アティクシュ
「落ち着いたか?」
オェッ、泣きすぎて嗚咽がしんどい…。
「ええまぁ…」
「急に泣き出すから驚いたぞ。」
私だって驚いた。訳も分からず泣きたくなることもあるもんだなぁと自分の感情の豊かさを恨めしく思う。
「しかしまぁ、大層な話をする割に普通の女の子なんだなアマネは。」
ルイーズさんは何か納得したようにうんうんと頷いている。マズい、私の方が混乱してきた。
「まぁアマネの情緒不安定なとこは昔からだしなぁ」
「そうなんッスか?」
今度は外野が煩いなぁ。等と思っていると何かの気配?揺れ?を感じる。壁の向こう側だろうか?微細な振動が徐々に大きくなり段々近付いてきた。
「な、なにか近付いてますよね?」
「ポロメア!そこから離れろ!」
「え?」
壁が吹き飛びバラバラになった守護者がポロメアさんの背中を強打!前のめりの面白いポーズになり、その突き出したお尻を何者かが足蹴にした!
「ん?ポロメア?どうしてここにいる?」
「その声は、アティクシュの旦那ァ!?どうしてここに!?」
「先に聞いたのは俺の方なんだが…」
アティクシュさん。確かもう一人のSランク発掘員だったかな?ルイーズさんはアティクシュさんの依頼なんな受けないって言ってたし関係はよろしくないのかな。もしかして結構不味い状況?
「壁を突き破って来たのかい。相変わらず滅茶苦茶するねぇ。」
「ルイーズ!君までいるのか。いつの間に!」
一触即発って奴ですね!二人の視線が絡み合い張りつめた空気に。少し距離を取ることにしよう。
「君は俺の依頼は受けないと言っていたじゃないか。」
「アタシはこの子の依頼を受けたんだよ。」
クイと親指を向けるルイーズさん。そろりそろりと距離を取ろうとした私に視線が集まり、図らずも当事者になってしまった。
「そもそも、自分の妻に依頼って言うのは如何にも仕事人間って奴じゃないか。デリカシーが足りないね。そういうのはお願いするもんだ。」
「すまない、次があれば気を付けよう。」
え、妻?夫婦なんですか?もしかしてルイーズさんただ拗ねてただけ?腹筋バキバキの剣士さんは乙女でいらっしゃった?
「アマネ、紹介するよ。コッチはアタシの夫のアティクシュ。学者の私と違って見ての通り脳筋だ。」
「あ、どうも。アマネ=セルと申します。宜しくお願いします。」
「これはどうも、アティクシュです。妻がお世話になっております。」
スレッジハンマーを軽々と持っているけど、この人発掘員だよね。全てを粉々にしそうな勢いだけど。っていうかこの鼠人ってもっとこう、身軽さを売りにしてたような。
「アマネさんだね。見ない顔だが最近来たばかりなのかな?来たばかりで生きた遺跡に来れるとはツイてるね。」
事情を話した方が良いだろうか。一歩踏み出すとルイーズさんに制された。
「アマネはアンタと入れ違いにムガーリアに来た学者さ。デカい遺跡の話をしたら是非見たいって言うから連れてきたんだよ。」
「なるほど、だから銃なんて珍しい武器を持っているのか。」
「あ、はい。こっちはオロールっていいます」
「よっ!」
「喋ったァッ!?」
ひっくり返りそうな程驚くアティクシュさん。その足下でモゴモゴと動くポロメアさん
「旦那ァ!そろそろ踏むのを止めて欲しいッス!」
「あぁスマンスマン。しかし銃が喋るか。遺跡発掘物だしそんな銃があってもおかしくはないな。大発見かなこれは?」
うんうん頷く様子を見るに、何かしら自分の中で納得がいったようだ。良かった。
「守護者を殴り飛ばしながら壁を抜いて来たが、この通路だけどうにも毛色が違うね。もしかして当たり?君達はどこから入って来たんだい?」
「アタシらは入り口から入ってきたに決まってるだろう。」
「なんと、まさか別に入り口があったとは。もっと念入りに周辺調査をすべきだったな。」
ルイーズさんは元々ざっくりとした話しかしないのだろう。大した説明もなくアティクシュさんは納得している。これが夫婦の以心伝心って奴ですね。
「なぁオッサン」
「私はまだオッサンではないが、どうしたのかなオロール君」
「今ここが当たりって言ったけど、何か確信あるみてぇじゃん」
アティクシュさん順応性あるなー。もう普通にオロールと会話してる。ルイーズさんもポロメアさんも接しあぐねてたのに。
「ああ、それはね。そもそも通路に遭遇したのはここだけだ。後は部屋を何ヶ所かぶち抜いて来ただけなんだ。通路にさえ出れば探索範囲は広がるし、見たところこの通路は脇道もなく一直線じゃないか。僕が見てきた部屋とは別に独立したものと考えられるね。もしかしたらこの先から各部屋を回れるようになっているかもしれないし。」
ルイーズさんよりよっぽど学者っぽい洞察力だ!
「折角だから僕も同行させてもらってもいいかな。」
断る理由もないのでアティクシュさんも一緒に来て貰っていいかルイーズさんとポロメアさんに聞いてみると、二つ返事で了承を得た。
この通路の先はきっと、そう。私達の叔父か叔母か知らない奴と、従兄弟とも呼べる奴が待っているのだろう。