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うつりかわりゆくもの

作者: 鷹士 心

 大学を卒業した君が、ここを去ってからもう5年が経ちました。今でもまだ、君の香りが残っている気がします。

 覚えていますか?君が高校を卒業した後、大学生となったあの日々の事を。

 君は引っ越したばかりのこの部屋で、初めての一人暮らしだと期待に胸を膨らませ、笑顔を絶やさなかった夜。

 入学式の日。部屋の隅に置かれた姿鏡の前で真新しい服に身を包み、緊張しながらも鏡に映る自分に微笑む朝を。

 それから君はとても真面目で、帰って来るとまずパソコンを開き、熱心に画面と向き合っていましたね。

 たまに、パソコンを閉じたかと思うと、スマートフォンを片手にロフトで寝転がっていましたね。息抜きは確かに大事です。君はとても頑張り屋さんだから特に。

 そしてここでのそんな君も愛おしく、また微笑ましくも想い、見つめる日々を懐かしく思います。


 月日は流れ、大学生活にも慣れた君はアルバイトを始めると、夜遅くに帰ってくる日もあり、流石に心配しました。

 そんな日々が続くなかで、僕と君との時間がなかなか合わなくなったあの日、僕はつい怒鳴ってしまった事を今でも後悔しています。…それでもあの日々の事、僕は君に知ってほしかった。とても悲しい時間だったと。


 そして1年が過ぎ、アルバイトにも慣れていた君が、いつにも増した笑顔で帰って来た、あの日の夜のロフト。君は今でも知らないことだと思います。正直に言えるなら…実はあの時、僕は君のその愛おしい顔を見る事が出来ませんでした。

 それでも、君だけを愛している事は真実で、だからこそあの時僕は感情を高ぶらせたんだ。

 それからも2人で愛し合った後、君は決まって余韻に浸った後、汗を流しにお風呂場へと向かっていましたね。

 そんな幾夜を重ね、月日が過ぎ去っていきました。


 覚えていますか?あの夜、不安いっぱいな表情で突然トイレに籠もった君はなかなか出て来ませんでした。

 あの時、君と同じように、僕もとても不安で、何よりも君の身体をとても心配しました。

 トイレから出てきた君の、あの時の安心しきった表情に、僕も一緒に安堵のため息をつきました。あの時は「本当に良かった」と、今でも思っています。


 それからすぐの事でしたね?

 あの夜、僕が帰ると君は1人、暗い部屋で静かに泣いていましたね。あの時、そんな君を見て、僕は君に何もしてあげられなかった自分に今でも腹が立ちます。

 それでも君は、日が経つとまたいつもの素敵な笑顔を見せてくれました。

 その笑顔で何度も何度も僕は安心し、幾度と和ませてもらった事か。


 料理が苦手な君はいつもコンビニで、あるいは外食で食事を済ませていましたね。

 …1度で構わないから、ここで君の手料理が食べてみたかったと今でも夢を見ます。


 ……あぁ、やっぱり僕は君を忘れる事が出来ないようです。

 だからこそ僕も、この部屋から出て行く事にしました。次の部屋も、もう決めてあるんです。

 君が大学を卒業し、社会人になったあの日のように。

 君が、ここから移り変わったその部屋へ、僕も行きます。

 ここには君との想い出がいっぱい詰まっています。

 名残惜しいですが、季節や環境もまた移り変わりゆくものです。

 だから今、僕はとても楽しみなんです。また、あの日のように部屋いっぱいの君の残り香が毎日堪能出来ると思うと、興奮してまた眠れなくなる夜が続く事でしょう。

 考えるだけで…あぁ。また今日も徹夜ですね。

 あっ!そうだ!興奮して忘れるところでした。

 カメラ、また移さなきゃ。

 君が高校を卒業し、大学生になったあの日のように。

 君が大学を卒業し、その部屋へ移り変わったあの日のように。

 君が次に移り行く、あの部屋に。





 あなたは気付いていますか?

 私を見つめるあなたを、私もまたずっと、ずっと見つめていることを。

 今日はどんな私をあなたに見せましょう。

 そしてあなたは、どんな滑稽なあなたを私に見せてくれますか?

 あぁ…その部屋のカメラ、移さなきゃ。

 ここに…





 なぁ?お前の瞳に映る、そいつは誰なんだ?

 お前も俺を愛していたんじゃないのか?

 お前が1人、トイレに籠もった時だって俺は「もしかして…俺との…」そう期待したんだ。

 なのに…「別れたい」だと?

 分かった。

 でも、俺はお前から離れない。

 ずっと見てるからな。

 お前が例え、その部屋から居なくなったとしても。

 ずっと…次の部屋でも…ずっと……

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