛け罠その一につながる長いテグスを引っ張った。
そこからきっかり四秒後門の脇に設置された仕掛け爆弾―手榴弾と石膏ボード、火薬、金属片などを組み合わせた代物―の破片がいましがた突入した部隊に降り注ぐ。
「……また来たか。」
それに構わず突入した第二部隊はしかしごく浅い落とし穴に足を取られ、それを確認した彼が仕掛け罠その二につながるこれまた長いテグスを引く。
その直後その落とし穴が爆ぜる。これも手榴弾を用いた即席の地雷だ。
「……こう上手くいくとはな。」
彼にとっては足止め程度の効果しか無いだろうという予想だったが、異様にうまくいってる。
とその時彼は大通りで防戦している軍人たちの後ろを突こうとしている別動隊を発見した。
(飛んで火に入る、夏の虫!)
彼はその方向へ曳光弾を放つ。発射された弾丸は光の尾を引き狙いたがわず道に置いていた酒瓶に的中するとその一帯―灯油をまいておいた―が火の海になる。
と、その炎の明かりで門の方を見た彼は絶句した。
彼らが絶句した対象とは何でしょうか。ということで後編に続く