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6話 靴を履くには靴下がいる

 森を抜けた先にあったのは、戸建てが立ち並ぶ住宅街だった。ぐるっと見回すと、大半の家がまるで内部から爆発したかのように崩れていた。

 無事な家は、全く無い。

 歩きながら、相変わらず足裏に刺さる瓦礫に顔をしかめた。


 近くの家を覗いてみると、所々高熱で融溶した跡が見られた。

 次の家を見ても、やっぱり内側から爆発してる。これはいったいどういう状況なのだろうか?

 何軒か家を覗いたところで、少し先に破壊被害が軽微な家が見えてきた。もしかしたらあそこなら、服と靴が手に入るかも知れない。

 俺は逸る気持ちを抑え、周りの様子を伺いながらゆっくりと進んでいった。




 その家は、周りの家と比べると一軒だけ作りが古風の家だった。

 この辺は計画的に土地を分割したたのだろう、敷地面積は他の家々と同じだった。ただ、土地を仕切っていた壁は全て崩壊しているため、『だろう』でしかないけれど。

 さすがに住宅街なので、罠とかは無いだろう……まで考えたところで、足を止めて首を傾げた。


 なあ、罠っていったい何のことだ……?


 たまに何の脈絡も無く知識が降ってきて、それを当たり前のように理解して考えている。

 正直言って、知っていることに関しては有り難い。生存率がかに理上がるはずだし。ただ、やっぱりその都度戸惑う。

 罠って言うのは……そうか、ダンジョンの話か。少なくとも、ここがダンジョンだという感覚は無い。森から出てきて最初に着いた住宅地、さすがにここが作られた景色だとは思えない。


 足裏に感じる瓦礫を極力気にしないように、再び歩みを進める。


 いまも空に浮かぶ太陽から、熱い日差しが降り注いでいる。肌に感じる熱は、まさしく太陽からの日差しそのものだ。

 さっきだって、女の人がいたじゃないか。まあ、あっという間に命を散らしたみたいだけど……。


 敷地に入り、無事な玄関の扉に手をかけた。

 扉を開けようとして、足下にあった少し大きな瓦礫が引っかかったので、一旦扉を閉めて瓦礫を動かし、再び扉を開けた。


「あ……靴。あった」

 玄関には、たくさんの靴が散らばっていた。ここは、靴を脱いでから中に入る家なのだろう。それでも、今度は靴を履きたい。

 上がり框に腰をかけて、足の裏に刺さっている瓦礫を取り除いた。改めて見た足の裏は、血で赤く染まっていた。一瞬どうしようか悩んだものの、背に腹はかえられない。そのまま履けそうな靴を探して、両足揃えて履いた。


 うん。靴下、いるな。


 何だか足がむずむずする。

 足の裏に血が滲んでいるもの原因かも知れないけれど、何だか足に張り付いて気持ち悪い。サイズはぴったりのものを選んだから、キツい感覚はないけれど、もの凄い違和感を感じている。

 次は衣服を探そうと思っていたけれど、先に靴下を探した方がいいのかもしれない。


 とりあえず靴を履いたまま、上がり框に乗った。少しだけ罪悪感を感じた。

 ゆっくりと慎重に、廊下を進んでいく。

 中は薄暗かったけれど、明かりを点けるほどではない。そもそもこの瓦礫の街で、明かりを点けることは死に直結しそうな気がしてきた。知らないうちに攫われたのも、明かりを点けたまま寝転けていたのが原因だったし。


 最初の扉を開けると、どうやらそこはリビングルームのようだった。

 部屋の中は明るかった。

 ただ、家具が倒れていた。窓ガラスも割れていて、瓦礫が部屋一面に散らかっていた。家は壊れていなかったけれど、爆発の被害からは逃れられなかったらしい。

 それにしても靴はいい。足の裏が全然痛くないな。


 リビングルームには、めぼしいものは何も残っていなかった。一通り見たあと、再び廊下に戻った。


 次に入った部屋には、瓦礫と窓ガラスが割れて飛び散ったガラス以外には何もなかった。

 床は畳敷きなっていて――そうか、こういう床を畳というのか――少しだけい草の匂いがした。押し入れの中には布団が入っていて、ここが客間だということが分かった。

 当然ながら、衣服は何も置かれていなかった。

 いい加減、裸に靴だけ履いた姿から脱出したい……。


 再び廊下を進み、角を曲がった先は外が見えていた。


「ここは……もしかして、お風呂なのか?」

 溶けた浴槽が半分ほど残っていて、どうやら給湯器とか風呂釜とか、そういったものが爆発したのだと予測できた。

 つまり、この街が崩壊している理由は、特定の機構を持った道具が暴発して、その結果全てが滅びたと考えていいのかもしれない。

 この家には、ここの風呂焚きのための道具だけが、暴発の対象だったということか。家の他の設備に関しては、違う方法で動力源を得ていたのかも知れない。


 家は二階建てだったので、そのまま階段まで戻ると二階に向かって階段を上っていった。




 靴下が、あった。

 もちろん俺は、速攻で靴を脱いで靴下を履いた。


 二階はここの家に住む人達の寝室や自室があったようで、靴下を始めとして、下着から衣服まで一通り揃えることができた。

 当然部屋には割れた窓ガラスや、外から飛び込んできた瓦礫などもあったけれど、靴を履いていたおかげで特に気にならなくなっていた。


 そもそも、靴下が履けたことで、靴の履き具合も非常に快適になった。

 裸からも解放されて、やっと文化的な格好をすることが手できた。そもそも、好きで裸になっていたわけじゃない。


『ぐーっ――』

 服を着て安心したからか、お腹が鳴った。

 今さらだけと、ずっと何にも食べていないような気がする。靴にばかり気を取られていて、ずっと空腹だったことに気が付かなかったんだと思う。


 さすがに、お腹がすいてきた。

 ガラスの筒から解放されて、どれくらいの時間が経過しているのか分からない。でも、お腹がすいているということは、最低でも半日以上は経過としているのだろう。

 リビングルームに繋がっていたキッチンにも、一切の食材がなかった。

 というか、持ち去られたあとのようだった。




 階下に下りようとして……慌てて壁の影に隠れた。

 視線の先、タイヤが大きな車が瓦礫の道を走っていた。車はこの家に近づいてて来るようだ。

 背中に冷たい汗か流れる。

 ここは二階、階段を下りていけば必ずあの車に乗っている人たちに遭遇する。

 何となくだけれど、顔を合わせない方がいいように気がする。いや、絶対に顔を見せちゃ駄目な奴だ。


 車が建物の影に見えなくなったのを確認して、窓枠からそっと顔を出した。

 うん、車の屋根が見える。

 正直かなり微妙な位置だと思う。

 窓の外には屋根がない。とすると、屋根に出てやり過ごすプランが使えそうにない。どうする、このままだと見つかる可能性が高い。

 部屋の中を見回す。ここは寝室、ガラスが飛び散ったベッドに、服が掛かっていたクローゼットがあるだけだ。

 絶体絶命ってやつか?


 どこか隠れられそうな場所は……あ、あそこか。


 とっさに、クローゼットに駆け込んだ。

 服をかき分けて、空いた隙間からポールの上に乗った。そのまま天井を押し上げると、ミシミシと言う音とともに天井が外れた。

 一瞬動きが止まる。

 予想以上に音が大きかった。


 耳を澄ますも、遠くの方で車のエンジンがかかっている音以外に、特に何も聞こえてこない。

 ゆっくりと慎重に、天井に体を滑り込ませる。

 天井を戻して、じっと待った。


『……ここか?』

『ああ、恐らく音がしたのはこの場所だな』

 カチャッと言うドアの音とともに、男の声が二人聞こえてきた。

 恐らく間一髪。

 緊張で心臓の鼓動が早い。思わず息を止めていた。


『特に変わった様子は……いや待て、これは……?』

『ああ、誰かが入った跡があるな。瓦礫が踏まれて足跡が残っている』

『クローゼットを何往復かして、窓に向かったのか』

『間違いなく車に気が付いているな』

 しまった、足跡にまで気が回っていなかった。

 幸い、最後の動きまでは読まれていなかったようだ。一瞬声が近くまで近づいてきたものの、すぐに遠ざかっていった。


『ああ。この感じだと、窓から飛び降りたか……いったい何者だ?』

『さあな。ただ、さすがにこの廃都に人がいるはずがないだろう』

『レジスタンスの奴らが、郊外に拠点話構えているっていうリークがあったからな、あながち無人とも限らないんじゃないか』

 どういう事だ? 構図が全く見えてこない。

 俺を攫ったのは、レジスタンスとかいう集団の一人だったのか。

 ただ、あの拠点は完全に沈黙している。おそらく、人一人として残っていまい。とすると、こいつらは何者だ?


『車を動かした形跡はないな』

『案外、ここに隠れているんじゃないか? ほら、このクローゼットの中とか』

『まああれだ、何発か弾丸を撃っておけば大丈夫だろう』

 はっ?

 待って、それはつまり……。


 バシュンッ――バシュンバシュン――バシュンッ――。


 考えている暇じゃなかったのかも知れない。

 気づいた時には、まるで見えていたかのように頭を打ち抜かれていた。


 そのまま意識が、遠のいていった。


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