第4話 目覚め
「うぁぁぁあ。あー。‥ん?」
いつ寝たかもわからないが、いつの間にか眠っていたらしい俺が目を開けると、そこには見たことのない景色があった。
「どこだ‥‥?ここ‥。」
床が畳である時点で家ではない。そもそも、俺んち布団派じゃないし。しかも、家であれば必ずする、トーストの匂いがない。代わりに、味噌汁とご飯の匂いが漂っていた。
「あ、やっと起きたんですね。」
「ん?……あ、あー。」
そういえば、昨日はなんか街をフラフラして、神社に辿り着いたんだっけ。んで、この少女(同い年くらいだろうけど)と出会って、軽く話をしたんだった。
「あれ、俺昨日、最後どうなったんですっけ?自分でここへ来た記憶がないんですけど‥。というか、ここは‥?」
「それなんですけど‥‥昨日、風早さんは、何かここに来た理由を思い出そうとしたら、頭を抑えて、倒れ込んでしまったんですよ‥。」
「え……、あ、あぁ。‥そうなんだ。」
「大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ、大丈夫。だけど‥なんだろう、自分自身が信じられない感じがして、昨日家を出るよりも前のことを考えようとすると‥‥凄い不快感が身体にまとわりついてくる。今でも。」
「そんな‥‥、大丈夫じゃないですよ!それ!」
「いや、昨日のよりは多分比べ物にならないくらいには軽いから大丈夫だと思う。」
「そうですか‥、本当にそうは見えませんけれど‥。」
「いや、本当に大丈夫。」
まあ、本当に極々軽い不快感だし、生活していくうえでは問題ないだろう。過去を思い出すのを避ければいい話だしな。
「で、話題ずれちゃったんですけど、この場所はどこなんですか?」
「ここは‥、光風神社の部屋の一室。来客者用の部屋です。」
「‥‥『光風神社』?」
「あ!ここの名前です!‥‥ご存知ないですか……。そうですよね、この山の中にあって風祝もまだ修行中の神社なんて‥知らないですよね‥‥。」
マズい。完全に地雷だった。
「あ、いや、知らないっていうか‥、あのそのあの‥‥あ!そうそう!ちょっと前のこと思い出すのがツラいんだよ!だからちょっと、ね?」
「‥‥‥‥昨日家を出る以前を思い出すのがツラいのではなかったんですか?」
痛いところを突いてきたな。ていうか、一応フォローだったんだけど?なんで俺がつっこまれて困ってんだ。
「いやー‥、まあまあまあ。」
適当に言葉を濁す。
「で、ここが神社なのは分かった。昨日、笛の音に釣られて神社に行った記憶はあるし。」
現状を理解したことを伝えて俺は続ける。
「じゃあ、ありがとうございました。ろくにお金がないので何もお礼が出来ないのが心苦しいですが、もうさすがに家に帰ります。本当にありがとうございました。」
よし、少ない荷物だけど、何も忘れないようにしないとな。
「ご飯あるので、せっかくなら食べていきませんか?」
「え。」
なぜご飯があるのか、すぐに俺は理解できなかったが、『ご飯』というワードで、空腹状態なのを理解した俺のお腹が声を上げた。
グゥゥ
「「あっ。」」
声が重なった。
「じゃあ、いただいていきます‥‥。」
こんな謎の場所で、謎の少女とご飯を食べるなんて警戒すべきだろう。しかし、彼女は俺の、どこか足りない部分を満たしてくれるような安心感があった。この建物にも、そんな空気が漂っている。そして何より……、どうせ錯覚だろうけれど、彼女もどこか俺にここに居てほしいように見えて、俺はここで朝食をとることに決めた。