嫁と姑
どんなに良い嫁でも姑は何かと文句を言う。これは時代が移り変わっても仕方のない事のようだ。
息子を取られた母親は自分をもう一度誰よりも愛してほしいのだろうか?そんなことは叶わないとわかっているのに…
千代はかなり姑に厳しくされた。料理や家事はもちろんの事、子育て、舅の世話迄色々と口を出してきた。忠と2人ならどんなに良いだろうと思った事もあったが、口答えせずに言われた通りに「はい」と返事していた。忠が深く深く愛してくれる時だけが唯一自分だけの夫だと感じることができた。
戦争が終って次男は医者を目指した。地元の大学では納得せずに京都の大学で学びなおし、そのまま外科医になった。思うように学べる事の幸せを感じているようだった。そんな次男が結婚する事になった。京都の病院で看護師と出会った。美人でプロポーションも良い、男なら虜にされてしまうだろうとと千代は思った。願うなら同郷の人と考えたが自分達で決めたのなら親が口出しすることでもなかった。
「自分とは距離が出来てしまう」
その予感は的中した。京都で働いていたのでたまに実家に帰ってくる位で付き合いは殆どなかった。
「息子とはそんなもんだろう」
戦争で亡くした長男を思う。歯科医を目指して東京の大学に進学してたのに、志し半ばで生命を落とした。無念で仕方がない思いが込み上げてくる。仏に祈る。
「心穏やかに成仏してください」
千代はこの気持ちを一生持ち続けて過ごしていた。
高校の教師になった三男は見合いで結婚した。相手は同郷だったので孫の七五三や運動会等には家に呼んでくれた。専業主婦の嫁はとても気が利く。千代をいつも気遣ってくれた。遊びに行くと手料理でもてなしてくれる。
「お母さん、何かする事ありませんか?」
と言われるとついつい頼み事もしやすい。盆や正月には手伝いをしてくれ、お彼岸には、言わなくても花を買ってきて家族で墓参りしてくれた。この嫁とは上手くいきそうな気がした。
嫁の幸江は自分の事をどう思っているのだろう?
嫁にいった娘はよそ様の人、そんな気持ちもあって娘の家に泊まる事はなかった。嫁の家で食事をする時決めていることがある。多少味付けが好みに合わなくても文句を言わない。言えば嫁は気分を害することはわかっていた。心の内を大分嫁にはさらけ出したように思う。抱えきれない思いは溜めておくと良くない。夫が亡くなってからは友人のような付き合いをしていた。
四男の嫁は仕事をしている事もあって忙しそうだ。子供も4人いる。もちろん仕事しているので家政婦も雇っている。医院の後を継いでくれる男子が4番目に産まれた時は皆で大喜びした。10人産んだ千代だったが跡継ぎを育てると言うプレッシャーを嫁に与えていたのかもしれない。女とはいつの時代にも男と区別される。令和になって産まない人も増えてきたが、子供が欲しくて頑張っている人もいるし、せっかく産んでも育てられない人もいる。世の中はうまくいかない。
子供を産む道具と言う考えは薄れているようだか、働く女性に対する優しさを持っている男性は行かば懲りか、
愛だけでは育てていくのは難しいが、愛がなければ千代は10人も育てていくことは不可能だったように思う。