第25話 新たなるパーティ
「でも、どうしてプレイヤーがこんなところで石になってるんだ? このダンジョンには石化魔法を使うモンスターなんていなかったし……。あ……、もしかして」
ソウタは空になった宝箱に視線を向けた。
もしかするとこの宝箱は石化トラップだったのではないだろうか。
不運にもそれを開けてしまったこの男は、ソロプレイヤーだったために誰にも助けてもらえず、ここでずっと石化していた。そんなところだろう。
「そうと分かれば助けてやるかな」
ソウタは先日麻痺で動けなくなった教訓から、ここへ来る前にステータス異常回復アイテムのリフレッシュソーダをしっかりと買っていた。今こそこれを使うときであろう。
ソウタはメニューを操作し、リフレッシュソーダを斧使いに対して使用した。
するとみるみる石化が解けていき、斧使いは人間味のある色合いへと戻った。
「……ん? あ、あれ? 身体が動くぞ。うおおおお!! 石化が解けたああああ!!!」
茶髪のツンツン頭が特徴的で、ガタイもそこそこいいその斧使いは、よっぽど嬉しかったのか遺跡中に響かんばかりの大声でそう叫んだ。
見たところ自分より少し年上っぽいかな……?などと考えていると、男はソウタに気付き、
「……ん? もしかしてお前が助けてくれたのか?」
「あ、ああ」
「うおおおお!! 心の友よおおおお!!」
「どわあああああ!!」
どこぞのガキ大将のようなセリフを吐きながら抱きついてきた斧使いに、ソウタは思わず叫び声を上げた。この間のミツルといい、どうして自分は男プレイヤーばかりに抱き着かれるんだろうかと思いつつ、ソウタはジタバタする。
だが必死のジタバタも空しく、驚異の馬鹿力でがっちりロックされたソウタはなかなか男から離れられない。胸部が圧迫されて呼吸がしにくくなってくる。
生命の危機を感じ始めたソウタは男の背中を慌てて叩く。
「ギブギブ! お前の気持ちはよく分かった! とりあえず一旦俺を解放してくれー!!」
「おおっと、悪い悪い。つい気持ちが高ぶっちまったぜ」
男は謝罪を述べつつソウタを解放した。
「高ぶりすぎだよまったく。凄い力でびっくりしたわ」
「いやー、マジですまん。でも本当に助かったぜー。昨日からずっと石化してたから、もうダメかと思ってたわ」
「昨日から……、そりゃご苦労なことで」
「ホントだぜ全く……。あ、俺、ライルっていうんだ。お前は?」
「俺はソウタだ」
「ソウタか。とりあえずよろしくなソウタ」
「ああ、よろしく」
二人が簡単な自己紹介を終えるとライルは突然、
「なあソウタ、いきなりだけど俺とパーティ組もうぜっ!」
「本当にいきなりだな……」
「へへっ、思い立ったらすぐ行動が俺のモットーだからな。あ、もしかしてもう誰かと組んだりしてんのか? それなら無理にとは言わねえけど……」
「いや、今はソロだ。昨日までコンビ組んでたプレイヤーがいたんだけど、一旦別れたんだ」
「そうなのか。じゃあ丁度いいじゃんか。俺、ずっとソロだったからそろそろ誰かとパーティでも組みたいなって思ってたんだよ。ここであったのも何かの縁ってことで、ぜひ!」
「ま、まあいいけどさ。ただ、見て分かる通り俺、クライムペナルティくらってるんだよ。嫌じゃないのか? 俺と一緒にいるとイメージ悪くなるかもしれないぞ?」
「うおっ、本当だ! クラペナくらったやつ初めて見た!! 全く気付かなかったぜー。すげーなソウタ!」
なぜか突然興奮しだしたライル。何が凄いのかソウタは正直よく分からない。この男はヤンキーに憧れるタイプなのだろうか。
「まああれだな。確かにソウタの言うことも一理あるけど、俺はそういうのあんま気にしないぜ。それにお前は俺のことを見捨ててもかまわなかったのにわざわざ助けてくれた訳だろ? そんなの絶対良いやつじゃん。ペナルティくらったのにも致し方ない事情があったんじゃねえの?」
「ま、まあな。ちょっと危ないプレイヤーといざこざがあってさ……」
「やっぱりな。俺の目に狂いはなかったわけだ。ってなわけで、パーティ組もうぜい」
「……分かったよ。組もう」
ライルの一生懸命なお願いにソウタは折れた。
まだ会ったばかりだが、結構楽しい奴だなとも思えてきたので、ソウタとしてはいい相手が見つかったと実は喜んでいたりする。
「よっしゃー! 改めてよろしくな!!」
「ああ、よろしく」
二人は早速パーティ申請をし、ついでにフレンド登録も済ませた。
「さて、これからどうする? 何かクエストでもするか?」
ソウタがライルに尋ねると、ライルは「いや」と首を振り、
「実はこの間FLO掲示板を見てたら、クリームトリュフっていう甘くて滅茶苦茶美味しいキノコについて話してるスレを見つけたんだ。俺、それがどうしても食べてみたくてさ。それを探しに行こうぜ!」
「クリームトリュフ……、そんなキノコがあるのか。よし、それでいこう。俺も食べてみたいし」
「オッケー、決まりだな」
「ちなみにそれはどこに生えてるんだ? その辺のフィールドに生えてるもんなのか?」
「いや、フィールドには生えてないらしい。俺が見たスレでは、東の小さな森のエリアに生えてたって言ってたな。他の森にも生えてるかもしれないけど、そこが一番確実だ」
「ふーん。東にある小さい森エリアっていうとあれだよな。アクセルウルフが出るとこだよな。俺、あそこに何回か行ったことあるけど、キノコなんて生えてたかなあ……?」
「目に入らなかったのも無理ないさ。一日に生える本数が限られてるみたいだし、一口サイズの小さなキノコだから、そうそう見つからねえらしい」
「そうなのか。となると見つけるには根気強く森中を探し回るしかない訳ね」
ソウタが今日は足が棒になるのを覚悟しなきゃなと思っていると、
「いや、それについては大丈夫だ。俺が仕入れた情報によるとクリームトリュフは独特の甘い匂いを発してるらしいから、その匂いを辿ればいいんだ」
「おお、それならいけそうだな」
「ただし、その匂いは人間の嗅覚じゃ分からないらしい」
「駄目じゃねーか!」
「まあ慌てんなって。そこでこれを使うわけよ」
そう言ってライルはメニューを操作し、ピンク色の木の実を取り出した。
「何だその木の実は?」
「これはファムの実っていってな、食べると二時間嗅覚が数百倍も鋭くなるアイテムなんだ。これを使って匂いを辿れば簡単に探し出せるって寸法よ」
「へえー、見かけによらずちゃんと考えてんのな」
「あららー、見かけによらずとか言っていいのかなー? そんなこと言う奴には、ファムの実分けてやんないぞー?」
「どわあああ! 俺が悪かった! 見かけ通り知的でございます!!」
「よろしい。じゃあこれソウタの分な。ちょっと多めにやるよ」
ライルはソウタにファムの実を五個渡した。
「サンキュー。しかしまあ便利なアイテムがあるもんだなあ」
「おうよ。他にも視力が上昇するラコルの実とか、聴力が上昇するエノスの実とかいろいろあるんだ。森エリアや森ダンジョンで採取できるから、ソウタも暇なときに集めてみたらどうだ?」
「うーん、まあ考えとくよ」
そこまで木の実採取に興味が湧かなかったソウタは、行けたら行くクラスの曖昧な返事をする。
「とりあえず俺、百個近く木の実持ってるから、他にもいくらか分けてやるよ。ほれ」
「悪いな。つーか百個って……、何でそんなに持ってるんだよ。いくらなんでも多すぎだろ」
「いやー、俺田舎育ちだからさ。子供の頃とかめっちゃ木の実集めしてたから懐かしくなっちゃって。ハハハ……」
それにしたって集め過ぎだろうとソウタは思ったが、特に口には出さなかった。
「うーし、とりあえず移動しようぜー」
「了解」
ソウタとライルは森へと向かうのだった。




