ナダルside
僕は、サリー伯爵令嬢を初めて見たとき一目惚れをした。
彼女はとても清楚で賢そうだった。
派手で愛を媚びてくる下品な女達と違う、芯の強そうなつよい眼差し、服装、仕草全てが素敵に見えた。
僕は貴族ではないが、伯爵の次女なのだから家を継ぐ事もないだろう。自由恋愛の風潮が広まってる今、彼女を妻にする事は不可能な事ではない。
そう思うと、いてもたっても居られず、すぐにモアド伯爵家へ婚約の申し込みを願い入れたのだった。
婚約が成立し彼女と対面した際、僕は浮かれていた。彼女を早く抱きたくて、つい我慢できずに誘惑してしまった。ここで逃げられたら大変だ。
僕は紳士に接するよう心がけた。
なのに、何を思ったのか彼女は急に色気づいて僕に愛を媚びるようになってしまった。
何と愚かな女だ!
彼女は僕の理想の女性ではなかった。
僕は時々距離を置いたり冷たくして、彼女の方から僕を振ってくれるように仕向けた。
だが、彼女は僕に強い執着を見せた。僕は彼女から恐怖さえ感じた。
そんなに僕に抱かれたいのなら、望み通り抱いてやろう。一回だけの辛抱だ。
優しくしてやる必要なんてない。乱暴に抱いてやればいい。その後も放っておこう。勝手に歩いて帰ればいい。
送ってやる必要もない。万が一道中誰かに襲われたとしても僕の知った事ではない。
これで、僕の事は諦めるだろう。
なのに、なのに、なぜまだ僕に執着するんだ!何回抱けば気が済むんだ!この淫乱が!!
そうだ。僕の商会で沢山貢がせてやろう。愛しい僕に喜ばれる為に必死になって買い漁ればいい。
それに、商会には今僕の愛する女性、ジョアンがいる。将来の為の仕事や家事を覚える為だ。
ジョアンはしっかり者だし、飾り気がなく、明るくとても魅力的な女性だ。
彼女の手に僕からプレゼントした指輪をはめさせておこう。
なにかと目ざといサリーなら気付くだろう。
僕の愛がサリーではなく、向日葵のように明るく素敵なジョアンへと移った事を――。
その時の彼女の顔が見ものだ。彼女の傷ついた顔を早く見てみたいとさえ思えた。
僕はいつからこんなに冷たく残酷な男になったのだろう。
ナダルsideのお話、もう一話入ります。