第一話 初日の事件
勢いだけで新連載始めました。
「ゆうくん、おはよ」
「お、さやか、おはよー」
今日は高校の入学式。先月俺たちは同じ中学を卒業し、晴れて高校生となった。
大橋さやかは俺の幼馴染で幼稚園からずっと同じクラスだったのだが、初めて俺たちは違う道を進むことになったのだ。
俺は自転車で三十分ほどかかる少し離れた私立高校に入学した一方でさやかは近所の公立高校を選んだ。
担任の先生から佐渡君の成績なら学費免除の特待生を狙えるということでシングルマザーの母さんには少しは楽をしてもらいたいという気持ちからこの星聖学園を受験した。
その結果、俺は特待生どころか入試成績トップで入学を果たすこととなった。
入学式では入学生代表の挨拶を頼まれたのだが、そういうのは俺の役割ではないと思い、断った。
「今日からゆうくんと一緒に学校行けないなんて、私さみしさで死にそうだよぉ」
俺は愛用のママチャリを押しているが、彼女は徒歩だ。
「家は隣なんだからいつでも会えるだろ?」
「ま、そうだね! これからも会えるよね。私たち」
そう言うと彼女は俺の背中に飛び乗ってくる。
朝から元気なのは幼稚園時代からずっと同じだなぁ。
「重い、重いって」
「年頃の女の子に重いとか言っちゃダメだよ!」
「はいはい、さっさと降りろって」
俺もさやかと同じで彼女と違う高校に行くのはやはり少し寂しい。
十年ぐらいずっと二人で同じ学校に通っていたんだから。
しかしいつも通りの朝の光景が繰り広げられているところを見るとそこまで深刻な問題ではないのだろう。
「じゃ、ここでお別れだね~」
「そうだな」
国道に出ると俺たちはそれぞれ反対の方向へ進むのだった。
俺は新生活への期待やら不安やらを抱えながら新しい学び舎の門をくぐったのだが、そこで目を疑うことになる。
「噂には聞いてたけど……」
そう、この星聖学園は超名門の金持ち学校。
俺みたいに自転車で登校する奴なんて一人もいない。
黒塗りのリムジンやらスポーツカーやらで登校する学生が大量に見受けられる。
なんというか生徒のオーラというものが全然違うのだ。
金持ちというオーラがにじみ出ていて一人一人に気品が漂っている。
「やっべえところに来ちまったな……」
俺はママチャリから降り入学前に学園から送られてきた手紙を取り出す。
学園側は自転車登校なんてものは想定していないらしく、自転車置き場が無いのでこの辺に止めておいてくれという旨が書かれている。
おそらくこの手紙は俺にしか届いていないんだろうな……
手紙をしまい再びママチャリに跨る。
「にしても、広すぎだろっ!!!!」
一人でツッコんでしまうくらいにはこの星聖学園の敷地面積は想像を絶する広さだった。
あらかじめ手紙で学園内の地図を見ていたと言えども実際にそこに足を踏み入れてみるとその圧倒的敷地面積に息を呑むしかなかった。
しばらく漕いで実質俺専用の自転車置き場となる旧校舎裏周辺に着くと、そこでは初登校時に見たくない悪質な行為が行われていた。
一人の少女が七人か八人くらいの生徒に囲まれて罵声を浴びせられ、びしょびしょになって倒れている。
「おい、おまえら何やってんだよ!」
俺はそこにいる全員に聞こえる声で怒鳴っていた。
俺はイジメなんてものは絶対に見逃せない性格だ。
中学時代でもイジメは少なからずあったがここまで残酷で分かりやすいイジメを目撃するのは初めてだった。
「はあ? なんですの。その色消ししたような言葉使いは」
主犯格らしい金髪の女が答える。
相手を挑発するような声音だ。
「お前が主犯格か」
「何を言っているのかしら。部外者は口を出さないでいただけますの?」
俺は周りにたかっているクズどもをかき分けて倒れている少女の元へ駆け寄る。
「こんなことをほっとけるわけないだろ」
俺は吐き捨てるように金髪の女を睨む。
それを聞いた周りの生徒は笑い声をあげる。
「その女に手を出すというのならあなたは東山グループを敵に回す、ということになりますがよろしいのですか?」
「東山グループ?」
「そうです。この方は東山グループのトップ企業、東山製作所の社長令嬢の東山七瀬様でございます」
取り巻き一号っぽいメガネの女が丁寧な紹介をしてくれる。
金髪は鼻を鳴らすとまた偉そうな態度をする。
あの東山製作所ってCMでもやってる総合電機メーカーの東山製作所か?
「私は大丈夫ですから。あなたは私に関わるべきではありません」
びしょ濡れの少女は体を起こし俺に伝えてくる。
「仕方ないのです。入学試験で最下位の成績をとってしまった私が悪いのです」
「はあ?」
その少女が何を言っているのか分かりかねる。
「そう! その女はこの伝統ある星聖学園の入学試験で最下位の成績で入学した醜悪な女。そんな女は羞恥に晒され地面を這いつくばるのは当然なのです」
「何を言っているんだ?」
俺はびしょ濡れの少女に手を貸して、抱きかかえる。
「成績最下位の新入生は『洗礼』を受けることが伝統となっているのです」
無茶苦茶なルールだが理由は分かった。
だが、そんなバカみたいなルールがまかり通ってたまるか。
「そんなしょーもねえ理由で、寄ってたかって弱い者いじめするんじゃねえよ!」
俺は金髪の目を野獣のような眼光で射抜く。
それを見た金髪は驚愕が隠せないようで目をパチクリさせている。
「――それ以上、その女に触るというのならこちらもそれ相応の対応をさせていただきますが」
「ああ、勝手にしろ。このクズどもが」
「おい、言葉遣いに気をつけろよ、この下劣が」
取り巻き二号っぽい男が声を上げると金髪はそれを制す。
「ほう。おもしろい。ちなみにあなたは入学試験の成績は何位でしたの?」
俺にそれを聞くんだな……
言ってやるぜ。
「聞いて驚くなよ」
あたりが静寂に包まれると俺は不敵な笑みを浮かべる。
「早く言いなさい」
俺はしっかり息を吸って十分に溜める。
そして、一気に肺の空気を吐き出す。
「俺が入試成績一位の佐渡優だ!!!!」
それから俺の学園生活は壮絶なものになる。
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