第8話 EXPフィーバー
「…………はい?」
書かれていたのは三十文字にも満たない短くて簡潔な文章。しかも小学生でも瞬時に理解できる簡単な内容だ。
にもかかわらず、あまりに突然のこと過ぎてソウタはメッセージの内容が上手く頭に入ってこない。
ソウタは今一度ゆっくりとメッセージを脳内で反芻する。そして、
「うおおおおおお!! ユニークスキルじゃん!!!」
ようやく脳がメッセージ内容を理解し、ソウタは大声で叫んだ。
「こんないきなり手に入っちゃうもんなの……? 【EXPフィーバー】か。名前からある程度は察しが付くけど、効果を見てみよう」
ソウタはメニューを操作してスキル画面を開く。
【EXPフィーバー】
このスキルを持ったプレイヤーは、モンスターからの獲得経験値が五十倍になる。ただし、島のメインボスは経験値が膨大なため、その獲得経験値のみ等倍とする。
「ご、五十倍……!? ちょっとサービス良すぎじゃないですかフィフティさん! あんた神か!! あ、神なのか」
少し戸惑いながらも圧倒的な成長速度を手に入れたソウタは、その場で大きくガッツポーズした。
「……あれ? このユニークスキルって、獲得条件を満たせば手に入るフラグタイプって奴だよな。条件は何だったんだろう?」
ソウタは【EXPフィーバー】の説明項目欄を下にスクロールする。
<獲得条件>
全FLOプレイヤーの中で、最初にレベル10に到達した者にこのスキルは与えられる。
「そういう事か。今俺がレベルアップしてレベル10になったから、これをゲットできたってわけね。……あれ、ちょっと待て……? 最初に到達ってことは、あれか。現時点で俺が全プレイヤーの中で一番レベルが高いって事じゃん!!」
MMORPGというのはプレイヤースキルももちろん大事だが、何だかんだでレベルの高さが
ものをいう。
いくら魔法が使えないとはいえ、レベルが全プレイヤー中一位となったソウタの強さは
かなり高水準なものになったと言ってよい。
それに加え【EXPフィーバー】によるチート級の成長速度が手に入ったのだ。長いゲーム人生で一番嬉しい瞬間と言っても過言ではなかった。
「よっしゃー! 俺のFLO生活にもようやく希望の光が差し込んできたみたいだな。なんかみなぎってきたぜ! 今日はとことんレベル上げだ!」
そう言ってソウタはすぐに移動を開始した。
ちなみにもしもレベル10になるのがあと五分遅かったら、とある別のプレイヤーが先
にレベル10に到達しており、ソウタがこのユニークスキルを得ることはなかったのだが、それはまた別のお話である。
その後、レベルの急上昇で一段階強くなったソウタは、先ほど倒すことを諦めたスマイルラクーンにリベンジを挑んだ。
レベル10になったこともあり、今度はさほど苦戦せずに戦うことが出来た。
スマイルラクーンを次々と倒してぐんぐんレベルが上がったソウタは、あっという間にレベル15に到達。その頃にはスマイルラクーンを一撃で葬れるまでになっていた。
ちなみにステータスはこんな感じである。
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【名前】ソウタ
【レベル】15
【職業】魔法使い
【所持金】2389フィース
【HP】523/523
【MP】0/0
【STR】276
【DEF】230
【INT】406
【MDF】380
【DEX】242
【AGI】239
【LUK】218
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「いやー、かなりレベル上がったなー。15でキリもいいし、そろそろ日も暮れる。今日のところは帰るとしよう」
満足げな笑みを浮かべつつ、ソウタは始まりの街の方へと歩を進める。
今夜はいい夢が見れそうだなと思うソウタなのだった。
そしてその日の夜のこと。
再びFLO掲示板にてソウタのことが話題に上がっていた。
【速報】変な魔法使いプレイヤーを見かけたんだが
23名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
おい! ID変わってるが、この前このスレを立てた者だ!
誰かいないか!?
24名前:名無しのFLOプレイヤー ID:D79kkCep
いるぞー
この間のスレにいた者だ
25名前:名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
俺もこの間会話に参加してた者だ
どうしたんだ? そんなに慌てて
もしかして例の少年の続報来たか?
26名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
ああ、その通りだ!
今日またあの魔法使い少年を見かけたんだが、とにかくヤバいんだよ!
27名前:名無しのFLOプレイヤー ID:D79kkCep
ヤバいって今更だな。
初日の時点でヤバいプレイングしてたじゃねえか
28名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
それはそうだが、その時とは違う系統のヤバさなんだよ!
29名前:名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
どういう事だよ?
勿体ぶらずに早く言えよ
30名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
俺、そいつがスマイルラクーンと戦ってるとこを見てたんだ
31名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
へえ、なかなか強いモンスターと戦ってるんだなそいつ
俺、この前戦ってみたら普通にやられそうになってよ、尻尾巻いて逃げ出しちまったぜ
で、その少年はちゃんと戦えてたのか?
32名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
ああ、戦えてた
いや、戦えてたなんでもんじゃねえ……
いいか、驚くなよ?
そいつ素手でスマイルラクーンを一撃で倒してたんだよ!
33名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
はあっ!? 冗談だろ!? そんなのあり得ねえだろ!!
34名前:名無しのFLOプレイヤー ID:D79kkCep
そうだよ! 出来るわけねえ!
一撃とか魔法使いの攻撃力じゃねえぞ!!
35名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
だからヤバいって言ったんだよ……
36名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
それはマジでヤバイな……
一体レベルがいくつになればそんな事できるんだよ……
37名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
あ、それなんだけどな
俺この前、ラコルの実っていう視力のパラメーターが一定時間上昇する木の実のアイテムを手に入れたんだ。
そんでその魔法使い少年が帰る前にステータス確認してたから、それを食べて遠くから見てみたんだ。
38名無しのFLOプレイヤー ID:D79kkCep
おいおい、覗きとか趣味が悪いなー
39名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
まあいいじゃないか バレなきゃ問題ナッシングってね
そんでさ、すぐに閉じちゃったから一瞬しか見えなかったんだけど、レベルだけは何とか見えたんだ
40名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
おお、そんでいくつだったんだ?
41名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
15だった……
42名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
はあっ!? 15だとお!? 高過ぎだろ!!
俺まだ6だぞ!!
43名無しのFLOプレイヤー ID:D79kkCep
無茶苦茶すぎる…… どうなってんだ……
でも、何で魔法使わないんだろう? 縛りプレイでもしてんのか?
44名前:名無しのFLOプレイヤー ID:hSrn8Lbv
さあな……
まあ兎にも角にも、レベルを上げて物理で殴る魔法使いが爆誕しちまったって訳だ
まったく……、この間は馬鹿にしてたが、とんでもないプレイヤーだぜホント……
くっそー、なんか俺も負けてらんねえ!
今日はもう寝て明日からレベル上げ頑張るわノシ
45名無しのFLOプレイヤー ID:xtAA9j4g
おう、俺もがんばろっとノシ
46名無しのFLOプレイヤー ID:D79kkCep
ノシ