アマネ
いつからかは分からない。確信したのは砂噛みを倒した時。見られている。と気付いた。土煙の中で一瞬揺らめく風を切る何かがあった。恐らく光学迷彩のカメラだろう。
どうせコイツは入り口を開ける気はないだろうし、大凡の検討はついてる。いや勘なのだけれども。
「ルイーズさん!ポロメアさん!離れて下さい!行くよオロール!」
ルイーズさんもポロメアさんも置いてけぼりで申し訳なく思うけど、ずっと監視していてだんまり決め込むコイツに腹が立って仕方がない。
「三番シリンダー、出力120%!ハイエクスプロッシヴ!」
「ちょちょまって!それは焼ける!銃身が焼き付く!」
「暫くすれば直るでしょ!」
狙いは湖。こういうのは大体湖の中に入り口があって本来はザバーッとせり出して来ると相場が決まっている。出す気が無いなら水ごと吹き飛ばせばいい。
打ち出された魔法はさして大きくない湖の水を全て吹き飛ばし、対岸に大雨を降らせた。気分がいい。
水が不自然に避けている箇所を見つけ、もう一度トリガーを引く。
「ま゛!!」
オーバーロードしたオロールは気を失ってしまったが、とりあえず監視ドローンは破壊できたのでプラマイゼロだ。残るはーー
「アマネ、アンタ何者だい?」
ポロメアさんの襟首を掴んで待避していたルイーズさんが凄まじい剣幕さで私を睨みつけている。これはやってしまいましたねー。
「ルイーズさん、ここまでありがとうございました。依頼は完了です!報酬の方をお渡ししますね!」
「待ちな。」
流石に流されてくれないか。私に剣を向けるルイーズさん。距離はあるけどルイーズさんにとってはあまり関係はないだろう。私の浅はかな行動の結果では仕方ない。
「分かりました。オロールを休ませなきゃならないし私のことをお話ししましょう。」
でもまぁ、信じられないだろうなぁ。
「んー、どこから話せばいいんでしょう。まず私が魔力が無いのも、そこで気絶してるオロールが喋るだけの銃ってのも本当です。」
ルイーズさんは未だに距離を取っているものの、剣は下ろしてくれた。
「湖だった場所の底、そこに遺跡の入り口があります。厳密にはまだ生きている施設なので遺跡ではないのですが。」
「アンタとその施設にどういった関わりがあるんだい?」
「多分一番奥に私の叔父だか叔母を名乗る金属の柱がいます。それをぶっ壊しに来ました。」
私の目的を簡潔に伝える。至極分かりやすく伝えたつもりだがルイーズさんは頭を抱えてしまっている。
「なるほど、分からん。」
「分からないッスね…。」
ポロメアさんも同じ様だ。
「なんで遺跡に?叔父叔母がいる?ホントに何者なんだ?アマネ」
どうしよう。ぶっちゃけ言いたくない。というか説明するのが非常に面倒くさい。なるべく簡潔に伝える方法がないものか。だけどここで話を切り上げて施設に入ろうとして後ろから斬られるのもイヤだ。嘘を言ってバレて斬られるのもイヤだ。
「うーん…。なんて言えばいいんですかね…。ぶっちゃけ私が遺跡発掘物っていうか遺跡発掘物の娘っていうか…。」
「……。」
今度は2人とも絶句している。表情豊かだなー。
「ガラの悪い親戚を懲らしめに行くって感じですね!」
うん、簡潔かつ嘘もついてない。完璧か私。
「よし分かった」
ほらね!分かってくれた!やっぱ人間話し合いって大事だよね。
「ここで依頼は完了したし、アタシが個人で遺跡発掘しても何も問題はないってことだな。」
あれれ?不穏な感じになってきたな?
「だからアタシが中に入ってもアマネはアタシを止めることは出来ない訳だ。」
今度は私が盛大に頭を抱えることになるとは!
「あ、オレも着いて行くッス。」
「あのー…中はとてもとても危険ですよ?」
「アタシはね、アマネ。アンタのことがよく分からない。そしてその施設とやらのこともよく分からない。知らないことを知りたい。それがアタシら発掘員さ。アマネが中で何をやらかす気か知らないが、アタシの知らないことであるならそれを知りたいと思うのは当然だろ?」
ニィッと不適な笑みを浮かべるのはいつものルイーズさんだ。まだ出会ってそんなには経ってない。だけどこの剛胆さと知的好奇心でこの人は生きてきたんだ。
「私のこと、信用するんですか?」
「信用するかどうかはアマネが決めるんだ。アタシがヤバいと思ったら後ろから叩き斬るよ。」
ああ、最初にこの人を選んで良かった。心からそう思う。それなら私はこの人に斬られないよう善良でいなければならない。私が善良であることが、この世界に住まう人達に為になるのならば。
「では、改めて依頼させて貰ってもいいでしょうか?」
私はルイーズさんを裏切らない。私が裏切らなければルイーズさんもきっと裏切らないだろう。
「内容は未踏施設の探索。報酬は…貴女の知らない世界です。」
「受けた!」
「オレも受けるッス!」
「死んじゃうかもしれませんよ?」
「本望ッス!」
ポロメアさんも目をキラキラ輝かせてた。それならポロメアさんも一緒に来て貰おう。きっと知りたいって気持ちを満たして余りうる探索になるだろう。
「それでは行きます!」
私を先頭にパーティーは施設の入り口を目指す。
ちなみにオロールはまだノびてる。後で気つけしなきゃ。