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第17話 ミツル登場

 翌日、一月十三日。

 ソウタとリーナはクエスト申請所のカウンターにて、本日挑戦するクエストを吟味していた。

 受付のNPCのお姉さんから提供された最新のクエストリストには、お使いクエストやら討伐クエスト、アイテム採取クエストなどなど、バラエティ豊かなクエストが百近くも載っている。

 そんな膨大に連なるクエストを眺め続け、活字離れ現代っ子のソウタは目がチカチカしてどうにかなりそうになっていたが、そんな中ふと一つ気になるクエストを発見した。


「お、これなんかいいんじゃないか? ラキア洞窟っていうダンジョンのボスを倒すクエスト。クリア報酬はフォースブレードだってさ。かなり強力な剣っぽいぞ?」


「フォースブレード……。STRが+45でクリティカル率5%増か。確かに欲しいかも」


「だろ? これに挑戦しようぜ」


 ソウタは早速申請しに行こうとするが、リーナが少し渋い顔をしているのに気付く。


「どした?」


「あー、ちょっとね……。これってダンジョンクエストでしょ? ダンジョンクエストって普通のクエストより難しいって話だから、大丈夫かなーって思って」


「あー……」


 リーナの意見はもっともだった。

 ソウタは今日までのレベル上げをダンジョンは極力避け、あくまで草原エリアや森エリアといったフィールドエリアで行っていた。

 その理由は、ダンジョンエリアでは武器を持つモンスターや魔法を使うモンスターが明らかに増す傾向があるという情報を掲示板で見たからなのだ。

 いくらレベルが上がろうと、想定外の事態で不意に死んでしまうこともあるのがMMORPGの恐ろしいところである。ソウタもリーナも実力のあるプレイヤーとはいえ、二人だけでのダンジョンクエストは確かにリスキーな選択だ。

 ソウタは一瞬逡巡したが、


「まあ確かに少しきつそうだけど、そのうちメインボスに挑むならやっぱ強い武器を手に入れといた方がいいんじゃないか? もちろんリスクはあるけど、それだけの価値はあると思うぞ」


「……ま、それもそうだね。じゃあこのクエストにしよう。それにソウタ君がいれば危なくなっても何とかしてくれそうだしね」


「おう。何かあったらその時は絶対守るから任せとけ」


「あ……。う、うん……その時はお願いね。ソウタ君……、なかなか恥ずかしいセリフ言うんだね。ちょっとびっくりしちゃった」


「お、俺も言ってみて少し恥ずかしかったんだから突っ込まないでくれ! ほらもう行くぞ!」


 そう言ってソウタは恥ずかしさを紛らわすため、やたらテキパキとクエスト申請の手続

きを進める。申請はすぐに完了し、二人は申請所を出た。その瞬間だった。


「きゃっ!!」


 リーナが申請所に入ろうとして来た剣士のプレイヤーとぶつかり、その反動で尻餅をついてしまった。

 ソウタは一瞬、またスカートが捲れてしまってどえらいことと言うかどエロいことになっているのではと危惧したが、今回は大丈夫だった。


「おっと、すみません。大丈夫ですか?」


 ぶつかった剣士プレイヤーがリーナに声をかけた。


「え、ええ。何とか」


 その剣士プレイヤーは、見たところソウタやリーナと同じくらいの年齢の少年だ。綺麗な金色の髪が特徴的で、そして何よりとにかく顔が整っていた。

 美少年剣士という呼称がぴったりのその容姿に、顔面偏差値がごくごく普通……よりかは若干高め(本人の願望をプラス)のソウタは少し嫉妬のようなものを覚える。


「それは良かった。立てますか?」


 美少年剣士はリーナに右手を差し出し引き起こす。


「あ、ありがとう」


「いえいえ、とんでもない。僕がちょっとよそ見してたからこんなことになったんです。本当にすみま……!!!」


 美少年剣士は起き上がったリーナの顔を見ると突然言葉を止め、目を大きく見開いた。

 そしてビシッと顔を決めると、


「お嬢さん、よかったらこれから僕と一緒に狩りに行きませんか?」


 そんな感じのことを言い出した。

 その瞬間、ソウタはピクリと眉を動かした。


(これこれ、容姿完璧剣士くん。その恵まれた顔を武器にナンパとはやってくれるじゃないかコノヤロー。しかし何だろう、どこか残念な感じが漂ってるのは俺の気のせいだろうか?)


「え……、か、狩り? わ、私と……? え? え?」


 ゲームの中とはいえナンパをされるのは初めてなのだろう。突然のナンパにあからさまにドギマギするリーナである。普段は基本的に冷静なプレイヤーなので、その姿はソウタにとってかなり新鮮だった。


「はい。たった今、僕はあなたのその美貌に心を奪われてしまいました。ぜひご一緒させてください」


「び、美貌って……。えーっと、というかあなたはどなた……」


「おっと、これは失礼。僕としたことが名前も名乗らずに……。僕はミツルと言います。よろしければあなたの名前を教えてくれませんか?」


「私はリーナだけど……」


「リーナさんですか。可憐なあなたにぴったりな名前ですね。リーナさん、ぜひとも一緒にモンスター狩りに出かけましょう!」


「は、はあ……」


 綺麗な金髪の髪をファサッと掻き上げながら狩りに誘ってくるミツルに、リーナは困り果てている様子である。


「おや、何やら不安そうな顔ですねリーナさん。大丈夫です、心配はいりませんよ。僕はこれでもレベル12で実力は確かです。きっとあなたのお役に立てますよ。その証拠に見てください、この美しい剣捌きを!」


 ミツルはそう言って剣を鞘から抜くと、その場で剣の腕をアピールしようと剣をブンブンと振り始める。何やら自信満々の表情のミツルだが、さすがに見せる相手が悪かった。

 その剣捌きはリーナと比べるとかなり劣っており、アピールとしては激しく微妙なものとなっていた。剣を振れば振るほどそのダメっぷりが溢れ出る。


 しかし、そんなダサいことになっているとは露知らず、爽やかスマイルでチラチラとリーナの方を見ながら素振りを続けるミツルにリーナは若干顔を引きつらせ始める。

 これは愉快なことになってるなとソウタはしばし傍観していたのだが、リーナがこの変なのを何とかしてよと言わんばかりにソウタの方をキッと睨んできたので、ソウタはやれやれとミツルに話しかける。


「はいはいごめんよー、アピールタイムはそこまででーす。悪いけど、リーナはこれから俺とクエストに行くんだ。だからここは手を引いてくれるか剣士少年」


 ソウタに話しかけられたミツルは、すぐに素振りを止めて怪訝な顔となった。


「むむっ。だ、誰だい君は? いつからそこにいた?」


「最初からいたよ!」


「そ、そうだったかい? なんてことだ、この僕が気配に気付かないなんて……。はっ! もしや【隠密】スキルの使い手!?」


「違うわ! そんな便利スキル使ってもないし、まだ持ってないから!」


 見当はずれな発言の応酬にリズムを乱されるソウタ。どうやらこのミツルとかいう少年が残念そうなのは気のせいではないのかもしれない。


「まあまあ、そんなにカッカしないでくれたまえ。ええっと、君の名前は……」


「ソウタだ」


「ソウタ君か、とりあえずよろしく。……で、君はリーナさんとクエストに行くと言ったね。リーナさんとはどういう関係なんだい?」


「俺とリーナの関係? まあ一時的にパーティを組んでる関係かな」


「パーティを組んでるだって!? 君が!? リーナさんと!?」


「ま、まあな」


「う、羨ましい!! ぜひ僕と代わってくれないかいソウタ君!」


「えっ? か、代わる?」


 突然ソウタの右手を両手で握り、かなりの至近距離まで顔を近づけてそう懇願してきたミツルにソウタは意表を突かれてたじろいだ。


「そうとも! ぜひお願いできないかい!?」


「いやいやいや、さすがにいきなり代わってと言われても無理だって。あと、顔近い」


「そこをなんとか! 代わってもらうためだったら僕はこの場で土下座だってするよ? なんなら足だって舐めてみせようじゃないか!」


「プライドとかないのかお前は! つーか足とか舐められたくねえ! とりあえず何されたって代わらねーぞ俺は!! あと顔近い!!」


「ぐぬぬ……。こうなればしょうがない……」


 ミツルはソウタの手を放し一瞬俯くとすぐに顔を上げ、ビシィッ!という擬音が聞こえてきそうな勢いでソウタに向かって指を指した。


「ソウタ君、正々堂々僕と勝負だ!!」


「し、勝負!?」


「そうとも! ここはデュエルバトルで勝負しようじゃないか。それで僕が勝ったらリーナさんとパーティを組ませてもらう。どうだい?」


「どうだいって言われても……」


 詰まるところミツルが吹っ掛けて来たのはリーナをかけて戦う男と男の真剣勝負のようである。無視してこの場を立ち去ることも可能ではあるのだが、昨日デュエルバトルをレベル差制限によって出来なかったソウタとしては、この提案は魅力的でもあった。

 先ほどミツルはレベルが12あると言っていた。つまり制限には引っかからずデュエルバトルは成立するのだ。ここは受けてみてもいいのではないだろうか。


「リーナ悪い。クエスト行くのが少し遅れるけど、この勝負受けていいか?」


「え、受けるの? ま、まあいいけど……。ソウタ君なら一ひねりだろうし、ご自由にどうぞ」


「サンキュー、リーナ。ということで受けて立つぜミツル」


「おお、いいねえ。そうこなくては。じゃあルールはオールゲージでいいかい?」


「ああ、それでいこう」


 ソウタの返事を聞いたミツルはソウタにデュエル申請を送り、ソウタはそれを了承する。


「あれ? つーかこの勝負、俺が勝った場合はどうなるんだ?」


「おっと、そう言えば決めてなかったね。君が勝ったら……、そうだな。じゃあ3000フィースを僕は賭けるから、それをあげようじゃないか」


「いいのか? そんな大金かけて?」


「ノープロブレムさ、僕は負けないからね」


 すました表情のミツルはそう言いながらウィンドウを操作して3000フィースを賭けた。そしてカウントダウンが開始される。


「随分な自信だな」


「まあね。残念だけど君みたいな魔法使いプレイヤーでは、僕には絶対に勝てないからね」


「へえ……、絶対にか。じゃあその自信を打ち砕いてやるよ」


 何やら白熱のデュエルの予感に、ソウタは胸を高鳴らせつつ戦闘スイッチをオンにして身構える。

 カウントが0となり、ソウタの初デュエルが幕を開けた。


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