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第30話 特訓

 次の日。

 ソウタたちはフィーネの特訓のために、南エリアの川辺沿いの草原エリアにやって来た。

 そこで現在、スマイルラクーンを相手にしているフィーネなのだが……。


「ひいいい!」


「大丈夫だ、びびるなフィーネ! 魔法を撃つんだ!」


「は、はいい!」


 ソウタに声をかけられ、慌てて魔法スキルを立ち上げようとするフィーネだが、焦りとモンスターへの怯えのせいでなかなかスキルを立ち上げられない。

 その隙だらけの姿にスマイルラクーンが突進攻撃をかます。


「危ないっ!」


 ギリギリのところでソウタが防御に入り、フィーネは無事だった。


「ライル頼む!」


「おうっ!」


 そしてライルが斧を振り下ろし、スマイルラクーンを倒した。


「す、すみません。私、やっぱり怖くて……」


 フィーネが心底落ち込んだ様子で謝罪する。


「まあ気にするなフィーネ。数をこなして慣れていこう」


 相当へこんでいるようだったのでソウタが優しく慰めると、空気の読めないライルが、


「でもなあ、数をこなしてって言っても今日これでこのくだり十回目だぜ? これじゃあいつまでたっても慣れねえよ」


「うう、すみません……」


 ライルの言葉にシュンと縮こまるフィーネ。心なしか少し涙目になっているようにも見える。


「おいっ、なんてこと言うんだこの冷血斧男。言い方ってもんがあるだろがっ。そんなんだとモテないぞ」


「が……っ、も、モテない……」


 ソウタが適当にチョイスしたモテないという言葉に露骨にショックを受けるライル。

 だがそこでふと何かを閃いたように口を開く。


「ふ、ふふ……。自慢じゃねえがな、これでも俺はリアルで一度女性からバレンタインにチョコを貰ったことがある。恐れ入ったかソウタ!」


「どうせ義理だろ」


「ああっ、やめてっ! それだけは考えないようにしてたんだから、夢を壊さないでっ!」


 発狂しそうになるライルにソウタはやれやれといった仕草をする。


「つーか、こんな話してる場合じゃない。フィーネの話だろ今は」


「おっと、そうだった。すまんすまん。悪かったなフィーネ、一生懸命に頑張ってる奴に言うセリフじゃなかったぜ」


「い、いえ、大丈夫ですっ」


「でも、実際このままじゃよくないよなー。うーん、どうしたもんか……」


 ソウタは数秒間考え込むと、


「あ、そうだ。これならいけるかもしれん」


「え、何か思いついたんですか?」


「ああ、いい作戦を思いついた。名付けて囮作戦だ」


「「囮作戦?」」


 フィーネとライルの声がシンクロする。


「ああ。モンスターってのは、攻撃してきたプレイヤーを攻撃対象として優先して認識するだろ? だからまず囮役が最初に攻撃して注意を引いて、その隙にフィーネが魔法を打ち込むんだ。フィーネは魔法スキルの熟練度はそこそこ高いみたいだから、一撃くらってHPの減少したスマイルラクーンなら一発魔法を当てれば倒せる。これならフィーネにモンスターが襲ってきて怖がることもないって訳だ」


「なるほどー。確かにそれならいけそうです」


「でもソウタ、それじゃ結局フィーネはモンスターが向かって来る怖さを克服できないんじゃないか?」


「いや、大丈夫さ。今のフィーネに足りないのは自信なんだ。ある程度強いモンスターもちゃんと魔法で倒せるっていう自信が付けば、自ずと怖さもなくなっていくもんさ」


「そういうもんかね。まあ俺がゴチャゴチャ言っててもしょうがねえか。フィーネ、頑張れよっ」


「はいっ! 頑張ります! ちなみに肝心の囮は誰がやるんですか?」


「そりゃあライルだよ」


「俺かよ!!」


 ソウタのご指名を受けたライルが驚いて声を上げた。


「だって俺が攻撃したらスマイルラクーンなんて一撃で倒しちゃうもん。お前がやるしかないだろ」


「た、確かに……。しゃーねえなあ、やってやるぜ。でも、その間ソウタは何してるんだ?」


「俺? 俺はあれだよ。二人のことを観察してるよ。オブザーバーってやつだよ」


「何がオブザーバーだ。その単語使ってみたかっただけだろ」


「あ、バレた? まあとりあえずやってみようぜ。ほら、丁度一匹スマイルラクーンが出現したぞ」


「分かったよ。フィーネ、しっかり当てろよ」


「はいっ」


 ライルはスマイルラクーンの方へ走り寄ると、斧で一撃をお見舞いした。

 スマイルラクーンは即座にライルを敵と認識し、反撃しようとする。


「今だフィーネ!!」


「いきます! 【ファイアボール】!!」


 フィーネの放ったファイアボールは一直線にスマイルラクーンめがけて飛んでいき、見事に直撃……しなかった。

 スマイルラクーンが横へひょいッとジャンプして避けてしまったのだ。

 そして、ファイアボールはそのままライルの方へと飛んでいく。


「ぴょえー!!!」


 ライルは奇声を発しながらギリギリで魔法を回避した。

 それを見たオブザーバーソウタは素直に感心する。


「おー、凄い回避力だなあ。やるなライル」


「感心しとる場合か! 死ぬかと思ったわ!」


「ライルさんすみませーん!!」


 フィーネがあわあわしながらライルに謝罪する。


「いいんだフィーネ。今のはあのスマイルラクーンが上手かっただけだ。気にしなくていい。俺は大丈夫だから獲物に集中するんだ。もう一発かましてやれ!」


「は、はいい! 【ファイアボール】!!」


 再び放たれたフィーネのファイアボールは今度はスマイルラクーンへとヒットし、無事に討伐することが出来た。


「や、やった! 私やりましたー!!」


 嬉しさが爆発したフィーネはその場でぴょんぴょん飛び跳ねる。


「おめでとうフィーネ。いい感じだったぞ」


「ありがとうございます! これもお二人のおかげです!!」


「どういたしまして。だけど、まだまだ喜ぶのは早いぞ。この調子でどんどん上手くなっていこう」


「はいっ!!」



 その後、順調に戦闘のコツを掴んでいったフィーネは、夕方頃にはソウタたちの手を借りずにスマイルラクーンを余裕で倒せるようになっていた。

 十分フィーネに成長が見られ、いい時間となったので、三人は始まりの街へと戻り今夜も一緒にご飯を食べることにした。





「ぷはー、食った食った。本当にFLOの料理はおいしいぜー。なんかもうこのままずっとこの世界にいてもいいくらいだ」


 満足げな表情でそう言ったのはライルだ。そこにすかさずソウタが突っ込む。


「おいっ。確かにめっちゃ美味しいけど、ずっとはまずいだろ。クリアしないと死んじまうんだから」


「分かってるって。冗談だよ冗談」


「……ったく。まあそう言いたくなる気持ちは分かるけどな。この世界の住み心地がいいのは事実だし」


「私もそれは思います。この世界には現実世界にはない魅力がたくさんある気がします」


 三人は同時にうんうんと頷いた。

 そして少しの間が空き、ソウタが口を開く。


「ところで明日はどうする? また今日みたいに狩りに行って特訓でいいかフィーネ?」


「はいっ、ぜひお願いしたいです。私、もっともっと強くなりたいです」


「オッケー。ライルもそれでいいか?」


 聞かれたライルは申し訳なさそうに両手を顔の前で合わせ、


「すまんっ! 俺、明日はちょっと外せない用事があってさ。申し訳ないがパスさせてくれ」


「そっか。まあ用事ならしょうがない」


「悪いな。でも、夕方には済ませられるから、今日みたいに夜は一緒に食おうぜ」


「おお、ぜひそうしよう」


「じゃあ明日の午後十八時に中央広場の噴水に集合にしようぜ。あそこが一番分かりやすいし」


「了解ー。フィーネもそれで問題ないよな」


「はいっ」



 明日の予定も決まったので、会計を済ませて三人は店を出た。

 ライルと別れ、二人は宿である涼月へと向かう。

 少し歩いて涼月の中に入ったところで、フィーネがソウタに尋ねた。


「そう言えばソウタさん。普通に涼月に来ましたけど、今日の宿泊はどうするんですか?」


「ああっ! しまった!! 部屋を取っとくの忘れてた!!」


 フィーネに聞かれて、ようやく昨日から部屋が無いことを思い出したソウタは頭を抱えた。


「やっぱり忘れてたんですね。だったら今晩も私の部屋に泊まります?」


 気を利かせてフィーネがそう提案する。

 しかし、ソウタは首を横に振った。


「い、いや。さすがに二日連続は悪いよ。とりあえず空き部屋がないかちょっと聞いてみる」


 そう言ってソウタがフロントのNPCに確認すると、一昨日までソウタが泊まっていた二〇一号室が幸いにも今夜は空いているようだった。

 ソウタは早速料金を払いチェックインを済ませる。


「いやー、なんとか部屋が取れたよ。危ない危ない」


「あ、部屋空いてたんですね。そっか……」


「……ん? 何でちょっと残念そうなんだ?」


「へっ? い、いえ、何でもないですっ! おやすみなさい!」


 フィーネはそう言ってササッと自分の部屋に入ってしまった。


「お、おう。おやすみー……」


 なぜか若干顔を赤らめていたフィーネの様子が気になったソウタだが、眠気が強くなってきたので部屋に入りすぐに眠りについたのだった。

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