第1話 脱出
「やっぱり光が交差する街は綺麗だなぁ‥。」
高層マンションの21階、ライトアップされた電波塔が何にも遮られずに目に入ってくる部屋に、俺、風早優は立っていた。何をするでもなく、ただ立っていた。
「……二人どこか、誰も知らない場所へ‥‥。」
なんとなく、最近流行っている曲を口ずさんだ俺はおもむろにカーテンを閉めると、あるものを探し始めていた。
「どこに行ったかなぁ。本当にどこかにやっちゃったのかすらも分かんないな。」
探しているものが見当たらない俺は、また気分が変わってソファに寝転がりそうになるが、直前であることを思い出した。
「そうだ、今日は親から元の場所に戻せって言われないように、ちゃんと玄関の空き箱に鍵入れといたんだった。ヤバいヤバい。」
そう、俺は鍵を探していた。鍵を持った俺は、ダイニングテーブルの上に軽いメモだけ書き残し、部屋を出た。
エレベーターを使って一気に下まで降りた。静かにエレベーターの扉が開く。エントランスは誰もいないのに、豪華な天井のライトは、煌々と明かりがついていた。『節電中につき、照明を暗くしています。ご了承下さい。』壁に貼られた紙切れが目に入る。
「最近節電してなくねーか?」
こんなに煌々とついていて、節電はないだろう。いつからかは忘れたが、このマンションは節電に気を使わなくなったような気がする。‥まあ、そんなことはどうでもいい。出かけよう。
外に出ると、街は光が攻撃的なまでに飛び交っていた。「目ぇ痛ぇ‥。」
光の強さに驚きつつも、俺は繁華街の方へ向かう。