第42話 打ち上げ
その夜。
ファース島のボスが攻略されたことにより、始まりの街はお祭り騒ぎとなった。
プレイヤーたちが各々飲食店へと集まり、ファース島攻略記念として祝賀会を開催したのだ。
そして、それに感化されたソウタたちボス攻略パーティも、ニックの提案で打ち上げをすることになった。
十八時より南通りにある飲食店を貸し切って行うこととなり、現在の時刻は十七時五十五分を過ぎたところだ。
開催時刻が近づき、パーティのメンバーもほぼほぼ揃ってきた中、幹事であるニックは慌てふためいていた。
「どうしましょうどうしましょう。一体何で来ないんでしょう。あー、困ったー困ったー」
ぶつぶつとそう呟きながら急ぎ足で、店内を右へ左へ行ったり来たりしている。
「あのー、ニックさん。なんか落ち着かない様子ですけど、どうかしたんですか?」
「ああ、リーナさん。実は今日のMVPであるソウタさんがまだ来ないんです……」
「ええっ!? まだ来てないのソウタ君」
「はい……。せっかく乾杯の挨拶を頼もうと思っていたのに……。これはまずいです」
完全に予定が狂い、頭を抱えるニック。
そこへライルがやって来る。
「あー、なんかソウタの奴、ちょっと行くとこがあるって言ってましたよ。時間には遅れないようにするって言ってたから、そろそろ来るんじゃないっすかね?」
「そうですか……。そうだといいんですが……」
そこで少し落ち着きを取り戻したニックだが、まだ不安そうな面持ちが隠し切れていない。
そこへふらりとミツルがやって来た。
「ニックさん、よろしければ僕がソウタ君の代わりに挨拶しますよ。こう見えても結構そういうのは得意で……」
「いえ、あなたは結構です」
「あ、そうですか……」
真顔でぴしゃりとそう言い放ったニックに気圧され、ミツルはトボトボと去って行った。
やってくれるという気持ちはありがたいが、ミツルに頼むと自分の話を延々としそうなので、ニックとしては断らざるを得なかったのだ。
だが、断ったはいいものの具体的な解決案が浮かばないニックは再び頭を抱える。
そしてついに時刻は十八時となり、開催時刻となってしまった。
もう自分が挨拶するしかないとニックが覚悟を決めたその時だった。
入り口の扉が開き、ソウタが姿を現した。
それを見たニックは、両腕をどこかへ千切れて飛んでいきかねない勢いでブンブンと振り、ソウタを呼ぶ。
「ああっ、ソウタさん!! こっちです!!」
ソウタは小走りでニックの元へ駆け寄る。
「すみません遅れちゃって……」
ソウタはぺこりと頭を下げた。
「いえいえ、お気になさらず。それで早速なんですがソウタさん。あなたに乾杯の挨拶をお願いしたいのです」
「ええっ!? 俺ですか!?」
「そうです。やはりボスにとどめを刺したソウタさんにやってもらうのが一番盛り上がると思うので……」
「い、いやー。でも俺そういうのは苦手で……」
「大丈夫です。ソウタさんが喋れば何を言ったって間違いなく盛り上がります。いや、もしかしたら無言でも盛り上がるかもです。ハハハ」
「そんな訳ないじゃないっすか!!」
急に冗談を挟んできたニックにソウタは鋭く突っ込んだ。
「アハハ……、すみません。まあそれくらい今日のソウタさんは輝いてるってことですよっ。じゃあ頼みましたよ」
そう言ってニックはソウタの背中をポンッと叩いた。
もう断り切れそうもないので仕方なくソウタが前に出ると、ニックが開催の挨拶を始める。
「皆さん、大変お待たせしました! 全員揃いましたので、打ち上げを始めたいと思います! そして乾杯の挨拶ですが、今日のMVPであるソウタさんにお願いしたいと思います! では、ソウタさんどうぞ!!」
思いのほか司会慣れしたニックの声に反応し、全員の視線がソウタに集中した。
ライルが「よっ、待ってました!」とソウタを囃し立てる。
先のボス戦前を超えようかという緊張に襲われたソウタは、一度大きく深呼吸して挨拶を始めた。
「え、えーっと……、まずは皆さん。ボス攻略おちゅっ」
「あ、噛んだ……」
「噛んだわね」
「噛みましたね」
ざわつくプレイヤーたち。そして、顔が激しく紅潮するのを感じるソウタ。
(だああー! だからこういう役はやりたくなかったんだよもうっ!! ええいっ! もうどうにでもなれだ!!)
「コホン。えー、気を取り直して、皆さんボス攻略お疲れ様でした。今回のボス攻略では、残念ながら十一名という多数の犠牲者を出してしまいましたが、第一の島を攻略できたことは素直に喜ばしいことだと思います。五十ある島のたった一つをクリアしただけに過ぎないのかもしれませんが、これは大きな一歩です。胸を張りましょう。まだまだゴールは遠く、この先多くの困難が僕らの前に立ちはだかると思います。ですが、どんなに絶望的な難易度でも、クリアできないゲームはありません! 絶対にクリアして、あのフィフティとかいうふざけた神に目に物見せてやりましょう!!」
そこで店内に「うおおおおおおお!!」という大歓声が巻き起こった。
そんなものが起こるとは思っていなかったソウタは一瞬たじろぐ。
「え、えーっと、では、少し長くなってしまいましたが、乾杯といきましょう。えー、乾杯!!」
「「「「乾杯!!!」」」」
こうしてボス攻略の打ち上げが開始された。
「いやー、なかなか立派な挨拶でしたねソウタさん」
「本当。意外な一面ね」
「ソウタさんはやっぱり凄いです!」
「実は事前に考えてたんじゃないかソウター? あ、もしかして遅れたのってこうなるのを読んでスピーチを考えてたからだったりしてな。なーんつって」
「さすがはソウタ君。それでこそ僕のライバルにふさわしい……」
ソウタがリーナたちの元へ行くと、各々が思い思いの言葉を口にする。
ソウタは聖徳太子じゃないので全員の声は聞き取れなかったが、あえてライルの発言に言及すれば、もちろん事前に考えていたはずもなくすべてアドリブである。
まさかこんなにちゃんと喋れるとは思わなかったので、一番驚いているのは実はソウタだったりする。
(もしかすると俺にはスピーチの才能があるのかもな。現実に戻ったらスピーチコンテストにでも出てみようかな……)
そんなしょうもないことを考えつつ、ソウタは目の前の食事にありついた。
その後は全員が時間を忘れて打ち上げを楽しんだ。
用意された豪華な食事や飲み物を堪能しつつ歓談し、矢のように時間は過ぎていった。
そして、時刻が二十三時をまわった頃。会場もそろそろ宴もたけなわという雰囲気になってきた。
そんな中ソウタは、会場の端の方で一人でいたリーナに声をかけた。
「リーナ、良かったらちょっと外に出ないか?」
「外? うん、いいけど。どうして?」
「んー、まあ出てから話すよ」
不思議そうに見つめてくるリーナを連れ、ソウタは外へと移動した。
「で、どうしたの急に? 外になんか呼び出して」
「あー、その、何だ。実は渡したいものがあってさ……」
「渡したいもの?」
「ああ、これなんだけど」
そう言ってソウタはメニューを操作してアイテムボックスからとあるアイテムを取り出す。
それを見たリーナは、ただでさえ大きい目をさらに大きく見開いた。
「……え、嘘!? これ……、どうしたの?」
そのアイテムとは星の髪飾り。リーナがどうしても欲しかったアクセサリーアイテムだった。
「さっき買ってきたんだ」
「か、買ったの……? あ、だから遅れて来たんだ……」
「そゆこと」
「で、でも、30000フィースもするのに……」
「いやあ、それだけ稼ぐのにかなり苦労したよ。ハハハ……」
実はソウタはリーナと別れた次の日から、このアイテムを買うためにほとんど毎日夜遅くまで狩りをして必死にお金を稼いでいたのだった。
予定では昨日の時点で30000フィースを貯め切る予定だったが、いくらか足りず本日のボス攻略で得られるお金で到達するだろうとソウタは踏んでいた。
しかし、思ったよりメインボスからのお金が少なくかったため目標に届かず、ソウタはボス攻略後慌ててその辺のフィールドで狩りをして30000フィースを稼ぎ切り、急いでアクセサリー屋で星の髪飾りを購入して打ち上げ会場までやって来たのだった。
おかげでお金も体力も正直すっからかんだったりする。
「はい、どうぞ受け取ってくれ」
「あ、ありがとう。でも、受け取れないよ……。何だか悪いし……」
受け取りたい気持ちはもちろんあるリーナだが、その値段を気にしてか受け取りを拒んだ。
しかし、ここで引き下がるソウタではない。
「いいのいいの。前にも言ったけど、元はといえば俺がクエストを邪魔したせいで手に入れられなかったんだ。気にせず受け取ってくれ」
「で、でも……」
最大限リーナが気を使わないように言い放ったセリフもどうやら不発のようで、彼女はまだ迷っている様子である。
だが、ここまではソウタの想定内。
ソウタは駄目押しに一つの提案をリーナに持ちかけた。
「うーん、じゃあこうしよう。今日は一月二十四日だ。FLO内の日付ではあるけど、確かリーナの誕生日だろ? だから、これは俺からの誕生日プレゼントだ。受け取ってくれるよな?」
「誕生日プレゼント……。誕生日、覚えててくれたんだ……」
リーナは少しの間何かを噛み締めるように沈黙し、その後小さく頷いた。
「……うん、分かった。受け取る」
「良かったー。はい、じゃあこれ」
ようやく受け取ることに同意してくれたリーナにソウタは髪飾りを渡した。
「そ、その……。あ、ありがと……」
「お、おう。どういたしまして」
「早速付けてみていい?」
「もちろん。ぜひ付けてくれ。そのための髪飾りだし」
リーナは装備画面を開き、星の髪飾りをタップする。
するとリーナの右こめかみの上あたりに髪飾りが装備された。
「ど、どう……かな?」
少し顔を赤らめながら上目遣いで聞いてきたリーナに、ソウタは思わずドキリとする。
「ど、どうって……。まあ、何て言うかその……。に、似合ってるよ」
「そ、そう……」
ソウタの返答にリーナは視線を下に落とし、黙り込んでしまった。
ソウタも次に何を言うべきか思いつかなかったため、二人の間に沈黙が流れた。
五秒ほど静寂が場を支配したが、そこでリーナが何かを思いついたように口を開いた。
「ねえ、ソウタ君の誕生日はいつなの?」
「え、俺の誕生日? そんなの聞いてどうすんだ?」
「これのお返しをあげたいから知りたいの。教えて?」
「ああ、そういうことか。十二月三十一日だよ」
「十二月三十一日……、大晦日なんだ」
「ああ。そんで三年後に訪れるこのゲームのタイムリミットの日でもある。なかなか覚えやすいだろ?」
「え、そ、そうね。というかその覚え方はちょっと嫌じゃない?」
「そうかな? もしゲームクリアが間に合わなかったら、誕生日迎えて死ねるんだから、それも悪くないんじゃね?」
「なんだかポジティブだなあ。まあ三年後のことはともかく、今年の大晦日までにとびっきりのプレゼントを用意するから覚悟しててね。だからそれまで死なないこと」
「おう、任せとけ。リーナも俺にプレゼント渡すまで脱落すんなよな」
「うんっ」
二人の顔に自然と笑顔がこぼれた。すると――――、
「おーおー、何だかいい雰囲気だねえお二人さん。もう付き合っちゃったらどうだ、おい?」
「ソウタ君!! 抜け駆けとは卑怯だよ! 僕だってリーナさんの誕生日が今日だって知ってたら、何かプレゼントを用意してきたのに!!」
「リーナさんずるいです! 羨ましいです! ソウタさん! 私の誕生日は九月四日ですから絶対覚えといてくださいね!!」
「お、お前ら……!! 覗いてたのかよ!!」
どうやらライル、ミツル、フィーネに陰からこっそり今までのやり取りを覗かれていたようだった。
そんな覗き三人組取り囲まれ、ワーワーともみくちゃにされるソウタ。その様子を見てリーナはクスクスと笑う。
「笑ってないで助けてくれー!!」とソウタが懇願するも、リーナは「そのくらいボスを倒した君なら何とかできるでしょ、今日のMVPさん♪」と無邪気にからかうのであった。
以上でファース島編は完結となります。お読みいただき本当にありがとうございました。
次の話もプロットができ次第書いていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。




