どこかのアニメや漫画で見た事がある脳内会議
(思い出した……多分そうだ……いや、違うかも……いや、絶対そうだ)
男性を意識したという経験は初めての育代は、同時に恋心も初めて知った。その瞬間に思い出した幼い日の記憶。
『エイリアンと結婚したい!』
両親にも話さないでいた願い事。
なぜ話さなかったのか――そんなのは幼心にフッと湧いた羞恥心から。と同時にその羞恥心からか、なかった事にした。封印する記憶。全て性格から発動した自然現象。
しかし恋心を知った瞬間、記憶の扉が大開放。
(ちょっと待って? てことは……)
明日も必ず目の前に現れるピコリン。恋を知ったばかりの育代は、以下の様な明日の会話を妄想した。
『おい。用件を言え』
『あ……ピコリン……』
頷き赤くなる自分。
『早く言え!』
怒鳴り気味のピコリン。
『あ、うん……あの……』
『おい。時間がないぞ?』
『うん……あの……結婚を……』
『結婚だと?』
『うん……』
『わかった』
『え? いいの?』
『ああ。問題ない』
「ないないない! 問題大アリだよ!」
恋を初めて知った人間のあり得ない妄想が終わり、思わず独り言を叫ぶ育代。
(ちょっと待って……落ち着かなきゃ……)
冷蔵庫を開ける。あいにくめぼしい飲み物は嫌いなトマトジュースしかなかったが、コップに注ぎ椅子に座る。そして黒歴史確定の妄想をした自分を罰するかの如く、懲役5秒罰金代わりの一気飲み。
(グエ〜まずいよ〜)
これで完全覚醒。
落ち着きを取り戻した育代は考えた。
(用件どうしよう……)
当然明日になればピコリンは用件を聞いてくる。今までは用件が本当にわけわからんちんだった為に自然体で用件を言えず驚愕したり質問をしたりしていた。しかし、その肝心の用件が己の恋心――しかも恋の上位互換である『エイリアンと結婚したい』という、まだ女学生の育代には時期尚早の大人への階段と異星結婚というタブーであろう願い事。
(…………)
育代は以下の選択肢を模索する。
①明日も質問等で引き伸ばす。
②適当な用件を伝える。
③妄想通り一世一代の告白する。つまり『エイリアンと結婚したい』要約すると『ピコリンと結婚したい』と正直に話す。
①に関しての育代の脳内。
(無理かも……しどろもどろになって、怒らせる可能性大だよ。それに先延ばししたってなんの解決にもならないよ……)
②に関しての育代の脳内。
(適当な用件? 何を言えばいいの? お菓子欲しいとかカワイイ洋服欲しいとか? ちょっと待って。エイリアンだよ? 日本のお金なんか持ってないし)
③に関しての育代の脳内。
(絶対無理!)
育代は色々現状、未来、妄想を同時に行なったため混乱してしまう。
(あ〜もう! わけわからんちんだよ! どうすればいいの!)
そして混乱した事でタンスの引き出しを開けた様なひらめき――
(あ……でも、適当な用件を言って終わったら、ピコリンはもう帰っちゃうの?)
もうピコリンとは会えないという引き出しを開けた育代。涙はでなかったが、少し胸が締め付けられ、握った拳を自らの胸にあてた。