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第26話 クリームトリュフ

 クリームトリュフを食すべく、ソウタたちは東の森エリアへとやって来た。

 ソウタはそこの景色を眺めながら、リーナと出会った時のことや一緒にクエストをしたことをふと思い出し、少しセンチメンタルな気分になった。


「うーし、じゃあまずは下準備だ。ファムの実を食うとしようぜ。ちなみにこれ、結構美味いんだぞ」


「そうなのか。どれどれ」


 ソウタはファムの実を取り出し、一粒口に含んだ。

 確かに程良い甘みがあって美味しい。普通にお菓子としても楽しめそうな味だ。

 ファムの実の甘さを堪能していると、嗅覚のパラメーターが急上昇した効果なのか、すぐにクリームトリュフの香りらしき独特の甘い匂いが漂ってきた。

 ソウタはクンクンと匂いのする方向を確かめる。


「お、あっちだな。悪いけど一本目は俺が頂かせてもらうぜライル!」


「何っ!? そうはさせるか!」


 ソウタが移動を開始すると、ライルも慌ててファムの実を食べて付いてくる。

 追いつかれてたまるかと、ソウタは魔法使いとは思えないAGIに物を言わせてライルを引き離しにかかる。

 そのまま数十メートル程走ると、木の根元に一本のクリームトリュフを発見した。

 それは綺麗なクリーム色をしており、ライルの言っていたとおり一口サイズの小さなキノコだった。


「よっしゃー。とりあえず一本目ゲットー」


「だああ、くっそー! 先を越されたかー。つーか足速過ぎだろお前よー」


「では、いただきまーす」


 ソウタは悔しがるライルを横目にクリームトリュフを口に放り込む。

 その瞬間、まろやかでクリーミーな甘さが口いっぱいに広がった。


「うわあ……、何だこれ。めちゃくちゃ美味いな……」


 頬っぺたが落ちそうという表現は、まさにこういう時のためにあるのだなとソウタは思った。こんなに美味しいキノコがあっていいのだろうか。いくらでも食べられそうである。


「くっそー! いいなあ、俺も早く食べてー!!」


 恨めしそうにそう叫ぶライル。すると。


「……ん? 待て、近くから他のクリームトリュフの匂いが…………、ああっ! あった!!」


 近くの木の根元にもう一本生えていたクリームトリュフを見つけたライルは、即座にそれに飛びつき取得した。


「よっしゃー! クリームトリュフゲットだぜ!! では早速、いっただっきまーす」


 ライルはクリームトリュフを口に放り込むと、天にも昇りそうな表情になった。


「うおおお、うめえー!! 何だこの優しい甘みは! こりゃ中毒になるレベルだぜ!!」


「本当だよ。現実にもこういうキノコがあったらいいのになー」


「だな。よーし、この調子でどんどん見つけていこうぜー」


「オーケー。…………おっと、その前にバトルの時間みたいだぞ」


「何?」


 ライルが振り返ると、そこには「グルルルル……」と唸り声を上げながら、アクセルウルフが四匹佇んでいた。


「うおっ、出やがったなアクセルウルフ! しかも四匹とかついてねー。気を付けろソウタ。こいつは苦戦の予感だぜ」


「お、おう」


 一応相槌を打ったものの、現在レベル25のソウタとしては苦戦する気は全くしなかった。正直余裕過ぎてあくびが出るレベルである。

 とはいえ油断は禁物なので、しっかりと構えを取る。


「ギャオオオン!!」


 咆哮とともに一匹のアクセルウルフがライルへと飛び掛かった。


「よっと」


 ライルはその攻撃をしっかり避け切ると、斧を振り下ろし一撃を入れる。

 それを何度か繰り返し、ある程度アクセルウルフのHPが減ったところで少し距離を取ってスキルを立ち上げた。


「【裂空閃斧】!!」


 ライルはゴオッ!!と地面すれすれを滑空してアクセルウルフを斧で一閃。アクセルウルフを見事に屠った。

 それを眺めていたソウタは素直に感嘆する。


「おおー。斧スキルって初めて見たけど、普通にかっこいいなあ」


「だろ? VRMMOって剣士が人気だけど、斧使いも悪くな……ソウタ危ねえッ!!」


 ライルが叫んだその時には、三匹のアクセルウルフが背後からソウタに襲い掛かる寸前だった。

 危機的状況だが、ソウタは顔色一つ変えない。全く慌てることなく即座にスキルを発動する。

 そのスキルの名は【三連拳】。今日訪れたコーカス遺跡での道中の戦闘で得たスキルだ。

 赤いエフェクトを纏ったパンチが目にも止まらぬ速さで一撃ずつ三匹のアクセルウルフに襲い掛かり、一瞬でその命を奪い去った。


 その様子を見ていたライルはしばし唖然とし、


「す、すげーなおい!! 一撃でアクセルウルフを倒すとかお前何者だよ! しかも三匹同時に!!」


 ライルは驚きを隠せない様子で興奮気味にそう言った。


「いや、別に何者でもないけどさ」


「一体レベルいくつあるんだよ! 相当高いんじゃねえか?」


「まあ今は25あるけど」


「うへー! 俺より14も上かよ!! そりゃ強いわけだわ。しかも今素手しか使ってなかったよな? これで魔法使ったらどんだけ凄いんだか……」


「あ、ごめん。そう言えば言うの忘れてた。俺、魔法使えないんだわ」


「……へ? 魔法が使えない? 魔法使いなのにか?」


 ソウタはこのゲームを始めてからこのやり取りは一体何回目だろうかと考えながら、


「まあな。なんか分かんないけど、MPが0で固定になっちゃってるんだよね」


「おいおい、何かのバグかそりゃ? 致命的すぎるだろ。……あれ? ちょっと待て……。魔法を使わず素手で戦う魔法使い? ……ああーー!!」


「な、何だよ急に大声出して」


「お前が噂のレベルを上げて物理で殴る魔法使いか!!」


「え? 何それ?」


「お前の二つ名だよ!」


「ええっ!? 変な二つ名付けんなっ!」


「俺が付けたんじゃねーよ。三日くらい前にたまたま見つけた少し古いスレにそう書いてあったんだよ。モンスターを素手で倒しまくる高レベルの魔法使いがいるって。絶対お前のことだよありゃ」


「マジかー。全く知らなかった」


 まさか自分が掲示板で話題になっているとは夢にも思ってなかったソウタは少しばかり動揺した。強いプレイヤーとして認識されるのは全く構わないが、変に尾ひれが付いたりしたらさすがに困る。

 あまり大げさには書き込まないでくれよと、心の中で名前も知らぬプレイヤーたちに呟いた。


「いやー、いつか会ってみたいと思ってたけど、まさか気付かないうちにパーティ組んでるとは。世の中何があるか分かんねーなこりゃ。さ、まだまだ生えてるだろうし、残りのクリームトリュフを探すとしようぜい」


「ああ」




 その後もアクセルウルフを討伐しつつ、ソウタたちは順調にクリームトリュフをゲットしていった。

 そして、各々二十本以上はクリームトリュフを食べた頃。


「さすがに少し腹が膨れてきたな」


 ソウタが右手でお腹を撫でながらそう言った。凄く美味いキノコではあるが、甘い味がこう続くとさすがに少し食欲が減退してくる。


「そうだな。結構食べたし、今日の所はこれくらいにすっか。あー、美味かったぜー」


 そう二人が言葉を交わした時だった。

 近くの茂みの中からクリームトリュフの匂いが漂ってきた。


「あそこか!」


「ああっ! ずるいぞソウタ!!」


 ソウタは勢いよく茂みの中へ飛び込む。ライルも少し遅れて飛び込んでくる。

 そこには一本のクリームトリュフが生えていた。

 少し腹が膨れたとはいえ、あると分かればつい食べずにはいられない。そのくらいこのキノコは犯罪的な美味しさなのだ。


「ん? なんだこいつ」


 そう漏らしたのはソウタだ。

 クリームトリュフのすぐ横にぶくぶくと太ったメタボリックな白黒のスカンクがいたので、口をついて出たのだ。

 そのスカンクを見たライルが大きく目を見開く。


「こ、こいつまさか……、ファッティースカンクじゃねえか……ッ!! ソウタ、これはやべえぞ……」


 ライルは明らかに青ざめており、ただならぬ焦り具合が感じられる。


「な、何だよ。そんなに強いモンスターなのかこいつ」


「いや、そういう訳じゃねえ。強さ自体は普通だ。ただ、こいつはスカンクだけあって、超臭いガスで攻撃してくるって聞いたことがある」


 そう聞いた瞬間、ソウタの背筋に強烈な悪寒が走った。


「ち、ちょっと待て……! 俺たちは今嗅覚が数百倍鋭くなってるんだぞ……。ガスなんかくらったら……」


「だ、大丈夫だ。幸いこいつは今正面を向いてる。ガスはお尻から出るらしいから、刺激しないように立ち去れば……」


 ライルが言い終える前にファッティースカンクはくるりと後ろを向き、ソウタたちの方へお尻を向けた。


「「あ……」」


 そして、殺人級の毒ガスが噴射された。


「「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」」


 森中にソウタとライルの叫び声が響き渡った。




 結局その日一日、鼻がもげるかと思うほどの強烈な悪臭を数百倍の嗅覚で嗅いでしまったソウタとライルは、自身の宿で寝込む羽目になった。

 そして、鼻にこびりついた地獄のような匂いのせいで、クリームトリュフの味などすっかり忘れてしまった二人なのだった。

裂空閃斧の読みは裂空閃斧れっくうせんぶです。

クリームトリュフ食べてみたいなあ……。(ジュルリ)

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