第27話 ブラック・ファントム
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一月十五日。
一晩寝て無事元気を取り戻したソウタとライルは、南エリア奥の草原にて狩りを行っていた。
戦っているのは、このエリアに多く出現する『ポイズンスネーク』という毒ヘビのモンスターだ。
HPが減ってくると使用してくる噛みつきスキル【毒牙】には要注意だが、ステータス的には特に強いモンスターではない。
だが、その割には経験値やフィースを多く落としてくれるので、コスパのいいモンスターと言って差し支えないだろう。
これからしばらくはここを狩り場にするのも良さそうだなと考えながら、ソウタたちはひたすらに狩りを続けた。
「ふう、そろそろ休憩にしようぜー。さすがに二時間ぶっ続けは疲れるわ」
ライルが軽く肩を上下させながらそう言った。
「そうだな。じゃあこの辺で休むとしよ……んん?」
ライルの提案に賛同しようとしたソウタだったが、その目が十数メートル先にいる一匹のポイズンスネークを捉えた。
そのポイズンスネークは丁度草原の奥へと逃げていくところだった。
「おいライル、あんなところに狩り残しが」
「狩り残し? おいおい、たったの一匹じゃねえか。それくらい放っとけよー」
「いや、せっかくだから狩ってくる」
「そうかい。んじゃ、俺はここでレストサークル描いて休んでるわ」
「へーい」
軽く手を振ると、ソウタはポイズンスネークを追いかけた。
そのポイズンスネークはなかなか逃げ足が速く、それなりの距離を追いかけ回したところでようやく追いつく。
「とうっ!」
ソウタがパンチを一発お見舞いすると、ポイズンスネークは呆気なくお亡くなりになった。
「よーし、討伐完了っと。さて、ライルのところに戻るかな……ん?」
その時ソウタはゾロゾロとこちらに近づいてくるプレイヤーたちの姿を視認した。数は三十人ほどいるだろうか。なかなかの大所帯のパーティである。
そして、そのパーティのすべてのプレイヤーが左腕に黒いスカーフを巻いていることに気が付いた。
(あのスカーフ……、ジル達と同じスカーフだよな……? もしかして流行ってるのか?)
何だか趣味が悪いなあと思っていると、パーティはソウタのすぐそばまでやって来て足を止め、先頭にいたリーダーらしきガラの悪い赤髪剣士が口を開いた。
「おいお前、この辺りは俺たちの狩場だ。邪魔だから今すぐどけ」
「な、何だと?」
あまりに身勝手な物言いにカチンときたソウタは、ついリーダーの男を睨みつけてしまう。
「……あん? 何だよその目は。喧嘩でも売ってんのか?」
リーダーの男もソウタを睨み返す。その顔には異様な迫力があり、ソウタは少しだけ足がすくんだ。
「いや、そういう訳じゃないさ。ただ、あんたの言ったことが癇に障っただけっていうか……。狩場なんて早い者勝ちで、誰の狩場だなんて決められるモンじゃないだろ?」
「けっ、綺麗事言いやがって生意気な野郎だなぁ。これは分からせてやる必要がありそうだ」
リーダーの男はニタリと笑うと、腰の剣に手をかける。
(こいつ……! デュエルとかじゃなく普通に襲ってくる気なのか……?)
慌ててソウタも拳を握り戦闘態勢をとった。
「あー、喧嘩ですかラスターさん? いいないいなー。だったら僕に相手させてくださいよー。たまにはモンスターじゃなくってプレイヤーと戦いたいんですよー」
ラスターというらしいこの男のすぐ後ろにいた剣士の男が、心底楽しそうな様子で前に出て来た。
肩まで伸びた白髪が特徴的なその男は、ラスターの比ではないヤバいオーラを放っており、ソウタの緊張感は最大級のものとなった。
「あん? 待て待てカミル。お前に暴れられたらこいつを殺しちまうだろうが。前にも言ったが、このゲームにはキルペナルティがあるから殺人は極力避けてえんだ。だから今は大人しくしててくれ」
「えー、残念だなあ。まあ今日の所は我慢しますかー」
ラスターの命令に従い、カミルと呼ばれた白髪の剣士はぴょんっと後ろへと下がった。
「さーて、じゃあちょっとだけ痛い目に合ってもらうおうじゃねえの」
ラスターは腰の剣を引き抜き構えた。
(来る……ッ!!)
その時だった。
「おーい、ソウター。いつまで狩りやってん……、―――ッ!!」
ソウタの帰りが遅いと思いやって来たライルがこの状況を見て息を呑んだ。
「ら、ラスター……!!」
「……ん? ライル、こいつを知ってんのか?」
「……ああ、ちょっとな」
バツの悪そうな顔となるライル。
「あん? 誰かと思えばライルじゃねえか。何だ? その小僧はお前の仲間か?」
「まあな」
どうやらラスターもライルのことを知っているような口ぶりである。
これは話し合いが出来るかもとソウタは会話に入り込む。
「おい、ライル。知り合いなら何とか言ってやってくれ。こいつがここは俺たちの狩場だからどけって言って突っかかってきたんだよ。おかしいと思うだろ?」
「そういうことか……」
ライルはポツリとそう呟くと、髪をクシャクシャと掻いてラスターの方を向いた。
「悪かったなラスター、俺たちはすぐに他のとこに移動する。それでいいんだろ」
(なっ!?)
ソウタは予想外のライルの言葉に絶句した。
対するラスターは満足げな表情を浮かべる。
「さすがはライル、物分かりがいいねえ。じゃあ、とっとと消えてくれや」
「ああ、行くぞソウタ」
「あ、ああ……」
ソウタはライルに連れられその場を離れるのだった。
無言のままある程度移動したところでソウタは歩みを止め、ライルに声をかけた。
「おいライル。どうして譲ったんだよ。悪いのは明らかにあいつらじゃねえか」
ソウタの言い分にライルは肩をすくめた。
「ああ、全くもってお前の言う通りだソウタ。だけどな、あのギルドには逆らっちゃいけねえ」
「ギルド?」
「ああ。あいつらはブラック・ファントムっていう名前のギルドだ。全員左腕に黒いスカーフを巻いてただろ? あれがあいつらのトレードマークなんだ」
「へえー」
相槌を打ちながら、ソウタはジル達のパーティのことを思い出していた。
(ということはジル達もブラック・ファントムのメンバーだったのか? だとすると気付かないうちに俺は奴らと関わってた訳か)
「そんであいつらは現時点でFLO最大規模のギルドなんだ。正確な所属人数は分かんねえけど、全体で七十人は超えてるって噂だ」
「な、七十!? す、凄いなそれは……。まだゲームが開始しされてそんなに経ってないのに……」
「まあな。他にもギルドはいくらか出来てきてるけど、いくら多くても二十人ほどのギルドみたいだしな。だが、凄いのは何も数だけじゃねえんだ」
「他には何が凄いんだ?」
「プレイマナーの悪さだよ。あいつらはさっきみたいにいい狩場は自分たちのテリトリーにして効率よくレベル上げするし、金を稼ぐためにアイテムを買い占めて転売したりも平気でする。お前も知ってるだろ? ポーションが買い占められて高騰してるって話。あれも奴らの仕業だ」
「何だと……! あいつらが転売してたのか……。なんて奴らだ……」
「他にもプレイヤーを多人数で攻撃してHPをギリギリまで減らして、命乞いするプレイヤーからアイテムや金を巻き上げたりもしてる。前に偶然その現場に出くわして止めに入ったんだが、見事に返り討ちに合っちまった」
「だからさっき、ラスターはお前のことを知ってたのか」
「そういうこと。戦ってみたから分かるが、かなりの実力者なのは確かだ。まあソウタなら勝てるかもだけど、敵に回すとどんな報復があるか分かったもんじゃねえからな。争わないのが無難ってもんだ」
「確かにそうかもな……」
「あーあ、まったく厄介なギルドが出来ちまったもんだぜ。まあPKはさすがにしてないみたいだからそこだけが救いだな」
「いや、そうでもないぜライル」
「……? どういう事だソウタ」
ソウタの言葉にライルは眉をしかめた。
「俺、何日か前にブラック・ファントムのメンバーに襲われたんだ。そいつらも左手に黒のスカーフを巻いてたから間違いない。そんで俺と前にコンビ組んでた仲間はそいつらにMPKで殺されかけた」
「MPKだと……! そんな姑息な手段まで使いやがるのか! 許せねえ……!」
ライルの口から怒りに満ちた低い声が漏れた。その体は心なしか震えているように見える。
「まあ逆にそいつらがモンスターに殺されて、俺たちは何とか助かったんだけどな。ただ、その時のいざこざで俺はペナルティくらっちゃったけど……」
「そういう理由だったのか。そりゃあ災難だったな。しかしまあ、お前もコンビ組んでた仲間も無事で何よりだぜ。さ、いつまでもあんな奴らのことを話しててもしょうがねえ。場所を変えて狩りを再開しようぜ」
「ああ、そうだな」
雑談をしつつ十五分程歩いたソウタたちは、川辺沿いの草原エリアへとやって来た。
「なあソウタ。この辺に出現するスマイルラクーンって知ってるか?」
「ああ、仲間を呼ぶ厄介なモンスターだろ? もちろん知ってるさ。初めて戦った時は次々仲間を呼ばれて苦労させられたよ」
「おお、お前もか。実は俺もなんだよ。仲間を呼ばれに呼ばれて合計十七匹に囲まれちまってさ。尻尾巻いて逃げたわ」
「十七匹って……。そんなに呼ばれるもんなのか……」
「俺もあの時は焦ったぜー。だがまあ、あれで俺はFLOで最も大量のスマイルラクーンに襲われた男になった訳だ。そこはちょっと鼻が高いぜ」
「何だそりゃ。自慢になるのかそれ?」
「さあな。でも、この記録を抜ける奴は他にいないと思うぜ? だから……、ああっ!?」
いきなり間抜けな大声を出したライルにソウタは軽くビクッとなった。
「何だよ急に変な声出して……」
「ソウタすまん……。どうやら俺の一位の座はたった今奪われちまったらしい……」
「……は? どういう事だ?」
「あれを見ろ」
「んー?」
言われた通りに視線を移したソウタは、それを見て唖然とした。
(な、何だありゃ……)
視線の先にいたのは、三十匹を超えるスマイルラクーンに追われる魔法使いの少女だった。




