オズワルド商会会長
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ドーベル公爵は、会長のいる応接間へ向かい、簡単に互いの挨拶を交わすとすぐに席へついた。
「公爵様。今日はお呼び頂き感謝しています。今日のお話について、だいたいの察しはついております。差し支えなければ、話をはじめてもよろしいですか?」
「会長、話が早くて助かるよ。はじめてくれ。」
「では‥‥。」
会長はカバンから、幾つかの帳簿を取り出した。
「‥‥うちの商会の帳簿です。ナダルが経営に携わってから、通信費や雑費の名目で高額な経費が計上してあります。領収書を調べてみると、後から手書きで強引に金額を改ざんした跡が見られました。」
「そっちは?」
「うちの貸金業の帳簿と顧客名簿です。
ナダルは勝手に名簿を持ち出し、うちの顧客の何人かから、多額の利子を巻き上げていたのです。しかも、全部自分の懐に入れてました。」
「‥‥他にも色々あるんだね。」
「はい。お客様から時々苦情が来るのです。商品が一部届いていないというのです。それも沢山の方々から。」
「‥‥。」
「注文書や納品書を見ても、間違いは見つかりませんでした。お客様への納品に関しては、お互いきちんと確認を取った上で、代金をお支払い頂き、領収書をきってますから。
それでも、最初のうちは謝罪して商品を用意して持って行きました。
ただあまりにも膨大で、これはおかしいと思い、ナダルを問い詰めました。
ナダルは、お客様の勘違いだから自分が話をしてくると言って、これ以上は私に何も言わせませんでした。
それから、確かにお客様からの苦情は無くなりました。
ただ、何人かのお客様はもう二度とうちと取引をする事はありませんでした。
それでも、ナダルは次から次へと新しい取引先を見つけてくるので、商会としては損失は無いのだと言うのです。」
そう言って会長はしばらく黙りこんでしまいました。
「会長は、ナダルの言いなりになってるのですか?ナダルを諫めて、正すのが会長のすべき事だと思いますが。」
会長の不甲斐なさに内心がっかりした公爵は、少し強めの口調で会長を責めます。
すると、会長は悔しさなのか、情けなさからなのか肩を震わせて泣いていました。
「‥私はとんでもないあやまちを犯してしまいました。‥‥ナダルを最初は、若いのに野心家で行動力もある素晴らしい青年だと思いこみ、娘のジョアンとも結婚を許してしまいました。
そして、経営に関しても‥‥。でも、間違っていた。それを正す事も出来なかった。怖かったんです、ナダルが。情けない。僕のこの不甲斐なさで、沢山のお客様と娘を不幸にしてしまいました。」
「‥‥そういえば、お子様が産まれたそうですね。」
「‥‥はい。‥‥可愛い女の子です。その‥‥娘のジョアンですが、ナダルとは近々別れるつもりでいます。‥‥ジョアンは今‥‥私どもの実家に子供を連れて帰ってきています。」
「‥‥。」
「娘からこれを公爵様にと。」
会長はそう言って、公爵に一通の封書を手渡しました。
「ナダルの商会と家族の事がかいてあります。ナダルにかかわったご婦人達の事も。ご迷惑でなければ、受け取って頂けますか。」
「勿論。ありがたくいただきます。娘さんにも宜しくお伝え下さい。何かあればきっとご協力できると思うので。」
「‥公爵様、なんと。本当にありがとうございます。私にも何か出来る事があれば、是非やらせて下さい!お客様の為、娘の為、私は今度こそ逃げません。」
「ありがとう!早速君には手伝って貰いたい事が山ほどある。」
そう言って公爵は会長の手を取り、固く握手をしました。
会長も何かを感じとったのか、はっとした顔を公爵へ向けましたが、強い意志を込めて公爵の目を見つめ返しました。
会長も覚悟を決めたようでした。




