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第1話 魔女は聖女をさせられている

「皆様に神の御慈悲を〜」


 そう声を上げたのは、祭壇前に立つ私。まるで神話から抜け出したかのような真っ白な衣服をまとい、金糸の刺繍が絶妙に光を反射し神々しさをかもし出しています。


 そして天井から舞い落ちてくる虹色の光に人々は歓声と喜びの涙を流し打ち震えている。


 光が止むと私は、厳つい聖騎士とか言う輩に、両側に陣取られその場を退場して行く。それが私の仕事。




「ねぇ、そろそろ家に帰してもらえないかしら?」


 私は連れてこられた部屋で、待ち構えていた人物に言う。頭の上から被っている白いベールが鬱陶しいと投げ捨てながら。

 これも日課。


「代わりの者が見つかれば、いつでも帰ってもいいのですがね。残念ながら神託が無いのです」


 人の良さそうな笑みを浮かべて、毎回同じ返事をするのは、銀髪の麗人と言っていい男性です。

 ですが、私は中身は悪魔だと思っています。


「聖女という尊い役目を担える者は早々に現れることはないのですよ」

「だからって! 魔女を聖女に仕立てるのは、聖職者として駄目でしょう!」


 そうなのです。私は魔女。魔女はどうあがいても魔女以外に存在することができない者です。


 そんな魔女を、聖女に仕立てている目の前の麗人は、聖職者の皮を被った悪魔に違いありません。


「しかし貴女は私の依頼を受けましたね?」

「騙し討ちのようなやり方でね」


 魔女は魔女であるか故に、制約も多い。


「昔、気まぐれで助けるのではなかったわ」

「ええ、そのことは今でも感謝しております。白の魔女殿。ですから森に帰るという以外の貴女のわがままを聞いているではありませんか」


 白の魔女。私はそう呼ばれるほど色が無い。日に当たっていないかのような白い肌。老婆のような真っ白い髪。白いまつ毛に覆われているのは銀色の瞳。

 だから私は悠久の時から『白の魔女』と呼ばれている。


 魔女は森から生まれる。それは人のように赤子の姿ではなく、十歳ぐらいの姿で突然現れ、成人するまで姿は成長し、そのまま数百年過ごしたあと、朽ちて死ぬ。

 そしてまた森から生まれる。それを繰り返す生き物なのです。


 ですから私は何度生まれ変わろうと『白の魔女』なのです。


「魔女が森から離れられるのは百年ほどよ。それを過ぎれば私は枯れ木のように朽ちるわ」

「それも貴女から何度も聞いて、知っていますよ。長い魔女生の十数年ほど可愛い養い子の頼みぐらい聞いてくれてもいいではないですか」


 養い子。目の前の聖職者の皮を被った男は、その昔私が住んでいた『深淵の森』に捨てられたのです。

 五歳にも満たない子供でした。


 可哀想だと思い育てて、一人で生きていける十五歳の時に森から追い出したのです。なのに再び戻ってきて『白のお母様。癒して欲しい人がいるのです。私の願いを叶えてくださいますか?』と、今までの私には存在しなかった親心にぶち刺さる言葉を言うではないですか。


 ああ、この子にも大切に思える人ができたのかと思って了承すればこの有様。

 ええ『人』というのは個人ではなく、『民』ということだと知ったのは、陰謀渦巻く帝都に連れてこられたときです。


 この魔女を騙すなど、中身は悪魔に違いありません。


「ロベルトの可愛いは、あの森に置いてきたのでしょう。それで今日の残りの予定は何?」

「おや? 今日の愚痴はもういいのですか?」

「言っても何も変わらないもの。それより早く聖女というのを見つけるか、仕立て上げるかして欲しいわ」

「そればかりは、私個人ではどうにもなりませんね。今日はこれから二日ほどかけて、帝都周辺の町や村に行ってください」


 これは教会として、民に信仰を失わせないためのプロパガンダ。

 神はどのような者も見捨てないと、アピールを聖女である私はしなければならないのです。


 魔女である私が、神を語るなど笑えてきますわ。


「そう、勿論今回もついてきてくれるわよね?」


 私はロベルトに向かって笑みを浮かべ、否定は許さないと威圧的に言った。するとロベルトは、その言葉に綺麗な笑みを浮かべたのです。

 嫌な予感がしますわ。


「残念ながら私は、これから皇帝陛下の御前に行かなければなりませんので、付添は聖騎士リカルドになりますね」


 私はその言葉を言ったロベルトをジト目でみます。それを本気で言っているのかと。


「二日ということは、どこかで一泊宿泊するということよね?」

「そうですね」

「部屋の中に入って見張りとか無いわよね?」

「それは毎回のことですから、きちんと守ってくれますよ」

「だったらいいのだけど」


 魔女である私は魔女でしかない。その秘密がバレれば、ロベルトの立場は聖女の後ろ盾から、帝国を陥れようとする反逆者になってしまいます。


 私は別に、魔女裁判というどうでもいいものにかけられて、死ぬのはいいのです。だって私は魔女であり、魔女は再び森から生まれる存在なのですから。

 騙し討ちのように連れてこられたとはいえ、ロベルトは魔女である私に思わぬモノを与えてくれた存在です。


 反逆者という者にしないためにも、ロベルトが私と他の者たちの橋渡しをして欲しいのです。


 しかし皇帝から呼ばれているのであれば、仕方がありません。


「わかったわ」

「お見送りはさせていただきますよ」


 床に落ちている白いベールを拾い上げ、私の頭に再びかけてくる聖職者の皮を被った悪魔が笑った。

 凄く嫌な予感しかしないのです。





 私の荷物は既に用意されており、あとは私自身が馬車に乗り込めばいいだけの状態でした。


 そして、いかにも要人が乗っていると思わせる装飾の多い馬車に、教会のシンボルである四つ星と円を合わせた紋章がつけられています。


 開けられた馬車の中を見ますと、六人乗りの広々とした車内で、ゆったりと座れたり横になれるぐらい広いです。

 道中はゆっくりと過ごせそうと思える内装です。


 その御者席を背にした側に、威圧を放っている存在がいなければ。

 これ護衛というより見張りではないのでしょうか?


 その居心地が悪そうな馬車の中に入って、入口側に腰を下ろします。ええ、威圧的な気配を放っている存在の目の前には座りたくありません。


「二日間。よろしくお願いします」


 取り敢えず、挨拶だけはしておきます。

 するとこちらに漆黒の瞳を向けてきました。

 前から思っていますが、この聖騎士リカルドから嫌われているのですよね。


 ロベルトも人選を考えて欲しいものです。曲がりながらも表向きは聖女として装っているのです。私を聖女と慕ってくれている聖騎士がいる中で、何故にリカルドなのでしょう。


 私は見送りに来ているロベルトを睨みつけるも、いつも通りの胡散臭い笑顔を向けられるのみ。

 くっ! 戻ったら覚えておきなさいよ。




 帝都の中を馬車が走っている間は、私は笑顔で外に向かって手を振らないといけません。

 これも聖女の務め。


 私が聖女を押し付けられて一年ほどですが、帝都では中々の人気者になりつつあります。


 一つは見た目にインパクトがあり、人々から覚えられやすいというのがあるのでしょう。

 それからエフェクトが激しいパフォーマンス。


 早朝の礼拝で見せた虹色の光ですね。

 アレは光の魔法の応用で、何も効果がないただの光魔法です。ですが、礼拝に来られた皆様は有難いと喜んでいるのです。


 詐欺ですわね。


 そして極めつけが歴代の聖女の中でもトップクラスの回復魔法の使い手と……魔女ですからね。魔法に長けていて当たり前です。


 さて、そろそろ文句を言っていいかしら?


 帝都の中を抜けて人々に愛想を振りまくことをしなくてよくなったので、内側のカーテンを引いて、外からの光を遮断します。


「聖騎士リカルド。その……殺気立つのをやめてもらえませんか? ここには敵なんていないのですから」


 私は聖女前とした感じで、耳障りのいい声を出しながらリカルドに注意します。


「申し訳ございません。聖女アンジェリカ様」


 謝りながら、黒い瞳をこちらに向けて睨みつけないで欲しいものです。


 聖騎士リカルド。聖騎士の中でも腕が立つとロベルトは褒めていました。それはいいのです。

 黒髪に黒目で私と正反対の色をまとっているので、私の引き立て役にもいいでしょう。


 馬車の中で厳つい鎧は着ないで欲しいと、私が以前から言っているため、普通の聖騎士の隊服なのもいいです。

 因みに外で護衛している聖騎士は、誰が誰かわからない全身が鎧で覆われています。


 見た目は、何処かの貴族の血が流れていると思われるぐらいに容姿は整っています。

 聖騎士の中でも人当たりがよく、人気があるとロベルトは言っていました。


 その言葉に私は思わず『はい?』っと聞き返してしまいましたね。


 どこが人当たりがいいと? 毎回もの凄く睨みつけてきますし、とにかく威圧が酷い。


 くっ。私が二日間耐えきれるかどうかの問題になっています。せめて、ここにロベルトがいればロベルトを話し相手にして、時間を潰せましたのに、この道中をどうやり過ごせばいいのでしょうか?


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