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人語遣いの銃と銃使いの少女  作者: N様ちゃん
序章ムガーリアの街
8/14

世界の秘密

「ところでアマネは自分のことを遺跡発掘物(ロストック)って言ったけどさ…」

「はい?」

 探索の途中、ルイーズさんが歯切れの悪いような言い方で声をかけてくる。人くらいの大きさの蜘蛛型守護者(ガーディアン)を蹴り飛ばしながら続く言葉を待っている。

「もしかして武器がなくても戦える系ッスか!?」

 ポロメアさんがルイーズさんの代わりと言わんばかりに、やけに食い気味で質問してきた。起き上がろうとする守護者(ガーディアン)を殴り倒し、私は親指を立てる。

「私だけでは殴る蹴るしか出来ませんけどね!」

 私の身体能力の高さは、まぁ産まれによるところが多い。お陰で魔法は使えないし殴る蹴るじゃ流石に魔獣とは戦えない。ところでオロールはいつまで寝ているんだ。

 トドメとばかりにオロールを振り下ろし、守護者(ガーディアン)は完全に沈黙する。

「いっ、いってぇ!何すんだ!」

「いつまで寝てるつもりなの?」

「喋ったッス!?」

「ポロメア、アンタさっき気付かなかったのかい?」

 いえ、魔法の威力が凄まじすぎてそれどころじゃ、等とゴニョゴニョしているポロメアにオロールを紹介してあげよう。

「もう隠しても仕方ないしね。こいつは弟のオロール。」

「ちげぇ、アマネが妹だ。」

「どこまでが本当なんだいアンタら…」

 別に嘘は言ってない。オロールは私の双子の弟だ。オロールは自分が兄だと思っているらしいけど、私が姉だ。

「私は身体を、オロールは魂に特化して産まれた双子なんですよ。ちなみに私が姉です。」

 アピールすることを忘れてはいけない。

「特化して産まれた…?何が…いや、いい。」

 ルイーズさんは何か諦めたように話を終わらせようとするが、私としてはこの際話せる範囲で話しておこうと思っている。

「いいですか。これは大事なことです。」

 念押し

「私たちは人間という種が強くなるために()()()()」人間です。あ、自分たちが特別だと思っている訳じゃないですよ?」

 もう絶句を通り越して呆れてるよルイーズさん…。でも止める訳にはいかない!

「まぁそんなこんな進化した人間を作ろうとしてる奴がそれなりにいるんですけど」

 ここからは私達自身が過去の記録に基づいた私たちが産まれるに至った推測混じりの説明だ。


 今からずっとずっと昔、この世界は科学の発展に発展を重ね、夜を夜でなくし、隆盛を誇っていた。

 同時に発展した科学はその水準に比例するように兵器をも強大にさせていく。世界を幾度も滅ぼすことも可能な科学の力を持った大国の衝突に人類は滅亡の危機に瀕した。

 勿論それを良しとしない者達もいた。彼等は何故世界は平和にならないのか、人間の指導者では平和を作れないのか、それならば作ればいい。人類を幸福に導く指導者を。

 幾たびの妨害を受けながらも、当時の技術の粋を詰め込んだ人工知能IRISを完成させるに至った。科学者達は求めた。どうすれば争いが無くなるのか。その答えを。

 

 しかしIRISは人類は闘争を捨てることは出来ない。全ての人間が団結するのは不可能だと早急に結論付けた。当時の科学者達は悲嘆にくれた。ならば人類は滅亡しなければならないのかと。

 IRISは答えた。人間は弱い生き物だから兵器を持つ。その身に余る力を。兵器をも超える強さを持てばいいのだと。

 どういう事かと科学者は質問した。IRISは歴史、逸話、ありとあらゆる人類の足跡から一つの疑問とその答えを見つけ出していた。

 何故言語も生活圏も文化もバラバラに散った人類が、太古から神という不確かな存在を信仰しているのか、それは神が実際にいたということではないか。では存在する場所、これを精霊界と定義付ける。

 神話だけに留まらず有史以来、神の遣い、神の子、聖人と呼ばれ名を残している者もある。精霊界がこの世界と僅かに重なり合う瞬間に聖人と呼ばれる存在が産まれていると。


 科学者は理解出来なかった。現実主義者たる彼らは異世界など信じていない。しかし自ら作った人工知能はそう導き出したのだ。科学者たちが戸惑う中、IRISは自身の計算に基づき施設に供給される尽きることのないエネルギーを用い物質世界と精霊世界を統合してしまった。

 地上は混迷の坩堝に陥った。人と獣の境も曖昧になり、僅かに生き残っている動物達も魔獣へと変貌していく。

自立兵器に自我が芽生え、無機物が人型へと姿を変える。まさしく地獄と言っても差し支えない様相だ。

 しかし、しかしだ。それでも人類は争うことを止めなかった。神と呼ばれた者、悪魔と呼ばれた者、それぞれに陣営を分け再び争いだした。

 IRISはそうなることを予測していた。実際の争いでは強靭になった人類に通常兵器なんてまるで役に立たなかった。戦略兵器すらも魔法という力を得た人類には不要な物となった。戦略兵器をそのまま跳ね返されたら…。もしかしたら自らを焼き尽くすかもしれない兵器を使うよりも自らが闘争の舞台に立つことを選んだのだ。

 科学の力は不要になった。戦いは白兵戦へ退化し、文明はみるみる衰退していった。それによって人類は滅亡から遠ざかることとなる。

 IRISは当初の目的に戻る。強い人類を生み出さなければと。

 より多様性を求める為、IRISは自分自身を僅かに個性をつけて複製した。そして完成した人類をベースに世界をリセットし人類史をやり直そうとしている。


「私たちの親はそのうちの一体。だけど慈愛の強い個体だったんでしょうね。()()()私達を不完全に作って私達を地上に送り出してくれました。複製された自分の兄弟たちを止めてくれ。それが親の最後の言葉でした。これが私達です。」

 私達の正体、目的を告げる。事が終わればさっさと行方を眩まそう。この人達が誰かに言ったってきっと誰も信じないだろうし問題ないでしょう!多分!

「長い。」

「長いッスね。」

「え?」

「長すぎてまた寝るとこだったぜ。」

「オロールも!?」

 おかしいな?割と意を決して話したつもりだし、ルイーズさん学者さんだから割と興味バリバリになると思ったんだけどな?

「興味深くもあり、眉唾もんの話だよ全く。」

 頭ガシガシとかきながらルイーズさんは言う。

「だけどまぁ、アマネはこの世界を残したいってんだろ?」

「え、あ、はい。」

「じゃあアタシは協力するよ。」

「え、えぇ…」

「不満かい?」

「だって普通こんな話信じませんよね?」

「正直信じられないよ。だけどアタシはアマネは悪い人間じゃないって思うアタシの勘を信じるよ」

 不意に、涙が溢れる。あれ?どうして?おかしいな…?

「あり…あり…がとう…ございます」

「小難しいことペラペラ喋る割に子供っぽいとこもあるんだねぇ」

 ルイーズさんは私の頭をクシャクシャと撫でる。大きい手だ。とても力強く暖かい。さっき姿を眩まそうとした考えが早くも揺らいでしまった。

 あ、ちょっと落ち着いてきた。目を拭い顔を上げる。


「オレら、置いてけぼりッスねぇ」

「そうだなぁ」

空気を読めない声が二つ聞こえた。

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