帰郷
所々パロが出ますが気にせず読んでください。
……眩しい。
貨物兼用の乗合馬車に軍服姿で乗っていた里帰り中の青年―フィデリオ・アルべリヒ―は体を起こすと周囲を見回した。
幼少のころ釣りに行った川。
小学校の遠足で行った、頂上に砦の築かれた丘。
「帰って、来たんだなぁ。」
彼の故郷―ヒーサ村―はもうすぐそばだ。
「よう、やっと帰ってきたか。不名誉除隊で。」
偶然村の入り口にいた在郷軍人であるヴィレム・ドールマン中尉に会ったのは馬車から下りてすぐのことだ。
「うるさいです、中尉殿。満期です、満期。そっちこそ左遷されっぱなしじゃないですか。」
「はっはっは。若いの。元気だな。」
「25のくせして、あんた幾つだよ。」
あきれるように呟いた彼はまっすぐ村に進もうとしたが中尉に呼び止められた。
「なんだよ。暇人。」
「いや。近頃北の国境警備隊の連中がよ。しょっちゅうこの辺に出てくるから。それに注意しろ。」
「北、って共和国か?」
「ご名答。今のとこ小部隊の斥候らしいから追っ払っただけだ。だがいざとなると事がでかい。だから疎開令を出しておいた。」
「今ここには何人くらい?」
「私みたいな在郷軍人が20人と家族で60人。自警団と疎開したがらない面々が合計100人前後。まあ、全員に行きわたるだけのデビッドライフルと手榴弾それと数はないがバイストパトローネもあるぞ。」
「パトローネはこの際良いとして。なんでデビッドなんかがあるんだ?正規軍でも完全置き換えはもう少し先だろ?」
「正規軍は半年前に北・西方軍への配備完了で今はお前さんのいた南方軍や海軍陸戦隊への配備中だが、それも生産は完了してあとは運ぶだけで今余りが大量発生してるからそれを調達したわけだ。」
「へー。ま、いいさ。なんかあったらその時に。」
強引に話を断ち切るとフィデリオはそのまま家代わりの食堂兼飲み屋兼宿屋兼雑貨屋兼射的場兼時計店に進んだ。
「おばちゃ―ん、空き部屋1つくれー!」
村に、というか多分この国にも1件であろう食堂兼飲み屋兼宿屋兼雑貨屋兼射的場兼時計店に入るなりフィデリオは叫んだ。
「あんた、あたしに喧嘩でも売ってんの?マジで共和国の北の果てまでぶっ飛ばすよ。」
そこにいたのは女将ではなく彼と同い年の修行中らしい女性―アーニー・ブライトナー―だ。
「失敬、で。空き部屋くれ。」
「半年ぶりに、しかも行くあてなしの着たきり雀で言うセリフがそれか?ただいまぐらい言え。ただいま位は!」
怒ったようにしているが一応鍵を渡してくれる。
「料金は素泊まりで1日15ターラー、ま、元軍人にだったら安いもんでしょ。なんなら今のうちに払っとく?」
彼女が手提げ金庫を出したのでとくに断る理由の無い彼は5ターラー紙幣を5枚出し彼女に渡す。
「射的場、使うぞ。」
「はいはい、どのテッポー撃つの。」
「デビッド」
「デビッドは1回につき5ターラー、それと弾は.30コートだから20発1ターラー。お徳用の120発入りが5ターラーね。」
「120発くれ。」
「で、合計がご破算願いましては宿代15ターラー也ライフル使用料5ターラー也弾薬5ターラー也で計25ターラー。もらうよ」
算盤で計算する彼女を後目に彼はそそくさと裏口へまわり射的場に入った。
銃声を響かせつつ彼は顔をあげた。
この弾もやはりきっちりと狙ったところから15センチ左にずれる。
もうこれで2つ目のマガジンを空にしたのでこれは多分銃の癖、あるいは彼自身の癖なのだろう。
彼なりの分析ではこの銃は結構良いものという評価だ。
まずセミオート式というのがいい。
ボルト式のオリバーライフルを撃っていた彼にはボルト操作なしに発射できることと一度に一五発もの弾丸を装填できるという物は斬新な機
構として映った。
また弱装弾を使用するためオリバーライフルより反動が軽いというのも魅力だ。
命中精度、初速ともまずまずで軽量な事も相まってより実戦向きの銃だろうというのも高評価の理由だが考えなしに撃つとすぐに弾が減るというのは若干いただけない点に思った。
それからも彼は撃ち続け80発程度残したところで日が暮れ、射的場が閉鎖されるのに合わせてそこを出た。
「よーう、若いの。またあったな。」
酒場兼食堂でそう声をかけたのは昼間会ったドールマン中尉だ。
もっとも彼は構わず夕食セットを頼むとものの5分で食べきった。
「しっかし、中尉殿。最近不景気ですなあ。」
夕食セットのコーヒーを飲みつつ彼はドールマンへ話を振る。
「だな。軍縮条約が発効しちまったから俺たちは危うく職無くすし、お前さんは実際職無くしてる。民間はどうかといえばここんとこの物価高騰で経営が厳しくなりかけてる。」
「そこに来ての王国と共和国の不仲ですよ。まったく。これからこの国はどうなるんでしょうか?」
ちょうどその時轟音と共に地面が揺れ。次いで外が一気に明るくなった。
ゆっくりまったり続きを上げます。