腹の中
三題噺もどき―ひゃくにじゅう。
※描写注意※
お題:殺人鬼・泣く・終末論
「――ん、、、」
窓を叩く雨音で目が覚めた。
大粒の雨が降っているのか、かなり大きな音が部屋に響いていた。
バチバチと窓を叩く雨は、止む様子が全くない。
開いていたカーテンから見える空模様も、暗い色に覆われている。
「……、」
いつの間に眠っていたかは分からないが…朝起きて外を見たときは晴れていた…今日は午後あたりから雲行きが怪しくなると言っていたから…それが正確であれば、午後の何時かではあるだろう。
時間を確認しようと、手元に置いていたスマホの電源を入れてみるが…起きない。
「……、」
まさかと思い、充電器を刺しているはずの部分を確認するが…こっちは刺さっている。
コンセントを刺し忘れたかと思ったが、そういうわけではないようだ。
そもそも今朝、充電器をはずした覚えはない。
「……、」
ま、いいか。
昨日の夜から刺さっていなかったのかもしれない。
それに気づかないまま使用して、放置したせいで充電が切れたのかもしれない。
そうでなくては、スマホが起きない理由が分からない。
間違えて電源を元から切ったのかと思い試したが、それもできないので充電が切れたのだろう。
「……、」
コンセント部分を確認した方がいいかとも思ったが、どうもそういう気持ちにもならない。
起きてすぐは、なぜこんなにも動く気にならないのだろう。
頭が働かないのもあるだろうが、体が動くことを拒否しているようにも思える。
自室のベットに寝転んでいるのだが、腕を動かそうにも持っていたスマホを持ち上げただけで疲れたし、足を動かそうにもピクリともしない。
動かないというよりは、力が入らないという感覚に近い。
体を仰向けにするぐらいはできるのだが、それ以上の動作はどうにも気が向かない。
さらに言ってしまえば、頭を動かすのも、眼球を動かすのも、呼吸をすることも面倒である。
「……、」
まぁ、呼吸は勝手にするから、めんどくさいも何もないのだが。
―心臓も勝手に動くもんだから、無駄に体温が上がってしまいめんどくさい。
寝起きはいつもこうなのだ。
動くのは億劫で面倒くさいのに、無駄に動く心臓のせいで体温だけが上がっていく。
それで自分が生きていることが無理やり思い知らされて、働けと働かなくてはいけないと、言い聞かされるのだ。
「……、」
とはいえ、そろそろ動くことにしよう。
いつまでもこうダラリとしていては、何もできなくなってしまう。
こんな時間に―今が何時かは正確には分からないが―目が覚めた所でたいしたことはできないだろうが。
何もしないまま、一日が終わってしまうと、次に日にまで影響が及ぶので、何かしらはすることにしよう。
「……、」
しかし、何をしたものか。
今日は仕事も特にないし、明日の仕事の準備も終わらせてしまっている。
―ちなみに、仕事というのは、どこかの誰かの命をいただくことである。
物心ついたころから、この仕事をしていた。
業界ではなかなかに有名人だったりする。
私の親―と思われる人も世間一般では大量の命を奪う、快楽主義の殺人鬼として知られていたようだ。
何かがあって、死にはしたが、あれでも一応親。
そういう私も世間一般で言えば殺人鬼ではあるのだが。
多くの命を頂いて、文字通り食してきたから。
案外まずくはないものなのだ。
ちゃんとした処理をしたうえで、という話にはなるが。
「……、」
というか、久しぶりの休みだから、何もしなくてもいいのでは…?
スマホの電源を入れれば、大量の連絡が来ている可能性もなくはないが、その時はその時である。
適当にいなせばどうにでもなる。
そうと決まれば、もうひと眠りと行こう。
幸いなことにスマホも寝ているから、起こされる事はあるまい。
―と、目を閉じ、意識を話そうとしたところで、大きな物音がした。
「……?」
ガシャン!!!
どこかの窓ガラスが割れたのか、割られたのか、そんな音だった。
しかしどちらにせよ、平和なことではあるまい。
「……」
全く、私は平和主義の人間なのに。
無駄な、無益な殺生はしたくないのだが、これは仕方があるまい。
そろそろ、腹も減っていたようだし、腹ごしらえをするには丁度いい。
「……」
静かに、起き上がろうと、体に、力を入れ、
「??
るが、動かない。
なぜだ―?
それほどまでに疲労が溜まっていたのか…?
確かに重労働ではあるが、ここまでなったことはない。
そも、昨日の仕事は簡単なものが多くて、はしごしてやったぐらいなのだ。
おかげで、食料にも困らないくらいに、だから、久しぶりに腹いっぱいに、食べて、起きてすぐは、そこまで、減っても居なかった。
しかし、今になって、食料の気配を感じたせいか、やけに腹が減るのだ。
とてもとても、腹が空いている。
「……?」
そのせいで動けないのか?
腹が空いているせいで?
それこそあり得ない。
今までだって、そんなこと何度もあった。
しかし、この程度で動けなくなるほど年でもない。
では、な、ぜ
「―っぐ!?
突然痛みに襲われる。
丁度、空いている腹のあたり。
やけに、そこだけが、熱い。
なんだ、何が起こって
「――?、、??」
混乱しているさなか、誰かの気配がした。
誰だ
今は、状況が、分からない
忙しい、何が、、起こって、何だ、
「!
混乱している、私の目の前に、ナニカが現れた。
上から、見下ろすように。
目深にフードを被っているせいか、顔があまりよく見えない。
ただ、にやりと嗤う、その口元だけが、はっきりと見えた。
「―っぁ?!!??
さらに強い痛みに襲われる、
唯一動くことが許されている眼球を、ゆっくりと動かす、
なにが、
「?……????」
私の、
腹に、
ナニカの、
目の前でニタリと、嗤う、
ナニカの、
手…?
手が、
ズズ、ズブ、ズッズ、ブ、
腹に、
入り、?
グちゃと、かき回す。
「 」
声にならない悲鳴が漏れた。
何が、起こって、何が、どうなって、、、、?
「 ?」
スリーとナニカの指が頬に触れた。
なんだ、泣いていたのか、私は。
やけに目のあたりが暑いと思った。
腹の暑さで、何が何だか、分からなくなっていた。
なんともお優しいものだ、わざわざ拭ってくれるとは。
「 」
ぐちゃ――
とさらにかき回される。
もう全身の感覚がない。
痛みというものも、感じなくなって来た。
視界もゆがみ、世界が静かに崩壊していくようだった。
かの有名な終末論は、世界が、人が、破滅するのだと、唱っていたが、それはこんな風に目に映るのだろうか。
静かに、音もなくゆがみ、ガタガタと崩れていくのだろうか。
「 」
霞む視界で、その隅で、にやりと嗤っていた何かが、なぜか、泣いていた。
「――ん、、、」
いつの間に眠っていたのか…窓を叩く雨音で目が覚めた。
何時だ―と思いスマホを確認すると、大量の連絡が来ていた。
やばい―と飛び起きる。
「――った、」
瞬間、腹部を痛みが襲ったが、それどころではない。
早く、仕事に行かなくては。