第28話 少女の名はフィーネ
その少女は、およそ魔法使いとは思えぬ速度でスマイルラクーンの大群から逃げていた。
よく見ると全身に青いオーラを纏っているので、魔法スキルの【アクセル】でAGIを一時的に増加させているようである。
(しかし、どうやったらあんなにスマイルラクーンを集められるんだか……)
ソウタが呆れを通り越して感心していると、少女はソウタたちの存在に気付く。
「ひええええー、そこのプレイヤーさーん! よろしかったら助けてくださーーい!!」
涙目になりながら少女はソウタたちに助けを求めた。
言われるまでもなく助けるつもりだった二人は、互いに目配せする。
「行くか」
「おう」
二人は女の子を助けるべくスマイルラクーンの群れに躊躇なく飛び込んだ。
手分けしてサクサクと討伐を進め、あっという間にスマイルラクーンは全滅した。
「ありがとうございます! 本当に助かりました!」
戦闘を終えたソウタたちの元へトコトコとやって来た魔法使い少女は、お礼を述べてぺこりと頭を下げた。
ソウタとライルはそれを見て軽く会釈する。
そして、そこで初めてしっかりと少女の顔を視認したソウタは目を丸くした。
先程は遠目から見ていたために気付かなかったが、その少女もリーナとは別系統ではあるが、相当な美少女だった。
可愛らしい顔立ちに肩のあたりまで伸びた綺麗な金髪というその見た目は、ソウタの思う魔法使い少女のイメージ像にかなり近いものであった。
また、小柄な体格ではあるものの出るところはしっかり出ているようで、身に付けている白いローブの上からでも分かる程度には胸部が主張されていた。
ソウタが自身の美少女エンカウント率の高さに驚いていると、
「あ、お二人ともHPが減っていますね。今回復します。【ヒール】」
少女が回復魔法ヒールを使用すると、いくらか減少していたソウタたちのHPが全回復した。どうやらこの子は回復魔法に長けているプレイヤーのようだ。
「あの、私フィーネっていいます。お二人のお名前を聞いてもいいですか?」
「ああ、俺はソウタだ」
「俺はライル。よろしくなっ」
「ソウタさんにライルさんですね、よろしくお願いします。それにしても、あんなにたくさんのスマイルラクーンを軽々と倒しちゃうなんて、お二人とも凄く強いんですねっ。特にソウタさんの強さは異次元って感じでした」
「そ、そうかな? あ、ありがとう」
褒められるのに弱いソウタは、照れて指で頬をポリポリと掻いた。
「そうですよー、ライルさんが霞んじゃうくらいの滅茶苦茶な強さでしたっ!」
その瞬間、ライルがガクッと肩を落とした。
「ふ、フィーネちゃんや……。それはちょっと俺、傷ついちゃうなあ。比べる相手が悪すぎんよー」
「ああっ、すみません! 私ったらなんて事をっ!」
自身の失言に気付いて慌てて謝るフィーネ。「すみません、すみません」と何度もぺこぺこ頭を下げる。
そこに褒められてご機嫌のソウタがフォローに入った。
「まあ気にするなフィーネ。事実ってのは時に人を傷つけるものなのさ」
「なっ!? ソウタこんにゃろっ。さては天狗になってやがんなっ。そんな調子に乗ってる奴はこうしてやる。くらえ! スキル【ヘッドロック】だー!!」
「どわあああ! そんなスキルねえだろおおお! うぐっ!」
ライルはソウタの首に腕を回して「うりうり」と締め上げる。相変わらずの馬鹿力でソウタは全く身動きが取れない。
すぐにソウタはライルの腕をタップする。
「俺が悪かった! 調子に乗っておりました! お願い放してー!!」
「よかろう。はいよっと」
「ふいー、助かったー」
解放されたソウタはホッと息を吐いた。
そんな二人のやり取りを見ていたフィーネが声を出して笑う。
「あははっ、お二人は仲良しなんですね」
「おうよ、俺とソウタはもはや親友と言っても過言じゃないぜ。はっはっはー!」
ソウタの肩に手を回して大声で笑うライルにソウタは少しキョトンとする。
いくらか仲良くはなったが、昨日出会ったばかりでもう親友にカテゴライズされていたとは驚きである。
さすがに親友と呼ぶにはまだ早くね?と言いかけたソウタだったが、フィーネが「うわあ、男同士の友情って素敵ですねっ」と目を輝かせながら言うもんだから喉の奥に引っ込めた。
「あ、あのっ、お二人に一つお願いをしてもいいですか?」
「お願い?」
急にかしこまってそう発言したフィーネに、ソウタは思わず聞き返した。
「はい。私を特訓してくれませんか?」
「特訓? 俺たちが?」
「そうです。私、回復魔法や補助魔法は得意なんですけど、攻撃魔法が全然駄目ですぐにモンスターにやられそうになって逃げ出しちゃうんです。さっきのスマイルラクーンもなかなか倒せないでいるうちに仲間をたくさん呼ばれちゃって……。それでびびって逃げていたんです……」
そこでフィーネは一呼吸置いて、
「私、強くなりたいんです。モンスターにびびってばかりの自分を変えたいんです。だから、ご迷惑でなければ手を貸してくれませんか?」
真剣な目つきでソウタとライルを見るフィーネ。
その目から彼女の本気度が十分過ぎるくらいに伝わってくる。
そうなれば答えは決まっていた。
「分かった。特訓に付き合うよ。いいよなライル」
「ああ、もちろんだぜ」
「あ、ありがとうございます!!」
フィーネは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「そうと決まればフレンド登録でもするか」
「あ、そうですね。お願いします」
三人はメニューを操作してフレンド登録を済ませた。
「さてと……、とりあえずもうすぐ夕方だし、特訓は明日からってことでいいかな?」
「はいっ、明日からよろしくお願いします」
フィーネが深々と頭を下げた。礼儀正しくていい子だなあとソウタが思っているとライルが何かを思いついた顔をした。
「お、そうだ。せっかくだしこれから三人でご飯にでも行かねえか? 親睦を深めるのも兼ねてってことで」
「おお、それはいいアイデアだな。ぜひそうしよう。フィーネもそれで大丈夫?」
「はいっ、ぜひ!」
「おーし、決まり。じゃあ街へ戻ろうぜー」
三人は帰路につくのだった。




