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第31話 紙一重

 一月十七日、午前九時三十五分。

 ソウタとフィーネは始まりの街の中心街を歩きながら、今日はどこで特訓するかを話し合っていた。


「なあフィーネ。昨日見た感じスマイルラクーンはもう楽勝みたいだし、今日はもう少し強い敵のいるエリアにいってみようと思うんだ。それで昨日の夜調べたんだけど、西エリアの少し奥のオリビス平原っていう平原エリアが丁度よさそうだと思う」


「えっ、大丈夫ですかね? 私、まだちょっと不安で……。昨日と同じ場所でもいいような」


「大丈夫。あまり強力なモンスターの出ない場所みたいだから、フィーネなら問題ないさ。それに何かあっても俺がしっかりフォローするからさ」


「分かりました。時にはチャレンジも必要ですし、そこに行ってみましょう」


「よーし、決定だな。じゃあとりあえず西門の方へ向かおう」


「はいっ」


 目的地が決まり、二人が西門の方へと足を向けたその時。

 急に一人のプレイヤーがフィーネに声をかけてきた。


「そこの可愛いお嬢さん、僕と一緒にクエストに行きませんか?」


(うげっ!!)


 そのプレイヤーはへっぽこナンパ剣士のミツルだった。

 面倒な奴と会ってしまったと、ソウタは軽く顔が引きつる。


「ふええっ、わ、私ですか!?」


「そうです。ぜひ一緒に行きましょう」


「え、えっと……、その……」


 フィーネは目が泳ぎ、明らかに困っている様子だ。

 何日か前にも似たような光景を見たなとソウタはデジャブを感じる。本当はあまり関わりたくないのだが、仕方ないのでソウタが間に入る。


「おい、またナンパかこのやろー」


「うおっ! ソウタ君じゃないか! 奇遇だね!」


 ナンパ中は他のプレイヤーが目に入らなくなるらしいミツルは、声をかけられてようやくソウタの存在に気付いた。


「奇遇かは知らんけどな。つーかお前、リーナ以外にもこういう事するのな」


「ま、まあそうだね。リーナさんが一番ではあるけれど、綺麗な女性がいたら声をかけるのは男の義務だよソウタ君。僕としては日本の憲法に納税の義務とかと一緒に載せて欲しいくらいだね」


 そんなものが憲法に載った日には間違いなく亡命するだろうなとソウタは呆れつつ、


「悪いけど、この子は俺と一緒に今から狩りに出かけるんだ。だから諦めてくれ。じゃ、そういうことでー」


 あまり長居はしたくないので、ソウタはさっさと話を切り上げようとしたのだが、


「待ちたまえソウタ君。せっかく会ったんだからこの前のデュエルのリベンジといこうじゃないか。いざ尋常に勝負!」


「えー、めんどくさー」


「まあまあそう言わずに。すぐに終わるからさ」


「それはお前が瞬殺されるって意味か?」


「違うっ! 僕が君を瞬殺するんだ!」


「はあ……」


 ソウタは深く溜息をついた。


(何とかこいつを振り切る方法はないもんかなー。あ、そうだ)


 ソウタはフィーネの耳元で囁くように言う。


(フィーネ、アクセルのスキルを俺と自分にかけてくれ)


(は、はい。【アクセル】)


(よーし、ありがとう)


「ん? 何をこそこそとやっているんだい?」


「いや、別に何でもない。あー! あんなところにリーナが!!」


「何っ!? り、リーナさん!? どこだいソウタ君!?」


 ソウタが適当な方向を指さして叫ぶと、ミツルが光速でそちらを振り向きキョロキョロとリーナの姿を探し始めた。


「今だ! 行くぞフィーネ!」


「は、はいい!」


 ソウタとフィーネはスキル【アクセル】で強化されたAGIにものを言わせ、ダッシュでその場を離脱した。

 後ろの方から「あれれっ、ソウタ君どこへ!? というかリーナさんは一体どこにー!?」というミツルの声が聞こえたが、ソウタは一切振り返らずに西門へと走り続けたのだった。






「【フリーズランス】!!」


 氷の槍がイノシシのモンスター『タンデントボア』の身体へと突き刺さり、その体力を0にした。


「よしっ、いいぞフィーネ。これで八体目だ」


「はいっ! 私、なんだか楽しいですっ!」


 現在ソウタたちは西エリアのオリビス平原にて狩りを行っている。

 昨日までモンスターにびくびくと怯えていたのが嘘のように、フィーネは狩りを満喫していた。ソウタがフォローするまでもなくサクサクと狩りを進めていく。

 フィーネの狩りの様子をしばらく見守っていたソウタだが、自分も負けてられないと途中から狩りに参加し、二人はそのまま二時間狩りを続けた。



「ふう、そろそろ一旦休むか」


「そうですね。あっ、ソウタさん。後ろにモンスターが」


「何っ!?」


 地面に腰を下ろそうとしていたソウタたちの近くに、突如三体の剣と盾を持った骸骨のモンスターが現れた。その頭上には『リブロダル・スケルトン』と名前が表示されている。

 ケタケタと不気味に笑うその骸骨剣士を見たソウタは目を細めた。


(何だ……? こんなモンスターが出るっていう情報はなかったぞ。なんか嫌な感じだな。まあいい、とっとと倒しちまおう)


 ソウタは大ダメージ狙いでスキル【瞬速拳】を立ち上げ、真ん中の一体に攻撃した。

 だが、リブロダル・スケルトンはその攻撃を上手く盾で防ぎ、一割弱しかHPを削らせなかった。


(防がれた……ッ!?)


 タイミング的に確実に刺さると踏んでいたソウタは、思わず目を見開いた。動揺とスキル後の硬直が合わさり、隙が生まれる。

 そこへリブロダル・スケルトンは、剣を大きく横に薙ぐ剣スキル【弧月剣】を使用。あまりに素早い反撃に避け切れなかったソウタは、一気に四割以上もダメージをくらった。


(な、なんだこいつ……! 強すぎる……ッ!!)


 最近のソウタはたとえノーガードだったとしても、モンスターからの攻撃など一撃では多くても5,6%しかダメージを受けることはなかった。

 このダメージ量は明らかに異常だ。

 これはファース島攻略中の現時点では戦ってはいけないクラスのモンスターだと、ソウタは瞬時に察した。


「フィーネ、後ろに下がってろ!! 絶対に近づくなよ!!」


「は、はい!」


 ソウタがこれだけのダメージを受けたのだ。

 リブロダル・スケルトンの攻撃を一撃でもくらおうものなら、フィーネは間違いなく即死だ。それだけは避けたいソウタは、フィーネを安全圏まで下がらせた。

 そして大きく息を吐き、全神経を目の前の三体の骸骨剣士へと集中する。


「うおおおおおおッ!!」


 雄叫びとともにソウタは戦闘を開始した。






 どれくらいの時間が経っただろうか。

 極限に近い集中力を保ちながら戦い続けていたソウタは、もはや時間の感覚が分からなくなっていた。

 何時間も経った気もするし、一分すら経っていない気もする。そんなことも分からなくなるくらい、彼は疲弊し切っていた。


 だが、その甲斐あってリブロダル・スケルトンを二体撃破。残り一体となっている。

 そして残り一体もすでにHPがレッドゾーンまで減っており、なんとか終わりが見えてきた。


 早いとことどめを刺してしまおうと考えていると、リブロダル・スケルトンはジリジリと後退を始めた。

 これまでの戦いの中で一度も見られなかった挙動に、ソウタは警戒心を強める。


(何だ……? 距離を取り始めたけど、何かを狙っているのか……? だったら変な事される前にこっちから動こう)


 ソウタが攻撃へと移行しようとしたまさにその瞬間だった。

 リブロダル・スケルトンの姿がその場から消えた。

 いや、厳密には消えたわけではない。ソウタの動体視力でとられないほどの速度でリブロダル・スケルトンが急接近してきたのだ。


「なっ!?」


 一瞬という言葉も生ぬるいほどの間で、リブロダル・スケルトンはソウタの懐に入り込む。

 そして、赤いスキルエフェクトを瞬かせてソウタを一突き。ソウタはその衝撃で後方へ吹き飛ばされた。

 使用されたのは強力な突きを放つ剣スキル【破空剣】だ。その絶大な威力にソウタのHPは軽々とレッドゾーンに突入した。


(くっ……! 何なんだよこのダメージ量……! イカれてるだろ……ッ!!)


 ふらつきながら何とか立ち上がると、リブロダル・スケルトンは凄まじい速度で再び走り出す。

 その瞬間、ソウタは完全に血の気が引いた。

 それは自分がとどめを刺されると思ったからではない。

 リブロダル・スケルトンが走り出したのが、自分ではなくフィーネのいる方向だったからだ。


「フィーネ逃げろ!!!」


 ソウタは喉が壊れんばかりに絶叫した。

 しかし、その声にフィーネが反応する頃には、リブロダル・スケルトンは圧倒的な走力で彼女との距離を詰め切っていた。


「ひ、ひぃッ……!!」


 あまりのことに怯えて動けなくなっているフィーネに、リブロダル・スケルトンは容赦なく剣を振り上げた。


「フィーネ!!!」


 ソウタは死に物狂いでフィーネの方へと駆け出した。

 疲労で明らかに足の運びが遅くなっているのを感じるが、何とか鞭を打って疾走する。

 

(あと一撃……、あと一撃入れれば倒せるんだ! 足がもげたっていい!! 頼む、間に合ってくれ!!!)


「うおおおおおおッ!!!!」



 剣が振り下ろされたのと、ソウタがとどめの一撃を入れたのはほぼ同時だった。

 そう、ほぼ(・ ・)同時。

 厳密にはソウタがとどめを刺すよりも、フィーネが攻撃をくらう方が僅かに先だった。

 斬られたフィーネのHPはみるみる減少して0になり、彼女は綺麗なポリゴンの欠片となって飛散。リブロダル・スケルトンもその後を追うように飛散し消滅した。

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