第6話 停止
え、いやいやいやいや、この人が年上?全然そんな風に見えなかったんだけど?というか今も年上に見えてないんだけど?
「本当‥‥ですよね‥?それ。」
「え、なんでそんなに驚いてるんですか?」
当の本人は全く自覚なさそうだし。とりあえず、一応丁寧語は使っておこう。
「いや、ちょっと‥。それで、19歳って本当ですか?」
「なんで嘘だと思ってるんですか?」
「いや、なんか身長とか、口調とか……?」
彼女の健気で純粋そうな口調には、人生経験のいい意味での浅さが表れていると思う。ちなみに彼女の身長は160ないくらいだろうか。
「そうなると、私は全然成長していないということに……。」
「いやそういう意味ではなく、翠さんの人当たりの柔らかさが、どこか後輩感があるというか。それは、個性として良いことだと思いますよ。」
「本当ですかぁ?」
めちゃくちゃ疑ってるのが伝わってくる口調で聞いてくる。もうこの1フレーズからも後輩感が感じられるんだけど、本人ガチで全く自覚ないんだな。
「いや本当本当。」
「そこまで言ってくれるなら、まあ、分かりました。」
翠さん、若干というかかなり浮き沈みが激しい一面があるな?
「で……、」
俺は重い口を開く。
「?」
「昨日会ってから今まで、年上みたいな態度とっててすみませんでしたー!」
マジで年上だとか夢にも思ってなかったから、めちゃくちゃフランクな態度だったよ。
‥‥‥‥‥‥
「……。」
「……。」
沈黙が流れる。もしかして、今更謝ったことで怒らせちゃったか……?
「なんでそんなことで謝るんですか?」
「え、いや、それが普通だと思いますけど。」
‥‥全く怒ってなかった。
「そーなんですか。あんまりそんなことは考えたこともなかったというか……。」
「いや今までどうやって生きてきたんですか……。」
「いつもこんな感じだっただけですけど……?」
「あー。」
こんだけ丁寧に異常者かもしれない人と話をしてたんだもんな。そりゃ今までも困らなかっただろう。
ここでふと気になった俺は、あることを聞いてみる。
「翠さんって、なんでそんなに丁寧な口調で話をするんですか?」
「親がこの口調で話をするよう、教えてくれたんですよ。だから、その通りにしています。」
「相当両親を慕っているんですね。俺だったら多分、高校、いや中学校入ったらそんなの言うこと聞かなくなっちゃうと思います。」
「両親は、私なんかでは遠く及ばないレベルの風祝です。それを尊敬しないなんて、不可能極まりないです。」
‥‥風祝としてのレベルの違いなんて、そんなに大きなものなのか?俺はそう聞きたくなったが、俺にはわからない世界なのだろう。そう思い、俺はこれについて掘り下げるのは止めることにした。どことなく、翠さんの表情も、この話題になってから暗くなったようにも思えるし。勘違いかもしれないけど。まあ、よくわからないことは避けておくに越したことはないしな。
「なるほど。」
無難を極めた返事をしておいた。
「「よし、終わり!」」
全てを片付け終わったときには、時間はもう11時くらいになっていた。もう家に帰って、親に直接話ができるような時間ではない。
「ちょっと、家帰っても親が仕事戻っちゃってると思うので、ここでLINEで連絡しますね。」
「ああ、はい。いいですよ。」
翠さんの、俺がここにいるのをまだ許容してくれる返事にほっとしながら、俺はスマホを開いた。