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ちょっとアイディアが浮かんだのでかいておきました
俺には小さな頃から憧れている夢がある。
男なら誰しも一度は夢見るヒーロー。
人によってはお姫様、世界最強、スポーツ選手。
それが俺にとっては怪盗だった。
小学生――初めてアニメで怪盗を見たとき、怪盗は俺の心の奪い去っていった。
軽やかに、物おじせず、クールに宣言通りの物を盗んでいく。
そのキラキラした姿にいつの間にか釘付けになっていた。
さらには主役であるヒーローを食わんばかりに溢れ出るオーラ。
俺はテレビの中にいる怪盗に夢中になった。
これは現実ではない――アニメだ。
脳内ではわかってる。
それでも『怪盗』の二文字は溢れんばかりの輝きを俺に向かって放つ。
その輝きは収まることを知らず、今も俺の体を動かす原動力となっていた。
アニメを見終わったとき――俺は怪盗になることを決めた。
そこからは怪盗の勉強を夜通しで行うようになった。
朝ご飯を食べるときも、通学中も、風呂の中でも俺は勉強を止めなかった。
誰しも俺の夢を笑った。
最初は笑顔で俺の夢を笑っていた両親も、卒業の夢で俺の夢を笑ったやつも――誰もが俺の夢を笑った。
確かに、中世ならまだしも現代技術が発達した現代で怪盗になるのは馬鹿のすることだ。
馬鹿にしない方がおかしい。
俺が逆の立場だったら絶対馬鹿にしただろう。
別に笑われたからって恨んでいるわけでも復習する気もない。
ただ俺が諦める気にならないだけだ。
そして現在俺は営業のサラリーマンとして各所を練り歩いている。
◇◇◇
営業訪問を終え後輩と次の訪問先まで歩く。
「せーんぱーい。疲れました~。休憩しましょうよ~」
「ダメだ。後一件いくぞ」
まったく、これから後一件訪問しなくちゃいけないのに。
こいつの面倒まで見なきゃいけないのかよ。
適当な理由で帰らせるわけにもいかないし、困ったもんだ。
「せーんぱーい今にも溶けちゃいそうです~」
「ほらしっかりしろ。後ちょっとだぞ」
「あとちょっとって……帰りたい!帰りたい!帰りたい!」
現在夏真っ盛りである。
しかもよりによって一番きつい立地に、なんで俺たちが行くことに……!
横で相方は帰りたい帰りたいといつまでも喚いているし、うるさいこの上ない。
「せーんぱーい。先輩の肩に乗せてくださいよ~」
「はいはい、ふざけないで自分の荷物は自分で持つ!」
「ウエー。先輩のけちんぼ~」
まったくこの後輩は……少し持てるだけの荷物を持ってやるか。
後輩が付くまで近くの自動販売機で水を買っておく。
追いついた後輩に水を渡し、代わりに荷物をもらう。
後輩が俺に向かって笑顔を向ける。
そして坂を上るのを再開する。
後輩がすくすくと俺を残して上がっていきやがった。
しばらく上がっていたがきつい。
さすがに二人分の荷物を猛暑にもつのはきつい。
「どこか涼める場所……どこか涼める…」
残った体力を使い、日陰を探していく。
するとちょうどいい神社が見つかる。
「なんで住宅街に神社……?」
そんなことはどうでもいいとにかく涼める場所に入らないと……
涼みに入った神社はどこか他とは違った雰囲気を感じる。
まるで別世界に入ったような静けさと心地よさが俺を支配する。
周りには誰もいないはずなのに多方面から視線を感じる。
「不思議な空間だ……」
そして階段を上がったところにちょうどいい大きさの岩を見つける。
これなら座れそうだな。
俺は荷物を下ろし、腰を下ろす。
ちょうど俺の尻の形とフィットしていて座り心地が素晴らしい。
すぐに回復できそうだ。
しばらく座って回復した後俺はお賽銭箱の前に立ち、自動販売機のお釣りを投げ入れる。
俺は幼少のころからの夢である怪盗になりたい。
そう願った。
神社の神様は俗な願いはかなえてくれないというがそうだろうか。
俺の願いは俗だろうか。
しばらく経ったが俺の体に変化はない。
そうやら俺の願いは俗だったらしい。
落ち込む気分を振り立たせこの神社を出ようとする。
しかし、先ほど上がってきた階段が見えない。
――何かがおかしい。そう考えている俺の勘は当たった。
「どうかしたんですか?」
突如後ろからかかる声。
俺はバク転して離れる。
「わぁ!すごいですねぇ宙がえり。かこいいです」
なんだこの女は。
さっきまでいなかった場所に突如現れ話かけてきた。
どこからか降りてきたか?――否それなら音がするはずだ。
だがこの女は気配すらしなかった。
異常だ――俺は荷物を捨てて外に走り出す。
(いくら階段がなかろうがここは住宅街。
走ればすぐに外へ出れる。)
しばらく俺はあちこち走り回って出口を探す。
「出れるはずなんだが……出れない?」
「はい。一度ここに入ったものは二度と出ることが出来ません」
「何をいってるんだあんたは?なんなんだここ」
「うーんそういわれても、私には説明できる権利はないのです。ではお話を聞きに御屋形様に会いにいきますか?」
「ついていかなきゃいけないんだろ?」
俺はよくわからないまま女の後ろをついていく。
ついていけば出れるかもしれない。
そんな淡い希望を胸に付いていく。
◇◇◇
階段を上がるとそこは別世界だった。
さっきの神社の別世界とは文字通り世界が違う。
大地が浮かび、人が空を飛ぶ、果てには巨大な生物らしきものまでが歩きまわっている。
――なんだここは……
「ここは隠れ家。現世に付かれた者たちがたどり付く場所でございます」
声がした方を向くと絶世の美女と言っていい程の容姿を持った人が立っている。
「現世?じゃあここに居る化け物はなんだ?」
「フフフ化け物?あなたも化け物ではないですか?」
「は?何をいって――」
俺は近くにあった湖に顔をのぞかせる。
そこにいたのは人間ではなく正真正銘の眼鏡をつけた化け物だった。
「……ッ、何が起きてっ!」
「この隠れ家で現れるのは人間の表面ではなく内側。ズバリ魂が可視化されるのです」
「じゃあ、なんであんたは人間なんだ?」
「さぁなんでですかね?フフフ」
彼女から異様な雰囲気を感じる。
彼女は人間ではない。
俺の勘がそういっている。
そういわれると確かに人間離れした容姿に、立ち姿。
俺から見てもこんなにも人間味が無い人間は初めてだ。
「あんたが御屋形様か?とにかく俺を返してくれよ」
「……すみませんそれは出来ないのです」
「ここにきたら元の場所に帰れるんじゃないのか?さっき神社の人はここに来たら戻してくれるって……」
「誰ですか?それ」
「えっ……」
俺と彼女の間に沈黙が流れる。
いくらさっき会った人間の話をしようと分からないと言うだけ。
俺は諦めてここから出られない理由を聞いた。
「なんでここからでられないんだ?」
「それはここが到達地点だからです。ここに居る人々は現世から離れたくてここに導かれた方々。すでに現世の人々からは忘れ去られた存在なのです」
「じゃあ俺の存在は忘れ去られたってことか?」
「はい。今から戻ったとしても前のような生活は送れないでしょう。戸籍も人間関係も過去も全て無くなり、一人で生かねばならぬのです」
「そうか……俺は誰にも知らずに生きることになるのか」
一応は出れるらしいが出れたところで生きていけないだろう。
しかも俺の心は現世に飽きている。
子供の頃になりたかった怪盗。
現実はいくら鍛えようと現代の技術には敵わなかった。
「しかしあなた様は本来ここへ来ることが無い人。どうにかして現世に戻って頂きたいのです」
「ん?俺って本来ここに来るはずじゃなかったのか」
「はい。ここに居られる方々は歴史的大偉業を成し遂げた方や人々を救い続けた人。しかしあなたは普通のひとです。なので本来は来るはずがないのです」
「そうか……そうなのか。どうすればいいんだ?おれには何も残っていない。このまま戻ったところで死ぬのが落ちだ」
「はい。なのであなた様には緊急特別処置として特別な力を与えます」
彼女はそういうと溢れんばかりの笑顔を俺に向ける。
その特別な力はどうやら親方様のさらに上の人々が俺に与えて下さるらしい。
まぁ体のいい厄介払いだ。
魂が輝いていない俺をあの輝きの中に入れたくないんだろう。
「その特別な力ってなんだ?」
「はいそれは超能力です。しかし超能力といてビルを浮かせたり、音速の速さで移動したりするることは出来ません」
「じゃぁ何ができるんだ?」
「それはご自分でお確かめください。ではそろそろ時間となりますので元の位置へ戻させてもらいます。ではごきげんよう」
「ちょっ、待てっ!」
次の瞬間視界がゆがむ。
そして気付いたときには目の前にあの急な坂が――そして先ほどまであったはずの神社はいつのまにか空き地の看板がさしてある。
そこには何もなかった。
「あーこんな所に~」
坂の上から声がする。
あのうるさい後輩だ。
「まぁたっく、資料がどこいったのか冷や冷やしたよ~」
「よしじゃぁさっさと訪問先行って終わらせるとするか」
「ん?誰ですかあなた?」
「…………あっ、なんでもないです。すみません」
俺は美人に言われたことを思い出した。
どうやら俺は本当にみんなの記憶から消えてしまったようだ。
虚しさが心を通り抜ける。
自分が消えるのがこんなにも怖いのか……
俺はどこへ行くこともなく腰を下ろす。
これからどうしようか。
◇◇◇
俺は坂を下り駅に戻る。
切符を買い、とにかく田舎へ向かっていく。
ある程度都心部から離れた場所に付いた。
そこには空き地や団地の廃墟、草木が生い茂っている河川敷。
隠れ住むのにはピッタリの場所だった。
俺はここに住む――ここで新しい人生を始めるんだ。
俺は早速貰ったという超能力を使用してみる。
コツがあるのかと思ったが念じたらすぐに使用することが出来た。
目の前の小石が少しずつ浮いていく。
小石が浮いたの確認し、ほかにも小石を浮かせえることは出来ないか確認していく。
二個目の小石は難なく浮かせることが出来たが、三個目からは小石が上下にふわふわしていて、不安定だ。
浮かせる質量の違いで浮かせる個数が違うのかもしれないな。
次は河川敷に落ちている巨大な岩を持ち上げようとする。
少し持ち上げるのに苦労したが、上げることに成功した。
だが少しでも意識を離したら落としてしまいそうだ。
試しに意識を他の岩に向けて超能力を使てみる。
他の岩を持ち上げた瞬間目の前の岩がフラフラし始める。
これはまずい!
岩を川目掛けて全力で投げる。
ドボーーン
川が大きな泡をたてて水が上がる。
持ち上げるのには訓練しなくてはいけないらしい。
訓練したら持ち上げ可能な質量も個数も増えるだろうか?
とにかく今は鍛えよう。
次は何を実証しようか考えていたその時、頭の中に声が響く。
《念力を獲得。次に獲得可能なのは超念力です》
俺は頭の中に響くをれをすんなり受け入れることが出来た。
あんな超常的存在を目のあたりにしたら、頭の中に突如響く声もあながち不思議ではないと感じてしまう。
ともあれ次にやることは決まった。
超念力を取得することだ。
俺は早速川に投げた岩を浮かばせ、ほかの岩も限界まで持ち上げる。
それを日が暮れる程繰り返していると超念力獲得のアナウンスが鳴る。
《超念力を獲得》
次に獲得できるのは何もないみたいだ。
だがどこまで物を浮かせれるか試したい。
次の日も俺は河川敷にいき複数の岩を持ち上げる。
しばらく岩を持ち上げ訓練を行う。
持ち上げ可能質量は増えていったが、ここ最近伸びがよくない。
個数の方は100個を超えた時点で一個目の石に念力を使用しても浮かばなくなる。
同時に浮かべることのできる個数は100個だけらしい。
また新たな超能力を確かめようとしたその時……廃墟の外から音がなる
「ここね夜な夜な川に向かって死体が投げ出されてる廃墟は!早速撮影よ~!」
「えーやだよー早く帰ろうよー」
「グダグダ言わないの、さっさとカメラをとる!」
そこには内気な少年と陽気な少女が和気あいあいと言い合っていた。
少女はこの廃墟が夜な夜な死体が川に投げ込まれているホラースポットだという。
少年の方はすぐに帰りたい様子だ。
(もしかして俺が夜岩を川に向かって投げているのを死体だと勘違いしたか?)
どうやら誰かに見られておりそれが噂話となって地域を回っている可能性がある。
あの少女は自分で見つけたとは言っていない。
100%誰かに聞いたな。
ここには居られないな。
気に入ってたのに。
俺は落ち込む気分を抑えて少年少女の話に意識を戻す。
「やだよー帰りたいよ~」
「あ~もうわかったからここにカメラをセットしてさっさと帰るわよ!」
「ワァ~やった早く帰ろう、帰ろう!」
少女がそういうと少年はカメラをセットし帰宅する。
少年少女が廃墟から出ていったのを確認する。
《索敵を獲得》
新しい超能力だ。
名前からして周りにいる人間を索敵するのだろう。
俺はカメラの電源をきりながら新しい超能力で何ができるか考える。
「よし、早速索敵を使用してみるか」
俺は索敵を使用する。
脳内にマップのような物が表示される。
どうやらこのマップを見て索敵するらしい。
気配の感覚が研ぎ澄まされる感覚だ。
どれくらい持続して発動できるか確認しなくては……
ガサガサ
索敵がどれくらい持続するか確認しようとした時、廃墟の外に気配を感じる。
急いで索敵を使用すると二人の気配のが近づいてくるのを感じる。
先ほどの二人組が戻って来たようだ。
すぐ目の前まで気配が迫っている。
カメラがあるこの開けた場所で隠れる場所はない!
隠れなきゃいけない―― どうする俺!
《変身を獲得しました》
頭の中に再度アナウンスが流れる。
助かる。
とにかく変身!
すると体から光が溢れる。
ドン!――廃墟のドアが勢い良く開かれる
「カメラの電源か切れたからきてみたら……なんか光ってる!」
「お姉ちゃんこれやばい奴だよ~早く逃げようよ~」
「うるさいわね!これは私が有名になれるビックチャンスよー!」
彼女は光る俺に向かってスマホをかざす。
次の瞬間光が収まる。
光が収まったスマホの画面には真っ白なスーツを着た俺が映る。
「な、なにあいつ――真っ白なスーツ?」
「あ、あ、あの!すいません、すぐ帰りますので!お姉ちゃん早く帰るよ!」
「帰るわけないでしょ!」
俺は顔を見られないように後ろを向き外へ歩き出す。
「ちょ、ちょっとあんた待ちなさいよ!」
これ以上近くにいるんのはリスクが大きい。
さっさと離脱しなくちゃな。
俺は変身を再度使用し光を出す。
その光を利用し俺は廃墟を後にする。
月明かりに照らされた変身スーツは白いのが相まってとても幻想的だった。
◇◇◇
「キャーきっとあれは宇宙人よ、宇宙人!これで私も有名人よ~」
「お、お姉ちゃんあれは宇宙人じゃないよ」
「ハア~あれが宇宙人じゃなかったらなんだって言うのよ!」
「だ、だってあれは人型の体系してたし、僕たちの言葉を理解してたよ」
八ッこれだから弟は浪漫にかけるのよ。
あれは誰がどう見立て宇宙人じゃない。
真っ白いスーツだったし、変な仮面みたいなのつけてたし。
そして何より光ってたし!
――彼女の目の前のスマホには投稿完了の文字
(これで私も明日から有名人よ~~~)