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崩れやる心を紡いで

夢の中、世界は完全に変貌していた。

空は灰色に濁り、遠くで雷鳴が響いていた。

地面はひび割れ、足元が少しずつ崩れていくような感覚があった。

そして、闇の中から声が聞こえた。


「ねえ、何のために生きてるの?」

振り返ると、そこに自分がいた。

もう一人の陸斗。

表情はない。ただ冷たい目だけが、じっとこちらを見ている。

「期待なんかしても、どうせ裏切られるのに」

「笑われるだけだよ。お前が何かを変えられるはずがない」

次に現れたのは、クラスメイトたちだった。

笑っている。あの時のように、嘲りと軽蔑で満ちた声。

「お前と話すと不幸になる気がするんだよね」

「人間ってさ、空気読めないやつを自然に排除するんだよ」

「ほら、見てみなよ。誰も、お前のこと見てないよ?」

次に、父の声が重く響いた。

「お前は期待はずれだったよ」

「もっとまともに育てるつもりだったのにな」

「俺の子供とは思えない」

母の姿が現れる。

何も言わない。ただ、目を逸らす。

その無言が、一番刺さった。

影たちは入れ替わり立ち替わり、陸斗の周りを囲む。

ぐるぐると回りながら、責める。責め続ける。


「どうせまた逃げるんだろ」

「夢に逃げて、澪とかいう幻に縋って、何が変わったの?」

「お前の現実は、何一つ変わってないんだよ」

「消えたいんだろ? そう思ったこと、何回ある?」

「じゃあ、もう……終わりにすればいいんじゃない?」

足元が崩れ、陸斗は膝をつく。

息ができない。心臓が壊れそうだった。

両手で頭を抱えて、声にならない叫びを飲み込む。

「……たすけて……」

でも、誰も来ない。

澪もいない。

ただ、自分の中にある声だけが、どこまでも追い詰めてくる。

「どうせ誰もお前を救えない」

「お前は、お前のせいで、ひとりになったんだ」

「消えろよ。そうすれば、全部……終わるんだよ」

目の前に現れた“自分”が、手を伸ばしてくる。

それは温かくなんかない。

黒く、冷たく、ぬるりと濡れた手。

陸斗は身を震わせ、逃げ出そうと足を動かすが、重い鎖のように体が動かない。

視界は狭まり、周囲の闇がどんどん迫ってくる。


呼吸が浅くなり、胸が締め付けられるように苦しくなる。

言葉にならない絶望が全身を覆い尽くし、意識の端が揺れ動いた。


「もう……もう限界だ」


膝をつき、手を床に押し当てる。

震える手は冷たく、心臓は爆発しそうなほど速く鼓動した。


頭の中は混沌とし、過去の失敗や傷ついた記憶が一斉に襲いかかる。

クラスメイトの嘲笑、父の冷たい言葉、母の無関心。


それらが波のように押し寄せ、彼を飲み込もうとしていた。


「もう終わらせたい……全てを、消してしまいたい」


その声は、自分でも驚くほど弱々しく、しかし切実だった。


涙があふれ、視界が滲む。

身体は小刻みに震え、まるで砕け散りそうだった。


絶望の淵で、陸斗の心はまさに崩壊寸前だった。

心の中で叫んでも、誰も届かないと思ったその時。

突然、背後から温かい腕がゆっくりと彼を包み込んだ。


「――澪?」


驚きと安堵が混ざった声が漏れる。


その腕は優しく、力強く、まるでどんな闇も跳ね返すような温もりだった。


陸斗は固く閉ざしていた心が、少しずつほぐれていくのを感じた。


「怖くても、ここにいるよ。もう一人じゃない」


澪のささやく声が、冷たい闇を溶かしていく。


震える身体を抱きしめられ、陸斗はぽつりと呟いた。


「ありがとう、澪……」


その抱擁の中で、彼の絶望は、かすかな希望に変わり始めていた。


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