ドーベル公爵side
あれから僕は、秘密裏にナダルや商会の事を調査し始めた。
とはいえ調査は難航した。悪事の数々がどれも陰湿で、裏が取りにくかったのが原因だ。
幸か不幸か、そうしている間にサリーがナダルに婚約破棄されたという。
願ったり叶ったりだ。だが、サリーは大層傷ついている事だろう。
少し時間を置いて、僕はモアド伯爵邸へと向かった。
伯爵にサリーと婚約を許して貰うために。
サリーと僕との婚約に、伯爵は涙を流して喜んでいた。
伯爵は、サリーに対して今回の事に相当責任を感じており、苦しんでいたのだ。
「もう、これで思い残す事はないです。公爵、本当にありがとうございます。不束者の娘ですが、どうか宜しくお願いします。」
そう言って、伯爵は僕に満面の笑みを見せてくれた。
「こちらこそ、ひとまわりも歳上の僕で申し訳ないが、宜しくお願いしますよ。」
そう言ってサリーを見ると、初めて見る無邪気な笑顔を返してくれた。
「公爵様‥‥。こんな私なのに、本当に宜しいのでしょうか。だって、こんな素敵な‥‥。」
意外にも、サリーは僕の事を気に入ってくれたようだった。
口元を両手で覆い、恥ずかしそうにしながらも、紅潮した顔で申し訳なさそうに、チラチラッと僕を見ていた。
彼女の初々しい反応は、僕をとても甘い気持ちにさせてくれた。
彼女を僕の手で必ず幸せにしたい!そう思ったのだ。
思い返せばこの時、僕はサリーの事をとても好きになっていたのだと思う。
コンコン、
「オズワルド商会の会長が見えました。」
「分かった。すぐに行く。」
オズワルド商会は、ナダルの奥さんの実家だ。会長は、僕の呼び出しに快く応じてくれた。
向こうにも思うところがあるのだろう。
有意義な話し合いが出来そうだ。




