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9話 シンジュク冒険者ギルド西門支部

 入り口に立つと、横開きのドアが自動的に開いた。

 途端に中の喧噪が耳に飛び込んできた。思わず自分の口元が緩んだのが分かった。うん、やっぱりここは冒険者ギルドだな。


 外観は、三階建ての箱形のビルだった。相変わらずの謎知識で、これが冒険者ギルドだとは到底認めがたい気持ちになった。もし、入り口の脇に看板がなかったら、首を傾げて回れ右をしていたと思う。


『シンジュク冒険者ギルド西門支部』


 はっきりと書かれているから、このビルが冒険者ギルドで間違いない。

 この冒険者ギルドのビルを含めて、ここの街自体が、整然としたビルが建ち並ぶ計画都市だった。

 せっかくだから、いま降りてきた謎知識全開でいくぞ?


 物語でよく語られている大抵の魔法文明が、何故か中世ヨーロッパが舞台になっていることが多い。それは、魔法で身の回りのことがある程度できるから、利便性がそれ以上追求されないからだと思う。

 誰しも普通に問題なく生きていけるなら、わざわざ技術を高じようさせる必要が無い。だから文明自体も、中世の街並みで止まるというわけだ。

 ただこの世界は、若干毛色が違っているようだ。


 まず大前提で、『人間』には魔力が無い。そのため、普段の生活を魔法に頼ることができないことになる。そこを補う形で魔道具が使われている。魔道具を作るために魔術が使われ、動力源に魔石を使って、魔法の代わりを補っているらしい。何だかややこしい。

 当然ながら、魔道具は技術として進化し続けるわけで、俺が乗ってきた魔石で動く車なんて、その技術の結晶だろう。


 それとは別に、素の状態で魔法を使える種族もいるようで、そういった種族をまとめて『魔族』と呼んでいることが分かった。

 魔族には、エルフやドワーフと言った有名どころから始まって、竜人に鬼人、果ては悪魔族なども含まれているようだ。ここの部分が、いわゆるファンタジー系種族の括りだ……まて、ファンタジーって何だ? さすがに意味不明だぞ。


 つまり単純に、魔法を使えない人間族と、魔法を使えるその他の種族、みたいな構図になっている。

 当然、人種対立みたいなものもあって、国によって人間と魔族が対立していたり、逆に異種族が協力して国を盛り上げていたりするようだ。


 ちなみに、俺が今いるここは前者のようだ。見る限り人間しかいない。人間だけの街は、技術水準が高くなる傾向があるみたいだし。

 街の中に入ると、道路が黒く綺麗に舗装されていた。

 建ち並ぶビルも高く、知識にある魔法世界の街並みから大きくかけ離れた景観が広がっていたわけだ。


 ここで、冒険者ギルドに戻る。


 技術が進歩し、車が走っているにもかかわらず、人類の版図はそれ程広がっていない。

 その原因が、世界の大半の地域にいる『魔獣』の存在だ。

 人類に分類される人間族と魔族とは別に、世界の九割近くを動物と魔獣の生息圏で占められている。

 特に多いのが魔獣で、その大半が強力な力を持っているため、人類は狭い範囲でのみ生活圏を維持するしか生きていくことができない。


 ただ、悪いことばかりではない。

 魔獣を倒すと、必ずその体内に魔石がある。この魔石が、全ての魔道具に使用されて、生活の大切なエネルギー基板になっている。


 その魔石を集める仕事をしているのが、冒険者ギルドに所属している冒険者たちだ。彼らが命を賭して魔獣を討伐し、そして魔石を都市に持ち帰ることで社会が回っているわけだ。


 以上、謎知識からの抜粋になる。




 自動扉をくぐると、広めのロビーがある。正面にはカウンターがあって、用途別にギルド職員がいて、冒険者の仕事をサポートしてくれている。さらに左右には休憩エリアがあって、ここで食事などをとることができる。

 ちなみに、食事自体もギルドのカウンターで注文できるようで、今も何人かの冒険者が食事を頼んでいた。

 依頼などは左右の掲示板にたくさん貼られていて、依頼の開始手続きはギルドカードを掲示されている依頼票に接触させることで、受付が完了するようだ。

 稀に受付が出来ないときがあって、その時は依頼票を剥がして受付までもっいてけばいいらしい。


 ここのシステムだけは、知っている冒険者ギルドと大きな違いが無いようでほっとした。

 地域によっては、冒険者という言葉がいい意味に取られないようで、探索者ギルドの名称も使われているのだとか。ただどっちも根っこの部分は同じシステムが使われているそうで、ギルドカードはどこに行っても使えるらしい。


 ちなみに今いるここが、冒険者が一番使うフロアになる。

 ここより上の階は、研修室や、冒険者のための宿泊施設などがあって、冒険者登録すれば格安料金で利用できる。ギルドカードは身分証明書にもなるようだ。


「以上が当冒険者ギルドの説明になります」

「お……おう……」

 時間的なものもあったのか、受付嬢は相当暇だったらしい。俺が新規登録カウンターの前に立った途端に、笑顔のまま怒濤のごとく説明された。

 いや、いいんだけど。わかりやすかったし。


「それでは、冒険者登録をなさりますか?」

「ああ、手続きを頼む」

 俺の言葉に受付嬢は頷くと、カウンターの下から一枚の紙を取り出した。ペンを添えて、俺に見えようにカウンターに置いてくれる。


「もし住民カードを持っていれば、この手続きが省略できます。住民カードはお持ちでしょうか?」

「いや、持っていないな」

「それでは、分かる範囲でけっこうですので、そちらの紙を埋めてください。

 それから登録をするのに銀貨一枚が必要になります」

 財布から銀貨を一枚取り出して、先に受付嬢に手渡した。受付嬢は銀貨を受け取ると、彼女の後ろにあった機械に銀貨を投入した。

 銀貨……徴収するんじゃ無いのか?

 黒い窓に明かりが付いて、『記録用紙受け入れ準備完了』の文字が浮かび上がった。何気にハイテクなのだろうか……。

 ぼーっと見ていたので、振り返った受付嬢に首を傾げられてしまった。

 慌ててペンを持って、名前の項目を見て、思わず動きを止めた。


 名前……無いよな、俺。

 そもそもがガスの筒の中、あの液体の中で産まれたと思っている。親だっていないし、いたとしても知らない。

 何も書けないことに気がついて、どうやら眉をひそめていたらしい。


「もし文字が書けないようなら、代筆も可能ですよ。冒険者になる方の何割かは、教育を受けていない場合がありますから、そういった場合はこちらで聞き取って代筆をすることになっています」

「いや、ごめん。俺は大丈夫だ、ちゃんと自分で書けるよ」

 そう言ったものの、名前か。

 別に名前がないんだから、好きな名前を書いて自分の名前にしてもいいんだよな。


『レイジ』

 内心驚きながら、特に迷わずすらすらと書けた。

 文字が読める時点で、書けるだろう事は分かっていた。謎知識様々だけど、初めて書いた文字が、自分で考えた自分の名前だとは思わなかった。


 住所はないから書かなかった。

 他には、車所有の項目にチェックを入れて、使用武器に剣と描き込んだ。

 受付嬢に手渡すと、さっきの機械に申請用紙をセットした。画面が『記録用紙挿入確認しました』に変わり、申請用紙が機械に吸い込まれていった。

 少しして、機械の下部から長方形のカードが出てくる。


「こちらが冒険者ギルドのギルドカードになります。ランクは『A』から始まり、実績を積んでいくと『B』から『C』次に『D』の様にランクアップしていきます。

 カードを紛失した場合には、再び銀貨が一枚必要になりますので、常に首から提げておくようにお薦めします」

 そう言って、カードに空いていた穴にチェーンを通して、手渡してくれた。

 さっそく首に掛けて服の中にしまうと、一瞬、胸の辺りにあねカードが温かくなった気がした。


 そのまま車両組合に行って、車の登録も済ませた。

 最初は銀貨一枚と言われたのが、確認の際に冒険者ギルドのギルドカードを提示したら、銅貨二十五枚に割引してもらえた。そのまま車両を見てもらって車両情報をギルドカードに追記してもらった。どうやらカードの規格自体は一緒で、共通で使えるらしい。

 その後でナンバーも付けてもらえた。やったね。


 手続きが全部終わって何気なくナンバーを見たら、いつの間にか車と一体化していた。どうやら盗難対策もされているらしい。

 とはいえ、車自体を盗難されたらたぶん元も子もないんだと思う。

 車から離れる際には、鍵だけでなく魔石も外しておくようにと、車両組合の職員さんにアドバイスを貰った。それだけでも盗まれる確率が減るらしい。


 色々やっていたら、いつの間にか夕方になっていた。

 確か、冒険者ギルドのギルドで宿泊も出来るんだったか。俺は車に乗り込むと、再び冒険者ギルドに向かった。


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