働きすぎた男、異世界でニートになる
ここはどこだ?
須藤怜二は目を覚ますと、見知らぬ天井を見上げていた。いや、天井と言えるのかも怪しい。木の板が粗雑に組まれた天井だ。
「……オフィスじゃない?」
怜二は上半身を起こし、あたりを見回した。狭い部屋。薄暗いが、どこか温かみのある空間。窓の外には緑豊かな森が広がり、小鳥のさえずりが聞こえる。
「はぁ……ここ、どこだよ……」
頭を抱えながら記憶をたどる。確か、仕事が終わらず徹夜続きで倒れた記憶がある。いや、終わらなかったというより、終わらせられなかった。上司に怒られ、同僚にもフォローされず、自分が無能なのだと痛感していた――そこで、意識が途切れたのだ。
「ああ……俺、死んだのか……?」
つぶやいた瞬間、不意に頭の中に声が響いた。
「スキル『ニート』を授けます」
「……は?」
怜二は固まった。いきなり頭に流れ込んできた情報に、現実感をまったく感じられない。
「スキル……ニート? 何だよそれ……」
声の主はもう何も言わない。ただその言葉だけを残して消えてしまった。怜二は呆然としながらも、ふと目の前に光る半透明のウィンドウが表示されていることに気づいた。
ステータス
名前:須藤怜二
職業:ニート
スキル:ニート
•働かないほど強くなる
•周囲が勝手にやってくれる
•怠惰の波動
「……はぁ?」
再び言葉を失う。いや、むしろツッコミどころしかない。「働かないほど強くなる」って何だよ。ふざけてるのか?
「俺、こんな人生望んでないぞ! 少しはまともに評価される生活が欲しかったんだ……」
しかし、反論してもウィンドウは消えない。代わりに、怜二の体に奇妙な力が満ちていく感覚があった。
「……ま、まぁ、働かないでいいなら、それはそれで……」
そう思い直した瞬間だった。
突然、ドアが勢いよく開いた。そこに立っていたのは金髪の少女だった。見たところ、16~17歳くらい。鋭い目つきに、腰には長剣を携えている。
「やっと目を覚ましたか! あなた、どれだけ寝てるのよ!」
怜二はその剣士の少女に呆然としながら答える。
「いや、起きたばっかなんだけど……」
「ふざけないで! 村は魔物に襲われてるのよ! 働けないようなら、せめて逃げる準備くらいしなさい!」
働けと言われた瞬間、怜二の体が自然と後ろへ下がった。
「いや……働くのは無理。俺、スキルがニートだから」
「はぁ!?」
少女の怒声が部屋中に響き渡る。