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百合の花  作者: ふみりん
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百合の花

千代は花を育てるのも愛でるのも好きだ。庭には蘭や苔、色んな花が四季折々咲いている。それを床の間に生けたり、仏壇に飾ったりしている。先日真由美がひ孫を連れて会いにきた。初めてのひ孫を抱いた感触はマシュマロのようだった。色白で可愛い女の子、微笑むと笑ってくれる。赤ちゃんは宝物だ。どんな薬よりも効果があって幸せまで分けてくれる。

「ばぶばぶばぶー」

「キヤッキャッキヤッ」

「真由美ちゃん、子育て大変だけど頑張ってね。私なんか10人も育てたんだから何とかなるわよ」

と声をかけた。


千代は子が10人、孫が19人、ひ孫が1人といつの間にか多くの子孫に囲まれていた。人の一生には限りがある、それを子や孫に託しているのだろうか。千代が嫁いだ医院は四男が継ぎ、その後を孫が継いでくれるであろう。自分は役目を果たしたと言い聞かせた。


85歳を過ぎてからは千代は食が細くなった。少なくなった同級生も段々と旅立って仲の良い友人が一人東京にいるだけになった。

「寂しい」

「仕方のない事だけれど」

そんなある日、風邪で殆んど食べていなかったのに薬を飲んでいたせいでトイレで倒れてしまった。その後は嫁の家で過ごす日が続いていた。

暫くして、病気療養中の四女が亡くなった。元々身体が弱ったが一人息子を大事に育てていた。息子が成人になる前に息をひきとってさぞかし無念だったろう。千代は思った。自分で産んだ子供達が皆元気で命を全う出来たら良かったのにと。

千代は生涯で三人の子供を見送った。年を取ってからは辛さがより一層込み上げてくる。長生きも良いことばかりではないと感じていた。


体調が悪くなって千代は入院することになった。時々子供や孫か見舞に来てくれる。

病院では意識が遠退いたり、戻ったりして家族が駆けつけては大丈夫ですと説明を受けていた。意識が戻ると楽しかった日の事を思い出す。

やはり、皆で千代の手料理を美味しそうに食べた精進明けとお正月は最高に盛り上がっていた。あの頃は皆若くて元気だった。準備は大変だったが皆の元気な姿に千代は元気を貰っていたのかもしれない。


料理の得意だった千代は夫の喜ぶ顔と美味しいねと言ってくれるのを励みに好物を作っていた。

覚えた料理は忘れない。子供達にも教えた。母の味を覚えて欲しかった。


真由美は千代の作ったがんもどき、湯なます、素麺の味を覚えている。同じようには中々上手くいかない。


百合の花の様に、気品があって、一人でもしっかりと立っていられる明治生まれの千代は真由美のあこがれだった。


そんな千代は東京から会いにきた友人の言葉に安心したのかゆっくり目を閉じた。

「千代さん、私ももうすぐ逝くから待っててね」



明治生まれの千代は人に優しく、自分には厳しかった。どんなに辛くても踏ん張って生き抜いた千代は明治、大正、昭和、令和を逞しく生き抜いたのではないだろうか。

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