どこかで見た事のある定番の座席。
(今日の朝はピコリンいなかったな……)
翌日、特に警戒していた訳ではなかったが、恒例の占いは見ず早めに自宅を出発し、登校一番のりを果たした誰もいない教室の座席――窓ぎわの一番後ろで頬杖をつき外を眺めながらボーッと考えてる育代。校庭では昨年全国大会に出場したソフトボール部が朝練をしている。キビキビとした組織的な動きで、さすがだなと育代も感心していた。
ガラガラ
誰かが登校して来た。育代は入口の方を振り返りクラスメイト用の社交辞令的な「おはよー」を発した。しかしそこにいたのはクラスメイトではない。
「おい。用件を言え」
「え?! ピ、ピコリ……ン?」
育代が語尾を躊躇したのは理由があった。なぜなら今日のピコリンは縦縞の野球ユニフォームを着用していたからだ。
「育代。お前、いちいち俺を見て驚くのはやめてくれないか?」
「……」
全く予想だにしない場所でまたしても現れたピコリンに返す言葉がない育代。しかし、すぐに我にかえる。
「ちょ! あな……ピコリン! どうやって入って来たの?! てか、ここ女子校だけど?」
「だからなんだ?」
すぐに育代に走る戦慄――間もなく多くの生徒が登校してくる。ピコリンが発見されたら大ごとになる……。もっと言うなら会話しているところを見られたら、自分がピコリンの知り合いだと思われ何を聞かれるかたまったもんじゃない。育代は語気を荒げ、思わずバン! と両手で机を叩き、立ち上がりながら言った。
「とりあえず今日は――ここじゃ駄目だから学校が終わったら話そうよ!」
「バカな事を言うな。俺はこの惑星で一日20分しか滞在出来ないのだぞ。何度も言ったはずだが?」
「わ、わかった! わかったから、とりあえず明日にして! 早く出てって!」
「おいおい。俺はわざわざ高い燃料費を使いやってきたのに門前払いはないだろ?」
「う、うるさいっ! 早く出てけ!」
「なんだ? 呼んだのは育代だぞ? 招かざる客みたいに言われる筋合いはないはずだが?」
「うるさい! うるさい! 早く!」
育代は教室の入口を開け、腕を払いのける様に振り、早急かつ迅速な退校を促す。
「仕方ないな。明日だな?」
「そうだよ! 早くっ!」
そう会話を交わすと、ピコリンは廊下を歩きだし立ち去る。育代もガラガラとドアを閉め、座席に戻る。
(絶対誰かに見つかるよ……大丈夫なのかな?)
色々と不安はあるが、とりあえず目の前から立ち去ったピコリンに安堵する育代。あとは校舎を出るであろう3分ほど、騒ぎが起きないか祈るばかり。
ガラガラ
「あ、育代ちゃん。おはよー」
クラスメイトが登校して来た。
「――あ、おはよー。大丈夫?」
「え? 何が?」
「あ、いや、なんでもない! アハハ……」
思わず何か異変はないか確認してしまった育代。しかし、逆にミイラ取りがミイラになりかけてしまい満面の笑みでごまかした。
そして再び、頬杖をつき外――今度は空を見上げる。
(なんで毎回違う服で来るの? しかも普段着です! みたいなオーラ出しちゃってさ)
(でも……似合ってたかな?)
大仕事を終えたはずの育代の口元は笑顔でかすかにほころんでいた。