第38話 いざボス戦
ボス攻略パーティはA班からE班の全五班で構成されており、各班六人の計三十人のパーティだ。
A~C班は剣士や斧使い、槍使いのプレイヤーがほとんどであり、前衛でボスへの攻撃を行う班。D班は魔法使いプレイヤーのチームで、魔法攻撃での後方支援を行う班。そして、E班が取り巻きのブルータルオークを討伐する班だ。
それぞれの班には一人ずつ回復役のプレイヤーが入っている。
アタック担当のA~C班の中でもA班はその要となっており、特に実力の高いソウタ、リーナ、ニック、ライル、ラスター、そして回復役のフィーネの六人で構成されている。
ニックは盾持ちの片手剣士なので、攻撃もするが今回はA班の防御担当寄りの役回りとなっている。
そして、B、C班はA班の体力回復のタイミングで前衛を交代するための第二、第三の部隊である。
第二、第三と言っても、A班の実力が異常なだけであってこの二つの班は決して弱いわけではない。
特に長剣使いの男がリーダーのB班は精鋭揃いであり、ソウタたちA班の休息中も安心して前衛を任せられそうな面々が顔を連ねている。
D班の魔法使いプレイヤーたちは、前回のボス攻略で上級者の魔法使いプレイヤーがほとんど脱落してしまったこともあり、中級者止まりのプレイヤーばかりとなっており実力自体は低めの班だ
しかし、そのメンバーはラスターの仲間以外は現実世界にいた時からのVRMMO仲間らしく、チームワークはかなり期待できるだろう。
そして、取り巻き討伐担当のE班はミツルをリーダーとした班となっている。
ミツルがリーダーなのは他に誰もやりたがらなかったためであり、ミツルがこの班で一番実力が高いからではない。
ちなみにミツル本人は最初、自分もボスを相手にする前衛の班のメンバーに入りたいと抗議していた。
だが、リーナが「ボスの周りのブルータルオークを仕留めるっていう、そういう縁の下の力持ち的なことが出来る人って素敵だなー」とわざとらしく言うと、ミツルは「僕がE班を担当します! 僕にこそふさわしい!!」と喜んで引き受けてくれた。
ミツルの扱い方を心得てきたリーナに、ソウタは誰にも聞こえない声で「グッジョブ!」と呟いたのだった。
そんな攻略パーティたちは現在、メインダンジョンへの道中にあるラペルの森を進んでいる。
地形が複雑でかつ長いダンジョンではあったが、第一回攻略パーティに参加していたニックやリーナがしっかりと道を把握していてくれたおかげで、迷うことなく進んで行けた。
唯一起きたアクシデントといえば、突然木の上からワーム系のモンスターが大量に降ってきて、どうやら虫が駄目らしいリーナとフィーネの両者が思い切りソウタに抱き着いてキャーキャー騒いでいたことくらいであった。
その際、ライルやミツルを主とした男性プレイヤーたちに「羨ましいぞこのやろー」といった殺意の込められた視線を向けられ、ソウタはかいたことのない量の冷や汗をかいた。
そして、一時間ほどかけて森を抜けたパーティ一行は、メインダンジョンへと無事辿り着いた。
ファース島のメインダンジョンは、オークの塔という全十層からなるダンジョンである。
第一層から第五層までは剣や斧、槍など様々な武器を持ったオークが出現し、第六層から第十層まではブルータルオークという剣と盾を持ったオークよりも一回り大きく凶暴なモンスターが出現する。
オークはともかくボスの取り巻きでもあるブルータルオークというモンスターの強さは、そこらのザコモンスタ―とは訳が違う。
パワー、スピード、そして行動パターンの豊富さが尋常ではないのだ。
そのため第一回攻略の際は、第六層以降の道中でブルータルオークによって三人の犠牲者が出てしまったそうだ。
その話を聞いてソウタは一抹の不安を覚えたが、その時の苦い経験を糧としたニックやリーナたちのアドバイスもあって、今回は一人の犠牲者も出すことなく攻略パーティはボス部屋前まで到達した。
巨大なボス部屋の扉を前にしたプレイヤーたちの雰囲気が一気に張り詰める。全員が不安そうな面持ちを隠しきれていない。
「緊張するね」
ソウタの横にいたリーナが、少し強張った顔で声をかけてきた。
「……ああ。なんだか身体が自分の身体じゃないみたいだよ。はは……」
リーナ以上に緊張で顔が強張ったソウタがそう返した。
心臓のバクバクは加速の一途をたどっており、喉は脱水でも起こしたかのように干上がっている。ゲームでここまで緊張する日が来ようとは思いもしなかった。
「……勝てるかな、ボスに」
リーナがか細い声でそう言った。一度負けている相手だからなのか、珍しく弱気になっている様子だ。
勝てるかどうかなんてソウタには分からないし、この場にいる誰にも分からないことだ。
―――――だけど、全員が勝ちたいと思っていることだけは分かる。どんなにボスが絶望的な強さでも、気持ちでだけは負けたくない。
ソウタは弱い自分を押し殺し、両拳をグッと握りしめる。
「……大丈夫。やるだけの事はやったんだ、きっと勝てるさ。……いや、勝とう!!」
「うんっ!!」
「では、皆さん。行きます!!」
プレイヤーたちの何倍もの大きさの扉をギギギと開き、ニックを先頭に攻略パーティはボス部屋へと足を踏み入れた。
そこは半球状のドームになった部屋だった。
その広さは以前戦ったソードゴブリン・ロードのいた部屋よりも二回りほど広く、まさにメインボスの部屋にふさわしい広さだ。
そして、プレイヤーたちが全員部屋に入り終えると、部屋の円周上に配置されていた松明に手前から順番に火がともっていく。
一番奥の松明に火が付くと、そこに佇む巨大なモンスターの姿が浮かび上がった。
悪魔のような残虐な顔つきに三メートルを超える暗緑色の巨体。その腰にはソウタの身長はあろうかという大剣と鋼鉄の盾、そして毒々しい紫色の液体の入った瓶が備え付けられている。
ただ立っているだけにもかかわらず、そこから放たれる圧倒的な威圧感は、プレイヤーたち全員の足をすくませる。
そんなプレイヤーたちをさらに震え上がらせようと、ブルータルオーク・レックスはその大きな口を開いた。
「ヴォオオオオオアアアアアア――――ッ!!!」
耳をつんざくような咆哮の圧が全プレイヤーの鼓膜を揺らす。
そして、名前表示と一段と長いHPゲージが出現。
ブルータルオーク・レックスは大剣と盾を構え、戦闘態勢へと移行した。
「来ますッ!!」
ニックの声が合図となって、ボス攻略バトルが開始された。