ナダルside
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あれから僕は、国王の前で裁かれる事になった。
税金逃れ、不正行為、貴族への侮辱罪、詐欺罪など大量の罪で裁かれた。
帳簿や改ざんされた領収書、多くの証言により全て有罪となり、僕は国の強制労働所へ死ぬまで収容される事となった。
本来なら死刑になってもおかしくないぐらいだが、何故か被害者達がそれを望まなかったと言う。
そりゃ、あれだけ僕を叩いて殴って辱めて、損したお金も取り戻せたんだ。あいつらもそれで充分気が済んだのだろう。
むしろこの仰々しい裁判こそ、僕にとっては馬鹿らしい茶番だった。
それよりも、悔やまれるのは、両親の事だ。
僕のせいで、僕の両親まで裁かれる事になってしまい、両親は僕とは別の強制労働所へと送られることになってしまったのだから。
僕のせいで、こんな目にあったのだから、お父さんとお母さんは、きっともう僕を愛してはくれないだろう。
こんなはずじゃなかった。途中までは上手くいっていたんだ。
お父さんの真似をして、商会だってどんどん大きくした。
両親の愛情をたっぷり受けて、スネばかりかじっていた能無しの二人の兄も追い出してやった。
それに理想の奥さんだって見つけた。お父さんとお母さんも気に入ってくれた。子供も生まれた。可愛い孫だと喜んでくれた。
僕の何が間違っていたんだろう。どこで間違えたんだろう。
もう、、お父さんとお母さんとは会えないし、愛されるどころか恨まれてしまうかもしれない。
そう思うと、もう全てがどうでも良かった。
強制労働所へは、他の罪人達と共に荷馬車で連れていかれた。
強制労働所が見えてきたところで、隣にいたおじさんが、僕に身の上話を始めた。
「俺は生まれた時から農民だった。猛暑と台風の塩害で作物がだめになり、生活が苦しくなった時、初めて盗みをした。たった一つのパンを。
そのうち、だんだんと大きな物を盗るようになって、気づいたら大きな窃盗集団にいた。
村には、俺の親父と妻と息子がいたんだ。盗んだ物をお金に替えては、送っていたんだ。
今頃どうしてるかなぁ。俺のせいできっと今頃辛い思いをさせてるだろうけど‥‥。お前さん、家族はいるのかい?」
「家族?」
「奥さんや子供もいるんだろ?」
「あぁ、妻と娘がいた。もう離婚したけど。」
「お前‥‥可哀想になぁ。
まぁ、あれだ。ここにいる間は、俺を親父だと思って頼ればいいさ。」
おじさんは、そう言って僕の背中を思いっきり叩いてきた。
叩かれた背中の余韻が、とても心地良かったのはなぜだろう。
強制労働所での生活が始まった。
朝5時に起床し、7時から夕方6時まで働く。
仕事は土地の開拓や、橋造り、山の間伐が主だった。勿論いくら働いても賃金は貰えない。
慣れない力仕事に最初は苦労した。だが、今ではここでの暮らしに満足していた。
仕事で困ってると、必ず仲間が助けてくれたし、皆んなで仕事の後に食べる食事は美味しかった。
それに体を動かして汗を流すのが、とても気持ち良かった。
仲間が怪我をしたり、病気になった時はとても心配した。
僕は今になって悔やんだ。
もっと、サリーに優しくしてやれば良かった。勝手に僕の理想を押し付けて失望し、冷たい態度をとり、とても傷付けた。
もっと、ジョアンにも優しくしてやれば良かった。妻はよくやってたし、もっと感謝の意を伝えておけば良かった。
娘をこの手に抱いてやった事はあっただろうか。たくさん抱いてやれば良かった。娘の名前を呼んでやった事はあっただろうか。たくさん呼んでやれば良かった。
‥‥娘の名前?娘の名前は何だった?
僕は娘の名前を知らないのか!今まで気付かなかった!
娘が生まれた時、命名はジョアンがすると言ってた。だから娘の名前はジョアンが付けてくれると思ってた。勿論可愛い名前を付けてくれたのだと思う。
けれども、ジョアンは僕の前では一度も娘の名前を呼ばなかった。僕も娘の名前を聞かなかったし、これまで一度も娘の名を呼んだり、話しかけた事もなかったんだから、気付かなくて当然だ。
なんて事だ。僕は、もう二度と娘に会えないどころか、これからずっと娘の名前を思い出の中でさえ呼ぶ事を許されないのか。
胸が苦しかった。涙が溢れて止まらない。
今更悔いたところでどうしようもない事は分かってる。僕が酷い人間だった事も分かってる。
それでも、泣きたかった。この涙をずっと頬に感じていたかった。
次の回で終わる予定です。




