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第5話 孤独の魔法使い

「ハア……、まあなってしまったものは仕方ない。もうこのステータスを受け入れてやっていくしかないか」


 まだどこか納得できないソウタだが、無理矢理状況を受け入れる。


「よし、とりあえずレベル上げに行こう。どんなに酷いステータスでもレベルさえ上げれば何とかなるはずだ」



 そうと決まればソウタは念のために一応アイテムボックスを開く。回復アイテムの確認のためだ。

 ボックスの中にはHP回復アイテムのポーション五個とMP回復アイテムのマジックハーブ三枚が入っていた。

 マジックハーブとかいう永久に使う日が来ないであろうアイテムは即売り払おうと考えつつ、ポーションがちゃんとあるなら大丈夫そうだなと、ソウタはアイテムボックスを閉じた。


 続いて街の出口を確認するべくメニュー内のマップの欄を開くと、どうやら始まりの街は東西南北に一つずつ出口門があるようだった。

 今いるこの噴水のある広場は街の中央に位置する中央広場らしく、どの出口門までも距離的には同じくらいなようなので、ソウタは適当に南門へ向かおうと決めて歩き出す。


 だが、ふとある事が頭をよぎりすぐに足を止めた。



――――――ソロでフィールドに出て大丈夫なのか?



 ソウタはFLOのモンスターの強さがどの程度のものなのかまだ知らない。ただでさえ恵まれないステータスの自分が、ソロで挑んで果たして倒せるのだろうか。

 全く手も足も出ず速攻でやられ、記念すべき脱落者第一号になったら泣くに泣けない。これはFLOの戦闘に慣れるまで、パーティに入れてもらうのが得策じゃないだろうか。

 周りを見るともうパーティがちらほらできている様子が見られる。あわよくばそのどれかに混ぜてもらえたらなーと考えていると、


「おーい、そこの魔法使いのあんた。もしかしてソロか?」


 剣士と斧使いの混ざった四人組の男たちがソウタに声をかけてきた。


「あ、ああ。俺はソロだよ」


 ソウタがそう答えると、声をかけてきたリーダーらしき赤髪長身の剣士の男の顔が明るくなり、


「おお、やっぱりそうか。なあ、良かったら俺たちとパーティ組まないか?」


 ソウタをパーティに誘ってくれた。


「ああ! ぜひ頼むよ。丁度今ソロはきついかなって思って、誰かとパーティ組みたいって考えてたとこだったんだ」


 パーティに入れてもらえるチャンスが到来したソウタは、渾身の笑顔を作って対応する。


「おお、マジか。そりゃあグッドタイミングだな!」


 ソウタの返事にリーダーと他の男たち三人も笑顔になった。

 そしてリーダーの男が手を差し出してくる。


「俺はギレン、これからよろしくな」


「俺はソウタだ。こちらこそよろしく」


 ソウタも手を差し出し、二人は軽く握手を交わした。


「いやー、実は俺、アホみたいなステータスになっちゃって困ってたんだよ。本当に誘ってくれてありがとう」


「ん? アホみたいなステータス? どういう事だ?」


 何気なく放ったソウタの言葉にギレンと他三名が食いついた。


「ほら、これだよ。酷いもんだよまったく、ハハハ……」


「どれどれ?」


 ソウタがステータス画面を見せると、四人はまじまじと覗き込む。

 ソウタとしてはちょっとした笑いにでもなればと軽い感じでステータスを見せたのだが、四人の男たちはステータスを見るとすぐに笑顔が消え、険しい表情となった。

 そして、ギレンが口を開く。


「MPが0? 魔法使いなのに?」


「あ、ああ。そうなんだびっくりだろ?」


「じゃあ魔法が使えないってことだよな?」


「まあそういう事だな」


「これってレベルが上がったら増えるのか?」


「い、いや……、さっき調べたが、どうやら増えないらしい。ずっとこのままだ」


「へ、へえー……」


 男たちは顔を見合わせ、黙り込んだ。そしてどこか不愉快そうな表情となったギレンが口を開く。


「あー、悪いんだがちょっと今の話はなかったことにしてくれるか? じゃあな」


「え……」


 ギレンは冷たくそう言うと、仲間たちと立ち去って行こうとする。

 それは当然の行動だった。

 パーティに誘うからには、何か自分たちにとってメリットになるプレイヤーを誘うものだ。

 剣士と斧使いしかなかった今のパーティは、遠距離からの攻撃ができ、戦闘の補助もしてくれるであろう魔法使いをパーティに入れたくてソウタのことをパーティに誘ったのだ。


 それなのに魔法が使えないと言われたら、そりゃパーティに入れたくはないだろう。

ソウタの加入はデメリットこそ多々あれメリットは皆無。このプレイヤーたちの判断は間違っていないのだ。


 しかし、せっかくパーティに誘ってもらえたのに、簡単にこのチャンスを逃してなるものかとソウタはギレンの腕を掴んで引き留める。


「ち、ちょっと待ってくれ!」


「な、何だよ! 離せよ!!」


 急に腕を掴まれたギレンは露骨に苛立った表情となったが、ソウタは怯むことなく口を開く。


「確かに俺はあんたの言う通り魔法は使えない。だけどこう見えても俺、ゲームの腕には結構自信があるんだ。絶対に足は引っ張らないようにするから、どうかパーティに入れてくれないか? 何ならFLOの戦闘に慣れるまでの期間限定でもいい。頼む、この通り!」


 頭を下げて懇願したソウタだったが、ギレンの態度は変わらない。


「チッ、うるせえなあ……。その件はなかったことにしてくれって言っただろうが。だいたい足は引っ張らないって何だよ。お前は魔法使いのくせに魔法が使えないんだろ? 引っ張るに決まってんだろうが! そんな奴をパーティに入れてやるほど俺はお人好しじゃねえんだよ!!」


 ギレンの怒鳴り声が辺りに響く。

 いくらか周りのプレイヤーの注目を集めてしまっているが、ギレンは止まらない。


「お前も聞いただろ? フィフティとかいうあのふざけた神の話をよ。このゲームを三年以内にクリアできなかったら、俺たちは全員死ぬんだぞ! だから一秒でも早く島を攻略していかなきゃならねえんだ! それなのにお前みたいな足手まといに構ってる余裕は誰もねえんだよ! お前のようなザコプレイヤーは、この街にずっとこもって他のプレイヤーの邪魔をしないようにしてりゃいいんだ、このお荷物野郎が!!」


「……………………!!!」


 言いたいだけ言い終えると、ギレンは仲間たちを連れて足早に立ち去って行った。


「お、お荷物野郎って……。さすがに酷くない……?」


 ギレンの口から最後に放たれたお荷物というワードは、今のソウタとってはかなりショックだった。

 現状を鑑みると、その言葉を全く否定できなかったからだ。


 ソウタの残念なステータスでは、このFLOというゲームの攻略には何も貢献できない可能性は非常に高い。他のプレイヤーたちが島を攻略していくのを指を咥えて見ているしかない最下層のプレイヤーという立ち位置になるのが目に見えている。

 そんなプレイヤーに一体何の価値があるというのだろうか。そんなプレイヤーとパーティを組みたいプレイヤーなどいるのだろうか。


(だ、ダメだ! ネガティブになるな! 今のパーティがたまたま冷たかっただけだ。俺を加入させてくれるパーティだってきっとあるはずだ!)


 そう考え、その後もソウタはいくつかのパーティに話しかけてパーティ加入の話を持ち掛けた。

 しかし、どのパーティもソウタが魔法を使えないという事情を説明すると、そそくさと手の平を返したように立ち去って行くのだった。

 一人取り残されたソウタは溜め息混じりに呟く。


「はあ……、そうかいそうかい。ゲームの世界でも俺はぼっちですか、そうですか……」


 ソウタはギリ……と奥歯を噛み締めた。

 最高のゲームを目一杯楽しみ尽くしてやろうと考えていたソウタとしては、この仕打ちはさすがに堪えた。形容しがたい孤独感にやり切れなくなる。




 結局その後、いつまでも落ち込んでいられないと、ソウタはソロでやっていくことに決めた。

 もちろん本当は誰かとパーティを組んで冒険したいという気持ちは捨て切れていない。

 だが、これ以上パーティ加入を断られ続けたら、さすがにソウタは精神的に耐えられそうにない。

 そのため、もう自分は一人でやっていくしかない、誰かとパーティを組もうなんてもう考えるなと自分に暗示をかけるように何度も心の中で呟き、それが最善なのだと無理やり思い込んだ。


 ソウタはハア……と大きく溜め息をつくと、とぼとぼと南の出口門へと歩き出す。

 そこに少し前までFLOに胸躍らせていたソウタの姿は、もうなかった。


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