新たなる人類
奥に進むにつれ守護者とはそれ程遭遇しなくなってきたが、代わりに曲がり角で私達を暖かく迎えてくれたのはレーザータレットさんだ。
「ピカッとしたら滅茶苦茶な熱量の光が飛んできたッス!」
ポロメアさんは穴のあいたナイフを投げ捨てた。運良くナイフに命中し辛うじて回避に成功したけれども、流石に光学兵器なんて何度も避けれたもんじゃない。
投げ捨てたナイフが射線に入り瞬く間に蒸発し、ポロメアさんは青ざめている。
「どうしたものかな。このままでは先に進めなさそうだ。」
とりあえず壁を破壊して回り道しようとするアティクシュさんを止めながらルイーズさんは作戦を練っている。
「床が貫通してる様子もないし、アタシの剣ならとりあえず防げるだろうが見てから防げないのは流石にねぇ」
一発かそこらでルイーズさんの肉厚な剣を貫通出来るとは思わないけれども、身体全体をフォロー出来るわけじゃないし、ここはオロールと私に任せて貰おう。
「私に考えがあります!オロール、今から私の言う順番で魔法の用意をして。」
一番と二番四番に魔力を込めるようにオロールに伝える。
「おいアマネ、これマジで大丈夫?俺の銃口が増えたりしない?」
「なぁアマネ、オロールは怯えてるけど本当に大丈夫なのか?」
科学はいつだって理想ではなく現実的です!親指を立てて大丈夫だとアピールするけれどもルイーズさんは心配そうな顔をしている。
「出力70%ドロップショット。」
壁に向かって大きな水の玉を打ち出す。威力も速度ない玉は壁に当たるとポヨンと跳ねた。続けて曲がり角かどから飛び出す。タレットから発射されたレーザーは水の玉に当たり僅かに屈折し私には当たらない。
「こぇええええ!」
悲鳴を上げながらも次のシリンダーから火球を撃ち出したオロール。文句は言いながらもちゃんと仕事はしてくれる。偉いぞ。
火球は水の玉に命中し、その水分を蒸発させ水蒸気が視界を奪った。
「乱れ撃ちだァーッ!」
なんとなくその辺にいたというアバウトな狙いで岩の槍を次々と具象化させる。
撃ち返されるレーザーはその水蒸気により拡散に生ぬるい光だけが私を照らした。水蒸気の霧が晴れる頃にはレーザーも止まり、目の前には見るも無惨な、いや私がやったのだが岩の槍によって串刺しになったタレットの残骸が残った。
その先も同様の手段で進み脇道には目もくれずただ直進あるのみと突き進み、最奥の部屋へと辿り着いた。
『よく来たね。待ちくたびれたよ。』
聞き慣れない声なのに態度は馴れ馴れしい声がスピーカーから響く。
「会いに来てやったわ、神様気取りの骨董品。」
『おやおや随分嫌われたものだね。』
「魂も無いのに良くベラベラ喋るもんだぜ。」
『僕と君は似た者同士じゃないか。』
一緒にするなとオロールは吐き捨てた。私も同じく一緒にするなっと言ってやった。
『まぁいい、君達はあの変わり者の子供だからね。大方僕たちの邪魔をしにきたのだろう?だがそうはさせないよ。紹介しよう、君の従兄弟たる新しい人類ーー直翅人だ。』
円柱の水槽から人影が飛び出してきた。その様相は今まで見てきた人類とはまたかけ離れた、そう例えるならーー
「バッタね」
「バッタじゃねぇか」
「バッタかい?」
「バッタッスね」
「バッタだな」
バッタがそのまま人になったような出で立ちだった。
『その筋力、繁殖力、獰猛さ、かつての人類が恐れた黙示録に記された悪魔。恐れには憧憬に似た感情が宿ると僕は推測した。これからは直翅人こそがこの星の支配者に相応しい、そう思わないか?』
「まぁそのために今いる沢山の種族が邪魔って考えなければ、今更一種族増えた所で誰も気にしないでしょうけどね。」
「つーかお前ら多様性がどうとかで複製された癖に全く多様性ねーのな、ウケるー。」
「アマネさん、オロールさん、ちょっと説明をお願いしたいのだがいいかな?」
おっといけない、アティクシュさんたちに説明しなきゃ
「コイツ等、人類皆殺しにして僕の考えたサイキョーの人類で地上を繁栄させたいマンです。私達はそれを止めたい正義の味方です。」
き、決まった…!正義の味方宣言、決まった!
「そ、そうか、それは大変だな。」
「アマネさ、アタシが思うにアンタは頭が悪いと思うんだ。」
あ、あれ?おかしいな。反論したいけど目の前のバッタ野郎がいつ動くとも分からないし
「そんなことより間違いなく戦闘になります。一応親戚なので話し合いが出来るならそれに越したことはないですが…。」
『君達が目覚めるのが速すぎたんだよ。ウチの子に言葉や文化を教育する時間がなかった。この子はただ戦い、倒し、食らうだけだよ。まぁ君達を処理してから支配者たる者の教育はしていくよ。それじゃ、準備はいいかな?』
「この人数差で勝てると思ってんのかい?」
『勿論だよ人族。この子こそが新しい人類だ。君達のような出来損ないとは違うんだよ。じゃ、初めてくれ。』
命令を発せられた直後、その姿に相応しい跳躍と速さで此方に前進してくる直翅人。金属を焼き切るレーザーでも貫通出来なかった床のタイルを叩き割る程の脚力でそれは眼前に迫った。




