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人語遣いの銃と銃使いの少女  作者: N様ちゃん
序章ムガーリアの街
1/14

旅の途中、旅の始まり

 草木も見当たらぬ荒野、日差しが燦々と照りつけるのを避ける様に少女は岩影で座り込んでいる。

 目深に被った深緑の外套から覗くのは黒い髪、そして水色の瞳だ。

 傍らにはバイクと呼ばれる遺跡発掘物ロストテックの乗り物と今では誰も使う者のいなくなった旧世代の武器である銃が無造作に投げ出されていた。

「はぁ…あの魔石絶対粗悪品だったよね…」

 恨めしくバイクを見つめながら少女は一人零す。辺りには人影はなくそれは独り言だと誰かが見たら思うだろう。

 しかし少女の零す恨み言に返事が返ってきた。

「だから言ったじゃねぇか!あのサイズの魔石で5000シルバーは絶対出涸らしかなんかだって!お陰で燃料切れでこんなトコで立ち往生だ!だいたいアマネはだなーー」

 声の主は銃である。回転式小銃に似合わぬ怒涛の口撃にアマネと呼ばれた少女はただ苦笑し、土弄りを始める。

「二週間前に泊まった宿…あの時だってお前は、おい聞いてるのか!?」

 アマネに聞く気がまるで無いということに気付いた銃が声を大きくするが、アマネは土弄りを止めそれを制し

「オロール、これ魔石じゃない?」

 その銃の名を呼び、背にもたれていた岩の端に透き通った緋色の部分を指した。

「…………お前運はいいよな、ホント」

 オロールに口があれば他の生き物同様にパクパクとさせていたに違いないであろう間の後にアマネの運の良さを褒めた。

 誇らしげにナイフで無理矢理切り出した魔石を砕きバイクに補給し、彼女らは再び旅を再開する。

 このまま行けば目的の街、熱砂のムガーリアまでは数刻でたどり着くだろう。


「実際さ、歩いても行けなくはない距離じゃん?」

 バイクを走らせながらアマネは言った。

「アマネはバイクを捨てたくなかっただけだろ、物言わぬバイクより意志を持った相棒を大事にするのが人情だと思うけどね俺は。」

「あ、見て、鳥がいるよ、昼食に丁度いいね!」

 旅先で移動手段を失うリスクは大きいが、それ以上に銃に人の道理を語られたのに少なからずダメージを負い形勢不利と見たのかアマネは話題を逸らした。

 魔獣の一種ではあるが、食用としてはポピュラーなクックが確かにいた。

 ここからはいつもの糧食を得るための狩りの時間だと、バイクを停めアマネはオロールを構える。

三番(風属性)シリンダー、出力15%バックショット…」

 狙いを定めトリガーを引く、降りた撃鉄は隙間の明いた魔法陣が描かれた空薬莢を叩く。

 撃鉄が降りることによって魔法陣が完成し、オロールが魔力を流し込むことで発生した風の礫がクックを撃ち抜いた。

 よし!と拳を握るアマネは軽い足取りで仕留めた獲物の回収に向かう。

 手馴れたように血抜きを済ませ鍋を出し調理の準備を進める。

「あれー?アマネさんこれはもしかしていつものー?」

 とぼけたオロールを掴みシリンダーを回しトリガーを引くと銃口から水が流れ出した鍋を満たしていく。

 鍋が満たされた後も鼻歌混じりに何か言いたげなオロールを意に介さず鍋の下にオロールをねじ込み再びシリンダーを回しトリガーを引く。

 今度は銃口から火が出て瞬く間に鍋を沸騰させた。

「あのさー?俺は調理器具でも便利野営道具でもないんだけど?」

 抗議の声もどこ吹く風と言わんばかりにアマネは煮だつ鍋にクックを入れてまた引き上げる。そうして羽根を毟り易くして調理を開始する。

「そうは言うけどさー?オロールだって食事は必要でしょ?私が調理してオロールは手伝う。何も問題ないじゃない。」

 生き物には食事が必要、オロールもまた生き物であるから。

 調理の過程で抜けていく魔獣に含まれた魔素を吸収してオロールは生きている。

 クックを捌き、手持ちの乾燥した香草を詰めて再び鍋に投入。

 簡単ではあるがクックの肉は簡単な調理でも味がよく、また荒野でもかなりの数が多く生息しており、危険も少ない魔獣なので旅人には人気の食材でもある。

 こうして昼食を済ませたアマネは再びバイクで走り出し、目的の街ムガーリアに辿り着いたのは日も傾きかけてきた頃であった。


 バシリー王国の最南端の街ムガーリアはそこから更に南に広がる未踏遺跡の発掘でさかんな街である。本来的であれば定期的に行き来する馬車で荒野を渡ることが多く、街に滞在する学者の多くはそうしている。

 王都を出る際にバイクなら速く着けると荷馬車を選ばず魔石燃料で荒野を渡ろうとし、通常の倍の時間をかけてしまった。

 入街手続きを済ませ宿を探すかとオロールに提案されるアマネであったが

「まだ日は落ちてないし、今日のうちに発掘ギルドに登録してこよう!」

「明日にしようぜ…」

 疲れを見せないアマネと疲れた様子のオロールだったが、拒否権もなく発掘ギルドへと意気揚々と歩き出すのであった。

 遺跡発掘の街ムガーリアでは学者が多くいるが、彼らが遺跡に直接出向くことは殆ど無い。単純に遺跡には防衛省機構や魔獣が闊歩し、危険であるから発掘ギルドに所属する戦闘に長けた調査員が持ち帰った遺物を研究するのが主流である。戦闘に長けた学者もいるが、希な存在であり数は多くない。

 危険が多く比較的収入もよくないとされる調査員になるためにアマネはこの街まで来たのだ。それはーー

「知りたいじゃん!早く!」

 知的好奇心ただ一つで行動する。彼女の行動原理はただそれだけだった。

 知らない物を知りたい、見たことのない物を見たい、純粋な願望を満たすのに遺跡発掘は魅力的に見えたのだろう。

 こうしてアマネはオロールの抗議を一切無視し、発掘ギルドの門を叩く。


 彼女の旅は本当の意味でここから始まる。

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