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8. 恋敵

(マーク視点です)

 ウェンディの事務所に取り残されたマークは、だいぶ不機嫌(ふきげん)で無言のまま突っ立っていた。そして外の警備兵たちが皆()()げると、マークは力無(ちからな)椅子(いす)に体を投げ出した。


 ショックだった。


 ウェンディの婚約者とかいうイケメンを見てしまったので。


「けっ、ほんとにイケメンじゃねーか……」

 マークは歯ぎしりしながら、思わず(つぶや)いた。


 ウェンディに婚約者ができたと聞いたとき、マークは「へー」と言ったきり、それ以上は深く何も思わなかった。今思えば、頭が拒否していたのかもしれない。しかしこうして実物を見てしまうと、受け入れざるを得ない。


 ウェンディ。あいつも本当に、どこぞのご令嬢だったんだなぁ。確かにいつも仕立ての良い服を着ていたが、謎な三つ編みに化粧気のない顔、アクセサリーの一つも身につけず、色気ゼロ、男っ気なし。商家の娘の方がよっぽど華やかだった。ウェンディといえば、口を開けば珍しい家畜、家畜、家畜……たまに(もう)け話。本当に貴族か?という有り様。


 だが、確かにあいつは手堅(てがた)大口(おおぐち)の商売は何一つしなかったし、お金より人情を優先させることが多々あった。港での商いは、御令嬢の遊びと言われてもおかしくなかったのかもしれない。


 悔しかったのは、ウェンディがスコットの隣に立った時、それはそれで意外としっくりきていたことだった。


 あんなに飾りっ気がなく、男を見ればいつも異様な、不審とも言える警戒を見せていたウェンディが、だ。


 育ちなのだろうか。身分なのだろうか。目には見えないけれど、確かに二人を同じ空気が包んでいたのだ。


「やられた」とマークは思った。


 18歳のいけてない女子を何故(なぜ)か自分のもののように思っていて、彼女を実際に手に入れることなんて真面目(まじめ)に考えたことはなかった。


 でもあの男は多分違う。


 ウェンディを心配していたのは多分本心だったし、婚約と言う正当な方法で、きっちりウェンディを(つか)まえに来ていた。


 物好きの遊びなんかではなく、あいつは多分本当に、一人の女としてウェンディを見ている気がする。


 マークはため息をついた。


 じゃあ俺にはもうこれ以上、出る幕なんかないじゃないか。酒も飲む気になれねぇ。


 マークは(いさぎよ)い身の振り方を考えることにした。


 その時、事務所の入り口の方で物音がした。


 自分の中に入り込んでいたマークは、現実に引き戻され、はっと顔を上げた。


 マギーだった。


「あら、なんか、こんなところに負け犬」

 マギーは相変わらず辛辣(しんらつ)だ。


「うるせー、マギー」

 マークは怒鳴(どな)った。


 マギーは(あき)れてため息をついた。

「あーうるさい。うちのお嬢様が心配してましたよ。あんたの様子が変だって。私には理由がすぐわかりましたけど。うちのお嬢様はそういうこと、とんと(うと)いもので」


「そうか」


「イケメンですよね、スコット様」


「ああ。あいつが好きそうな」


「悔しいですか?」


「うるせー」


 そう言ってマークが顔を背けたので、マギーはもう一度ため息をついた。


「私はお嬢様に、何て言っといたらいいですかね」


「知るか」


「そんなに不貞腐(ふてくさ)れないでください、マーク。スコット様が現れるまでは、私は唯一あなたに希望を見出してたんですから」


「は?」

 マークは驚いて顔を上げた。マギーの目にぶつかる。


「だってお嬢様を一生一人にしとくわけにはいかないので。かといって理解のない殿方のところに(とつ)がれるのも、何か違うなと思ってましたので」


「ばか。身分が違うだろ。それに婚約者ができたんだからもういいだろ」

 マークは(そく)否定した。


「ええ……。でもお嬢様には、あなたが必要だと思うんです、これからも。特にこの港では」


「ああ。わかってる。これっきりにしようなんて思ってないから、安心しろ」

 マークはぶっきらぼうに答えた。


 マギーは少し安心した顔をした。

「助かります」


それから少し声のトーンを変えていった。


「スコット様ですが、このポルトロー港に探し物があるようなんです。その内容によっては、お嬢様との事もどうなるかわかりません」


「ん? ここに探し物?」

 マークは怪訝(けげん)そうな顔をした。


「はい。それはまだ調べている途中ですけれども」

 マギーは言った。


 マークはマギーの顔を見てから聞いた。

「あの男は自分の口からは言わないのか?」


「はい、言いません。私もお嬢様も、スコット様に難点(なんてん)をつけるとしたら、思ったことをはっきりと(おっしゃ)らないところ、何を考えているかわからないというところでしょうかね」


「はは、それは、少し厄介(やっかい)だ」

 マークは(かわ)いた笑いを浮かべた。

「でも、ウェンディの好きそうなイケメンなんだから、そんな短所(たんしょ)帳消(ちょうけ)しだな」


「そうですね。あなたに言うのも悪いんですけど、ウェンディ様がスコット様を異性として意識していらっしゃるのが珍しいんで、私も目を(つむ)ろうと思ってます。でも、やっぱり隠し事があるとスッキリしないんで……」

とマギーは言った。


 マークは下を向いた。

「分かったよ。そいつが何か(たくら)んでいるなら、ウェンディとの結婚の前に、はっきりさせてやろう。ウェンディの婚約者と言われちゃあ、俺も気持ち悪いしな。で、あいつの名前は」


「スコット・クロフォード公爵令息です」

とマギーは答えた。


「そうか、分かった」

とマークは()け合い、

「お願いします」

とマギーは頭を下げた。


 またマギーに丸め込まれてしまったな、とマークは思った。


 俺は、ウェンディのそばにマギーがいるから安心できる。マギーがウェンディをなんやかんやで守ってくれる。


 マギーがウェンディを裏切ることなんかがあったら、大変だ。そればっかりは、ぞっとする。

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