第19話 初ダンジョン
ラキア洞窟はファース島の南西側のエリアに位置する洞窟ダンジョンだ。
そこへは草原フィールドをただ歩けば辿り着ける訳ではなく、南西の森エリアを抜けなくてはならない。さほど広いエリアではなく、強いモンスターも出現しない場所なのだが、そこには一種類だけ要注意モンスターがいる。
そのモンスターの名はナックルエイプ。手にボクシングのグローブをはめた体長二メートル弱のサルのモンスターだ。そこそこの強さではあるものの、あくまで殴り技しか使わないため、そこまで苦戦を強いられるモンスターではない。ただしそれは単体での話だ。
リーナによるとナックルエイプは群れを形成する習性があり、群れに遭遇してあっという間に囲まれて死んでしまったパーティがいくつもあるらしいのだ。
多勢に無勢という言葉があるように、何十匹ものナックルエイプに囲まれてしまったらいくらソウタたちでも一筋縄ではいかないだろう。
いざという時のためにソウタとリーナは普段以上に気を引き締めながら森を進んで行った。
だが、幸いにも数体のナックルエイプくらいにしか出くわさず、なんなく洞窟までたどり着いた。
「おー、なんか雰囲気出てるなあ」
そう述べたのはソウタだ。
ゴオオオ……という洞窟の中へ風が流れ込む音が不気味で、口をついて出てしまったのだ。
「そうだね。いかにもダンジョンって感じだわ」
「まあこれくらいの感じがあった方が緊張感があっていいかもしれないな。……ん?」
「どうしたの?」
突然後ろを振り向いたソウタにリーナが反応する。
「いや、なんか誰かの視線を感じた気がして……」
「視線? 気のせいじゃない? 私は何も感じなかったけど」
「そ、そうか? じゃあ俺の気のせいかな……」
ソウタとしては若干の気持ち悪さがあったが、クエストに集中しようとその気持ちをなんとか振り払った。
「じゃ、行きましょう」
「おう」
二人は初のダンジョンへと足を踏み入れた。
ラキア洞窟はダンジョンとしての難易度が低めなのか基本的に一本道であり、ソウタたちは特に迷うこともなくスムーズに進むことが出来た。
モンスターも洞窟には定番のコウモリやヘビのモンスターが出現したが、大した強さではなくソウタたちの敵ではなかった。
そんなソウタたちがいくらか苦戦を強いられたのは、ソードゴブリンという長剣を持ったゴブリンのモンスターだ。
普通の動物系モンスターのようにただ闇雲に攻撃してくる訳ではなく、自ら思考し、プレイヤーの動きを観察しながら攻撃を放ってくるため、かなり戦いにくかった。
おまけに時折剣スキルを使用することがあり、油断すると大ダメージを受けかねなかったので、ソウタとリーナで交互に攻撃をしていく作戦で討伐していったのだった。
そうこうしながら進んで行くと、そこまでずっと一本道だった道が二手に分かれた。二人は歩みを止める。
「右だな」
「左ね」
ソウタとリーナが同時に言った。
「意見が割れたな」
「そのようね」
ソウタとリーナはお互いに目を合わせ、
「「ジャンケン、ポン!!」」
出したのはソウタがグー。そして、リーナがチョキだ。
「うーし、俺の勝ちー。じゃあ右に行くぞー」
「ううー、負けたー。私の勘だと絶対左だと思うんだけどなー」
「ゴチャゴチャ言わずに俺に付いてきたまえリーナ君。ハッハッハー」
不満な様子が顔に出てしまっているリーナだが、渋々とソウタの後をついていく。
五分ほど歩いていくと、そこは見事に行き止まりであった。
リーナはほれ見たことかという顔でソウタを見たが、そこはただの行き止まりではなかった。
そこには一つ宝箱が置かれていたのだ。
「おお、ラッキー。どうやらリーナの言う通り左が正規ルートだったみたいだけど、こっちはこっちで正解だったな」
ソウタはRPGをプレイする際、ダンジョンの分かれ道で先のエリアへと進める方の道を進んでしまった場合、わざわざ戻ってもう一方の道を進むタイプだ。
その理由としては、そういった場合には今回のように行き止まりに宝箱が置いてあることが多いからである。
そのため、さっきもし左に進んでいたら、ソウタは一度道を戻ってこちらの道へ来る羽目になっていたので、今回はその分の時間を短縮できたことになる。
ソウタは意気揚々と宝箱のふたに手をかけた。
「何が入ってるかなー……へぶっ!!!」
開けた瞬間、宝箱からバネ付きのパンチンググローブが勢いよく飛び出し、ソウタの顔面に直撃した。
FLOの宝箱には普通にアイテムが入っているだけでなく、このようにトラップが用意されている。
たった今ソウタが見事にくらったのはパンチングトラップというもので、これをくらうとHPが全体の一割削られる。その他にもステータスが毒状態になる毒ガストラップや石化してしまう石化トラップ、ダンジョン内のどこかにランダムで飛ばされるワープトラップなど様々なものが存在するので、注意が必要だ。
「あらら、パンチングトラップなんて運が悪いなあ。えーっと、ソウタ君大丈夫?」
大の字になって倒れているソウタにリーナが心配そうに声をかける。
「う、うう……。まだ昼過ぎなのに星が見えたよ……」
「そんな冗談が言えるってことは大丈夫そうね。さあ、戻って左の道を進みましょう。レッツゴー」
「れ、レッツゴー……」
渾身のボケを軽く流され、ある意味パンチングトラップよりダメージを受けたソウタはゆっくりと起き上がり、リーナの後を追いかけた。
その後も順調にモンスターを倒しつつ、どんどん洞窟の奥へとソウタたちは進行していく。
だいぶ奥まで進んだなーと思っていると、大きな赤い扉のある部屋の前に辿り着いた。
「これ、絶対ボス部屋だよな」
「そうだね。いかにもって感じだし。とりあえず入る前にHPを満タンにしておきましょう」
ソウタとリーナはポーションを飲んでHPをしっかりと回復する。これでボス戦への備えは万全だ。
「じゃ、入るか」
「うん」
ソウタとリーナは扉を開き、ボス部屋へ入った。




