第10話 パーティ結成
「パ、パーティ!?」
「え……。わ、私、そんなに驚くこと言ったかな?」
ソウタのお笑い芸人並みの大きなリアクションに、女の子は軽くたじろぐ。
「い、いや……。てっきり言葉にするのもはばかられるような鬼畜な要求をされるものかと……」
「なっ!? し、失礼ね。私そんな悪いことしないわよ」
「ごめんごめん。つい考えすぎてしまった」
「ま、まあいいけど。とにかく、明日またアクセルウルフ討伐のクエストに挑戦するから、パーティ組んで協力してもらいます。いいよね?」
女の子は顔をぐいと近づけそう言った。ソウタは少し困った顔になる。
「あー、その……、なんていうか、クエスト失敗したのは俺のせいみたいだし、その償いはしたいと思うよ。でも、パーティか……」
「あ、あれ? なんかあんまり乗り気じゃない? でも、さっき何でもするって言ったじゃない」
「まあ言ったけど……」
「じゃあ組もうよ。それに君、魔法使いでしょ? 魔法使いがいれば遠距離攻撃要因にもなって助かるしね。……ダメ、かな?」
「…………………………」
ダメなんてことはなかった。
ゲーム開始以来ずっと一人ぼっちだったソウタにとって、パーティのお誘いなど嬉しいに決まっていた。
ましてや芸能界に入ったら天下をとれそうなルックスの美少女からのお誘いだ。こんないい話はそうそうない。本当なら二つ返事でオーケーしたいところである。
しかし、ソウタの脳裏に蘇るゲーム開始初日の苦い記憶がそれを邪魔していた。
自分が魔法を使えないことを話した途端、数々のパーティに立ち去られた出来事。ソウタはそれがトラウマになってしまっていた。
今の言葉から、この女の子は魔法使いとしてのソウタを欲している。
いくらレベルが上がって強くなったとはいえ、正直に事情を話せばこの子も逃げるように立ち去っていくのではないか。そう思うと、ソウタは何も言えなくなってしまった。
「ど、どうしたの……?」
急に無言になったソウタに女の子は心配そうな顔になる。
(ああもうっ、何を黙り込んでるんだ俺。女の子が困ってるじゃないか。一言魔法が使えないことを言う。それだけのことじゃないか……)
両拳を強く握りしめて、ソウタは重い口を開いた。
「あの、さ……。俺、職業は魔法使いなんだけど、どういう訳かMPの値が0で固定なんだ」
「え……。ぜ、ゼロ? 魔法使いなのに? じ、じゃあ魔法は……」
「使えない」
ぴしゃりとそう言った途端、今度は女の子の方が黙り込んだ。それは初日に出会った四人パーティと全く同じ反応だった。
すべてを察したようにフ……とソウタは小さく笑った。
(やっぱりそういう反応になるよな……)
目の前にいる超絶美少女剣士は、自分をパーティに誘ったことを悔いているに違いない。そして、パーティの誘いを破断にしようと考えているのだろう。
だが、ソウタはもう覚悟はできていた。正直に事情を話した時点で、そうなることは必然だ。何を言われようが怖くない。
五秒ほどの沈黙を経て、女の子が閉ざしていた口を開いた。
「魔法が使えない……か。まあ全然いいよ、そんなの」
「……………………………………え? いいの?」
女の子の予想外の返答に、まるでラグったかのように遅れた反応を見せるソウタ。
「うん。そりゃ魔法が使えないことには驚いたけど、この森で狩りしてたってことはそれなりに強いんでしょ君。私がHPを減らしてたとはいえ、アクセルウルフもしっかり仕留めたみたいだし。それに私からパーティに誘ったんだもん。自分から誘っておいてやっぱりなかったことにするなんて、そんな失礼なこと出来ないわよ」
プレイ初日に出会ったあのパーティに聞かせてやりたいセリフだった。何て人間が出来た子だろうか。
何か久しく忘れていた人の温かみに触れたような気がして、ソウタの目から滝のようにドーッと涙が流れ出す。
ソウタは女の子にグイと近づき両手を取ると、
「あ、あんた……、ええ人やああああ……」
「ちょっ! 何泣いてるの君!? そしてなんか鼻水まで出てて汚いんだけどっ!?」
「これは今の俺の溢れる気持ちの結晶だあああ……! ぜひパーティを組ませてくれえええ……! そんで君のクエストクリアに協力させてくれええええ……! うおおおおん!」
「わ、分かった! 分かったから少し離れて! あと鼻水拭いて!!」
大慌ての女の子の指摘を受け、ソウタは鼻水をズズズと吸い込み涙を拭う。
「ふう……、悪かった。少し取り乱したよ」
「少しだったかは疑問だけどね」
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない。じゃあ、これからよろしく……って、えーっと、名前……」
「あ、そう言えばまだ名乗ってなかったわね。私はリーナよ」
「リーナ……か。よし、覚えた。俺はソウタだ。じゃあこれからよろしく、リーナさん」
「ええ。こちらこそよろしくね。でも、さんは付けなくっていいよ。なんかよそよそしいし」
「そ、そうかな? じゃあリーナ、改めてよろしく」
「うん、よろしくねソウタ君」
二人はパーティ結成の証に軽く握手を交わした。
「となれば早速だけど、ソウタ君。私とフレンド登録しない? フレンド登録するとメッセージ飛ばしたりできるし、他にもいろいろと便利だし」
「お、おう。そうだな。ぜひそうしよう」
ソウタはリーナの提案に乗っかり、お互いにフレンド登録をした。
「これでよしっと。じゃあ明日なんだけど、十時に中央広場の噴水前に集合にしましょう。そこから一緒にクエスト申請所に行ってクエスト申請して森に向かう。それでいいかな?」
「ああ、それでいこう」
「オッケー、決まりだね。ところで君はこれからどうするの? 私は街に戻るつもりだけど」
「うーん、俺はまだ狩りしていこうかな。まだ体力残ってるし」
「そっか。じゃあ一旦お別れね。バイバイ、また明日ね」
「ああ、また明日」
お互いに手を振って別れた後、ソウタはもう数時間ほど狩りを続けた。
狩りを終える頃にはもうすっかり日は落ちてしまっていた。
さすがに疲れたと街へ戻り、泊まっている宿へと直帰する。
部屋に入るとベッドに仰向けに倒れこみ、ソウタは天井を見つめながら呟く。
「パーティか……」
ソウタは思わず顔をほころばせた。
ずっと一人だった自分がパーティを組むことが出来て、素直に嬉しかったからだ。
そして何より、魔法が使えない自分を受け入れてくれる人がいることに心の底から安堵したのだ。
それにパーティを組んでくれたのが女の子のプレイヤーで、しかも目を見張るような超絶美少女ときている。ソウタとしてはこんなに嬉しいことはなかった。
「ああ……、明日からの冒険が楽しみだな」
ソウタは期待に胸を膨らませ眠りにつくのだった。




