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第9話 横取りと美少女剣士

 翌日の一月十一日。

 ソウタはより強いモンスターが出現するとの情報があった街の東にある小さな森のエリアを狩場に選んだ。

 小さなとは言うものの、森は半径一キロに渡って広がっているので、言うほど小さくはない。方向音痴なプレイヤーならうっかりすると迷ってしまう広さだ。



 そして、ソウタは現在その森に出現するアクセルウルフというオオカミのモンスターと交戦中だ。

 全身を覆う黒い毛に真っ赤な瞳、そして冷たく光る鋭い牙。

 見るからに凶悪そうな見た目をしているアクセルウルフだが、何よりも凶悪なのはそのスピードだった。

 攻撃手段は突進、引っ掻き、噛みつきという単純なものしかないみたいだが、あまりの素早さにちょっとでも反応が遅れようものならもろに攻撃をくらってしまう。

 現にソウタは森で狩りを始めて数時間でもう十回以上もくらっている。



 そして何より厄介なのは、アクセルウルフは使うと敏捷度がアップする【アクセル】という魔法スキルを有していることだった。

 短時間しか効果は続かないようだが、元々のスピードが尋常じゃないのにさらにスピードアップとか正直勘弁してほしい。

 今戦っているアクセルウルフは今のところは通常状態だが、いつ使用されるか分からない。今のうちにとっとと倒してしまおうと思っていると。


「ギャオオオン!!」


 咆哮と同時にアクセルウルフがスキル【アクセル】を使用、青いオーラを纏った。


「や、やばい……、加速しやがった……って、どえーい!!」


 地を蹴り、目にもとまらぬ速さで突進してきたアクセルウルフをソウタは間抜けな声を上げながらギリギリで避けた。


「あぶねえかすった……」


 次の攻撃が来る前に、ソウタはひとまずアクセルウルフと距離をとる。

 そして、全神経を集中し、相手の出方を伺う。

 ソウタがしばし様子見していると、そっちから来ないならこっちから行くぜと言わんばかりに高速でアクセルウルフが噛みついてきた。


「そう何度もくらうかよっ!」


 ソウタはその場でくるりと身を翻して攻撃を見事に避け、反撃の拳を打ち込んだ。

 その攻撃がクリティカルヒットし、アクセルウルフはお陀仏となった。


「ふう……、何とか倒せたか。しかし、さすがにモンスターをただ狩っていくのも飽きてきたなあ。レベルも十分上がってるし、なんかクエストでもやってみようかな」


 ファース島では始まりの街にあるクエスト申請所へ行き、そこで挑戦したいクエストを申請すれば誰でもクエストが受けられる。

 それ以外にもクエストフラグを立てることで始まるクエストもいろいろあるようだが、いちいち探すのも面倒である。受けるなら前者がお手軽でいいだろう。


 クエストをクリアすればアイテムやらお金など様々な報酬が手に入るし、中にはクエストでしか手に入らない装備などもある。

 これまで雑魚モンスターをひたすら狩りまくっていたソウタは、ドロップで得た回復アイテムや素材アイテムは豊富に持っているが、正直装備品とかに関しては基本的に初期装備のままである。

 レベルも十分上がっていので、何かしら受けてみてもいいかもしれない。


 そんなこんな考えていると、少し先の茂みから新たなアクセルウルフが飛び出してきた。


「お、次のターゲット発見」


 ソウタはアクセルウルフ目がけて一直線に駆け出す。

 その距離はみるみる縮まり、攻撃の届く距離まで近づいたところで拳を大きく振り上げる。


「くらええええ!! ―――んんっ!?」


 その時ソウタは気付いた。アクセルウルフのHPゲージが残り四分の一を切っていることに。

 HPを減らしたのはもちろんソウタではない。

 となるとこれは他のプレイヤーが減らしたものということになる。


(ま、まずい!! これは誰かが狩っている最中のモンスターだ!! 横取りになっちまう!!)


 モンスターの横取り。横殴りとも言われる他人が狩っているモンスターを倒す行為だ。

 その行為自体にペナルティはないが、MMORPGにおける立派なマナー違反である。

 そのマナー違反を犯してしまいそうなことになんとか気付いたソウタだが、攻撃動作の発生がシステムに認識され、タイミング的にもう攻撃は止められない。

 ソウタの魔法使い離れした威力の拳がヒットし、アクセルウルフは一撃で絶命した。


「や、やっちまった……」


 ソウタは天を仰いだ。

 わざとやったことではないものの、MMORPGのタブーを犯してしまったことに若干の焦りを覚える。

 とにかく狩っていたプレイヤーに素直に謝るしかない。そう思い辺りを見るが、アクセルウルフを狩っていたであろうプレイヤーの姿がどこにも見当たらない。


(おやおやー? もしかして今のうちにダッシュで逃げればワンチャンバレないのでは……?)


 バレなきゃ犯罪ではないという名言を思い出しながら、非常口マークのようなダッシュ姿勢へと移行したソウタだが、


「あれー? おかしいなあ。こっちに逃げて来たと思ったのに……。どこにいったのかしら?」


 女の子の声が後ろから聞こえたので、思わず振り向いた。

 そこには剣士の女の子が一人立っていた。


「あ…………」


 ソウタはその子を見た瞬間思わず目を奪われた。


 その女の子の見た目を一言で言い表すとすれば、超絶美少女だ。それ以外の言葉がソウタには思いつかない。

 まるでアニメのキャラクターかのような大きく澄んだ瞳。そして筋の通った鼻と小さな口。

 それらのパーツが黄金比とも言うべき比率で顔に配置されており、整った顔立ちの見本をとうとう発見してしまったとソウタは思った。

 そして、その顔から垂れる紅鶸色べにひわいろの長くて綺麗なストレートヘアも非常に印象的だ。あまりに綺麗で、ソウタがもし女性であったなら少し触らせてもらいたいくらいである。


 身にまとった剣士の服装もとてもよく似合っており、右手に剣を持ったその姿から感じられる凛々しさは筆舌に尽くし難い。

 また、感じられるのは凛々しさだけでなく、下に履いている三段フリルの白いミニのティアードスカートが、彼女からあふれる可愛らしさをより引き立てていると言えた。


 そんな完全に見惚れて呆けていたソウタに女の子が質問する。


「あっ、そこの君。こっちにアクセルウルフが逃げて来なかった?」


 この質問からどうやらこの子が狩っていた張本人のようだとソウタは確信した。


「あー……、来たよ」


「ホント!? どっちに逃げたか分かる?」


「俺が倒しちゃった」


「え……」


「ごめん。君が狩っているモンスターだと思わなくてさ、うっかり倒しちゃった。ハハハ……」


 数秒の沈黙。そして――――、


「なんてことするのよー!!」


「ごめーーーん!!」


 女の子の怒りが爆発し、ソウタは肺の空気すべてを使わんばかりの大声で謝罪する。


「ああ、もう! 謝るのはあとでいいわ、君も早く他のアクセルウルフを探して! リミットが来ちゃう!!」


「え? え? リミット?」


 何のことか分からず、ポカンとするソウタ。ただ、何やら女の子が非常に慌てていることだけは伝わってくる。


「ああっ、もうダメ。残り十秒もない……」


 そう言ってガクッとうなだれる美少女剣士。

 そしてすぐに顔を上げ、その大きな瞳でソウタをキッと睨む。


「もうっ! 君のせいでクエスト失敗しちゃったじゃない!」


「く、クエスト? 何のことでしょうか……?」


 ソウタは何のことか分からず目をぱちくりとさせる。


「アクセルウルフを六時間以内に五十匹倒すっていうクエストよ! 私、そのクエストに挑戦中で残り時間が一分切ってて、あと一匹倒せばクエスト達成できるとこだったのに君が倒しちゃったのよー!」


「あー……、それは、その……ホントごめん」


 事情が分かり、これだけ怒るのも無理はないなと思い心の底から謝る。


「もー、せっかく六時間も必死で頑張って来たのにー」


 女の子はぶすっとしてほっぺを膨らませる。

 その顔はその顔で可愛く、美人は怒った顔も絵になるんだなとソウタは感心した。


「また一からやり直しなんて……。ひどいよおー……。うう……ぐすっ」


 しかし、そんな感心も束の間で、女の子はとうとう涙目になった。


(うげっ! な、泣いちゃってる!? 嘘だろ!?)


「ご、ごめん! 俺が悪かった!! もう何でもするから許してくれ!!」


 焦りに焦ってそう言い放った瞬間、女の子は涙を引っ込め、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「今、何でもするって言ったわね?」


「えっ!?」


 女の子のあまりの変わり身の早さに、ソウタはドキリとする。


(何この切り替えの速さ! さっきの涙はどこ行った!?)


「ち、ちょっと待て! 確かに何でもとは言ったけど、何でもは出来ないぞ! 世の中には限度ってもんがあってだな……」


「さーて、何をしてもらおうかなー」


「聞いてねえし!」


 ソウタの言葉に全く耳を貸さず、女の子はウーンと考える仕草をし始める。勢いとはいえまずいことを言ってしまったと、ソウタは頭を抱えた。

 何でもと言ってしまったからには、どんな要求をされても文句は言えない。

 こんな美少女が人間のすることとは思えない鬼畜な要求をしてくるなどとソウタは思いたくなかったが、人は見かけによらないと言う。覚悟を決めておかなければ。


 女の子は十秒ほど悩み続けるとパンと両手を合わせ、「よし決めた」と言った。

 ソウタの額に一筋の汗が流れる。


(な、何を言う気だ……?)


 ソウタがゴクリと生唾を飲み込むと、女の子は口を開いてこう言った。


「君、私と少しの間パーティ組まない?」


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[一言] お、ヒロインかな
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