第十七話 東山七瀬の秘密
【お詫び】
前回投稿から期間が空いてしまい申し訳ございません。
個人的なことですが就職活動の方がうまく行っておらずしばらくは週一回投稿くらいの頻度になると思います。
エタる選択肢は絶対にないので今後ともよろしくお願いいたします。
翌日、週初め。
いつも通りに家を出ると、さやかと可憐が玄関の前で待っていた。
「あれ? なんで可憐もいるの?」
さやかはいつもそれぞれの学校への分かれ道となる国道まで一緒に登校するから俺を待っていてくれるのは珍しくないのだが、可憐と俺の家は結構離れてるから疑問に思った。
「彼女と一緒に登校するくらい普通じゃん?」
答えたのがさやかで少し違和感を覚えた。
「ほら、可憐ちゃん」
可憐がさやかから俺の方へと目線を移す。
「優様、私と一緒に登校してくださりますか?」
「お、おう。もちろんだよ」
俺らしくないはっきりしないような態度が出てしまう。
それは可憐がここにいるということよりもさやかが保健室に付き添うお節介の様に感じたからだった。
「じゃ、行こっか」
さやかの合図をきっかけに俺たちは学校へ向けて歩き始めた。
いつもは自転車通学なのだけど、可憐が徒歩だったので俺も徒歩で行くことにした。
時間的には徒歩で行ったとしても余裕がある。
「にしても、結構早かっただろ」
先ほども言ったが可憐と俺の家は行ったり来たりできない距離ほど離れているわけではないにしろ、徒歩で行くのにはそこそこ時間がかかる。
それに、その距離から逆算して可憐が起きる時間もかなり早くなるはずである。
朝が弱い可憐には負担になってもおかしくない。
「いえ、優様に会えると思ったら早起きなんて苦じゃないですわ」
「何時に起きたんだ?」
「うーん。五時くらいでしょうか」
「五時?!」
そんな時間に起きてわざわざ俺の家まで来たのか。
俺が起きるのが七時だから朝が弱い可憐はそれより二時間も前に起きているということになる。
「彼氏に会うために早起きするなんて健気だよ…… 今どきこんな少女は可憐ちゃんしかいないよ」
オーバーリアクションで可憐の早起きを褒めるさやか。
その様子にさっきの印象は無くていつも通りだ。
「すごく眠そうだけど、大丈夫か?」
可憐は自信満々に宣言した口調とは裏腹に、大きな口を開けてあくびをしている。
「可憐は朝弱いんだから無理すんなよ」
「無理なんかしていませんわ。それにそっくりそのままその言葉をお返ししますわ」
目頭に小さな涙を浮かべながらにっこりと笑って可憐はそう言ってくる。
中間テストの件を指摘されて俺はそれ以上何も言い返せなかった。
「そうだよ。倒れるまで勉強する人なんてゆうくんしかいないよ」
肩を持つように、さやかもそのことで俺を咎めてきた。
「もうその話は終わってるって!!」
「あははは」「うふふふ」
慌てて話を終わらせにかかったが二人に笑われてしまった。
新鮮な三人での登校の雰囲気はさわやかな太陽の光にさらされて、可憐だけでなく俺もさやかも脳の覚醒を始める。
「そ、そうだ! 可憐ちゃん、新しくできた駅前のケーキ屋さん知ってる?」
「ケーキ屋さんですか?」
さやかの突拍子もない話題の提供に内心嫌な予感を覚えた。
「そうそう! なんか今女子高生の間で人気だってSNSで話題みたいだよ」
だから俺はその嫌な予感を的中させないために先に釘を打つ。
「可憐の家のケーキのほうがおいしいに決まってるじゃん」
「いや、でもビジュアルがすんごいかわいいんだって。ほら」
そのSNSの写真を表示したスマホを見せてくるさやか。
スマホを持っていない俺や世間知らずの令嬢の可憐と違い、さやかは「ザ・イマドキの女子高生」なのだ。
スマホをのぞき込んでみると確かに見た目がすごく色鮮やかで、女子高生が好みそうな感じだった。
新しく店ができたという情報は聞いていたけれど、その詳細までは確認していなかった。
さやかは俺から聞いた後にちゃっかりと調べているようだった。
それを見た可憐は目を輝かせてしまった。
「まあ! 素敵ですわ」
「だから、今度三人で行かない?」
「ええ、もちろんですわ!」
「ゆうくんが奢ってくれるらしいし」
「はぁ……」
釘を刺したにもかかわらず、さやかはこの間のことをしっかりと覚えてしまっていた。
にっこりと楽しそうに笑う可憐。
先ほどは世間知らずの令嬢とか言ってしまったけど、嘘です。
俺やさやかと一緒にいるうちに、こういうノリも最近は理解している可憐である。
「いいですわね! 私は二つくらい頼みましょうか……」
「マジで勘弁してくれ」
「あはははは」「うふふふふ」
あの時の軽率な発言を後悔するが、さやかに仕返しを喰らわしてやる。
「可憐と二人きりデートするからさやかは無しな」
「なんでぇ!!」
食玩を買ってもらえない子供の様に駄々をこねてさやかは怒る。
「今朝もどうせだったら二人きりが良かったぜ」
「……明日からは私、時間ずらすね」
冗談のつもりだったけどさやかは本気で受け止めているような表情をする。
「冗談だって。泣きそうな顔するな」
「知ってる」
そうこうしているうちにそろそろさやかと別れるところまでやってきた。
「では、さやかさん。ありがとうございました!」
「また明日な」
「うん。二人ともまた明日」
さやかと別れて可憐と二人きりになる。
さやかが見えなくなった途端、可憐は手をつないでくる。
「優様、早く行かないと遅刻しますわよ」
無くなったさやかの背中を眺めていると、可憐に言われた。
「そうだな」
意識を戻して二人で学校へと向かう。
「もうすぐ夏休みですね」
「夏休みか」
「優様はどこか行きたいところとかありますか?」
「う~ん。特には無いかな」
「そうですか……」
ちょっと遠出するくらいなら良かったけど、また財力を行使されて海外旅行とか言われかねないからそう言っておいた。
まあでも、これといって特に行きたいところは無かった。
「可憐と一緒なら、わざわざ遠出しなくても楽しいから」
「そ、そうですわね。優様がそうおっしゃるなら、近場のイベントにしましょう」
そんな夢のような夏休みの話をしているうちに学校へと到着した。
授業が終わり放課後、校門を出ると学校の向かい側にある総合公園に入っていく七瀬を見かけた。
ここ最近、徒歩で下校している七瀬に疑問を覚えていたのだ。
七瀬も可憐に匹敵するくらいの令嬢で、当たり前のように車で登校するのだと思っていた。
しかし、何度か徒歩で下校をする彼女を見かけるたびにそのことが頭によぎっていた。
今日は一人だったので、俺は彼女の後をつけてみることにした。
迷いなく彼女は公園内の特定の場所に向かっているようだった。
しばらく追っていると、以前彼女が車に轢かれそうになった時に俺が無理やり連れてきた、児童公園の区画で彼女は歩を止めた。
そこには小学生が数人遊具で遊んでいて、星聖学園の制服を着た高校生はその場所に不釣り合いだった。
彼女はきょろきょろとあたりを見回すと鞄の中から平べったい皿のようなものと手に収まるくらいの袋を取り出した。
地面にその皿のようなものを置くと、袋の中身をその皿に移し始めた。
「お兄ちゃん何してるの?」
「うわっ!! びっくりしたぁ……」
七瀬の様子を観察していると背後から小学校低学年くらいの少女に声をかかられた。
「お兄ちゃんはちょっと休んでるだけだよ」
「あのお姉さんの事見てたよね?」
少女の指さす方へと目線を移そうと彼女がいた方へと振り向くと、目の前に七瀬の顔があった。
「うわぁああ!!」
「何気持ち悪い声出しているのよ」
「瞬間移動するんじゃねぇよ!」
「で、なんでこんなところのいるのかしら」
歩きで帰ってるのが気になって付いてきたとは流石に言えないので、こいつのいつもの言葉を真似してやった。
「ほ、放課後にどこに居ようと俺の勝手だろ」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人同士でいま修羅場中ってカンジ?」
「はぁ?!!!!!! なんでわたくしがこんなやつと!!!!」
「子供相手になに動揺してんだよ」
俺は膝を曲げてその少女の目線に高さを合わせる。
「お兄ちゃんは、このお姉ちゃんが悪さしないか見張ってたんだ」
「そっか。じゃあ二人とも仲良くしてね。親御さんが悲しむから」
そう言ってその少女は遊んでいる小学生の集団に戻っていった。
えらく語彙力が発達した小学生だった。
「っておい!!!」
目を離すと七瀬は元居た位置に戻っていた。
小走りでその場所へと向かう。
しゃがみこんでさっきの袋から茶色っぽい石ころのようなものを皿に出している。
彼女の持っている袋を見てみるとどうやらキャットフードの様だった。
しばらく待つと一匹の子猫がやってきた。
野良猫は警戒心が強いというが子猫だとそうではないのだろうか。
体は黒い毛に包まれていて足とお腹は白色のぶち模様の猫だ。
その子猫は七瀬が用意したご飯にさっそく口をつけている。
「動物好きなのか」
頭の中に「野良猫の世話なんてするのか」とか「七瀬らしくないな」とかいろいろな言葉が思い浮かんだのだが、結局なんて声をかけたらいいか分からなくて出た言葉がそれだった。
「特に動物が好きということではありませんわ」
「じゃあなんで」
「……この子が、わたくしと似ていたから」
「似ていた?」
七瀬は俺の声には答えなかった。
本日も読んでくださりありがとうございました。
「おもしろい!」「続きが読みたい!」と思ってくださった方はぜひブクマの方をよろしくお願いいたします。
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