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18話 魔力を感じられたなら

 俺のベースは間違いなく人間だと思う。普通にお腹がすくし、動けばちゃんと疲れたりする。

 喜怒哀楽もあるから普通に落ち込むし、悲しい時にはちゃんと泣く。嬉しい時には笑顔になるし、ちゃんと笑えているのかな……。

 ただ、胸に魔石が埋まっていて、死んでも回りの魔素を犠牲にして蘇る、自然災害に近い力も持っている。

 正直、死んで蘇る以外は特に秀でた能力はない……はず。自信がなくなってきた。そう言えばこの間、もの凄い早さで走れたっけ。

 でも自分は、人間だと認識している。


「俺は……たぶん、人間かな……」

 だから、アンジェリーナの質問に対しても、それしか答えることができなかった。

 まるでタイミングを計ったかのように、少し強い風が吹き抜けていった。日中の気温は暖かいけれど、まだ夜になると少し肌寒い。


「そっか、それならわたしも耳を切っちゃったから、たぶん人間かな。

 その答えって、そういう意味で言っているんだよね?」

「あっ……いや、その……」

「うふふふ、あははははっ」

 レイジが言いよどんでいると、一拍置いてからアンジェリーナが突然笑い出した。


「冗談だよ、冗談。わたしは今も昔もエルフだから、人間じゃ無いからね。

 うん。レイジ君は、人間で間違っていないと思うよ。でも、魔力器官……なのかな? とにかく、魔力を持っていて、魔法が使えるはずなのよ」

 呆気にとられてそのまま固まっていると、アンジェリーナは何か思案顔でレイジの目をじっと見つめてきた。


「あのね、レイジ君。大切なことだから、ちゃんと聞いてね。

 今もそうだけれど、その胸元の辺りからもの凄い量の魔力が放出されているの。もしかしてレイジ君の魔力器官、外に出ていて空気に触れて結晶化しているんじゃない?」

「あっ、ええと。たぶん」

「うんいいよ、先に説明させて。色々と知らないと思うんだ」

 この時ほど、いつも降ってくる謎知識が降ってこなくて、泣き言を言いたくなった日は無かったと思う。

 そもそも、魔力自体がふわっとした知識しか無くて、死んだ時に周りの魔力を消失させていると言う認識しか無かった。当然、胸元の石にしたって、色が抜けた魔石に魔力を補充して、魔石エンジンを動かす程度にしか使っていない。


「人間には、魔力を感知することができないんだよね。だから、今まではレイジ君が魔力を放出し続けていても、問題にならなかったはずなんだ。

 でも、魔族や魔獣にはその魔力がはっきりと分かるんだよ。強い個体にとっては、それだけで脅威に感じるんじゃないかな」

「魔族って……そう言えば、ドワーフって魔族の括りじゃ無いのか?」

 ふと、シンジュク冒険者ギルドの総ギルド長クロードの顔が浮かんできた。確か、彼はドワーフだって言っていたはずだ。


「ああ、無理だよ。ドワーフは確かに魔族だけど、魔力器官が小さすぎてほとんど役に立たないからね。脳筋だから、使えて筋力増強程度だろうし」

 それでもドワーフは魔力は持っている。だからこそ、俺の違いが分かった……のか?


 レイジがあの荒唐無稽にも思える話をしても、あっさりと信じてくれた理由もその魔力器官を持っていたからなのかも知れない。

 それで、それが分かってなお協力してくれようとしていた。


「でも普通の魔族だと、びっくりして逃げ出すはずだよ。もしかしたら、今までそのドワーフの彼以外に、魔族と顔を合わせたことが無いんじゃない?」

「あ……言われてみれば、見た記憶が無い……」

「そうだと思った。それたけ魔力を放出していると、いつでも即死系の魔法を放つことができるからね。

 たぶん最低でも半径十数キロ範囲が対象になるはずだよ」

 心臓の鼓動が跳ね上がった。

 その距離ってもしかして、あの白く変わった世界と同じくらい……?

 自分で気が付かないうちに、魔法を使っていたと言うこと、なのか。


 アンジェリーナがスッと目を細めた。

 口元には楽しそうに笑みを浮かべている。


「レイジ君って、本当にわかりやすいんだね。たぶん今考えていることは、半分正解で半分間違っていると思うよ。

 話を進めるね。

 どんな理由であれ、レイジ君が持っているその魔力を、ちゃんと制御しないと駄目なんだ。その感じだと、魔力が何なのかすら分かっていないみたいだし」

 アンジェリーナが、二人の間にあった簡易テーブルを脇にどかした。そのまま立ち上がって、両手を前に差し出してきた。

 慌てて、レイジも立ち上がった。

 手を……繋げと言うことなのか?


「さ、手を繋いで。わたしの魔力をレイジ君の左手に流すから。感覚でいいよ、それを右手からわたしの手に流してみて」

「あ、ああ。わかった……こうか?」

 レイジがそれぞれの手を掴むと、しっかりと頷いてくれた。


「それじゃあ、いくよ」

 そのアンジェリーナの合図と同時に、繋いでいる左手が少し温かくなった。

 それが徐々に熱を持っていく。


「入っていかないなあ、ちゃんと魔力を流すイメージしてる?」

「えっ、熱くなってきてるだけだぞ」

「そりゃそうだよ、レイジ君そこで魔力を止めたままなんだもん」

 止めている? そんなことないと思うんだけど、イメージ……なのか?

 とりあえず、左手に意識を集中する。

 その手のひらで熱くなっていく何かが、左腕を流れて体に到達し、そのまま右手に流れていくように、少しだけイメージして見た。


 グググッ――ゴッ――。


 突然熱い塊が、ゆっくりと左腕を流れ始めた。

 思わず歯を食いしばる。

 腕が痛い。まるで焼けただれて、千切れるような感覚だ。まるでその魔力の塊が、新しい経路を拓いているような、そんな動きだ。

 その熱い塊は、胸の真ん中にある石の辺りに辿り着くと同時に、急速に熱を失った。


 おお……流れが止まったよ。石に入ったのか。

 いや、止まっちゃ駄目じゃん。


 慌ててイメージで、真ん中の石から右手にさっきの塊を押し出す。

 熱い塊がかなり大きくなって、また焼け千切れるような感覚を伴って右腕を流れて、そのまま手の平からアンジェリーナに戻っていった。


「き、きゃああぁぁぁ――」

 熱い塊が移ると同時に、アンジェリーナの体が右手を軸にして真上に跳ね上がった。

 びっくりして思わず手を離してしまって、勢いのままアンジェリーナは五メートル位、星が瞬く夜空に舞い上がっていった。そしてまるで、糸が切れた操り人形のように頂点で数回転すると、そのまま錐もみ状態で落ちてきた。

 手も足も脱力して、だらんと投げ出したままで。


 え、もしかしてアンジェリーナ、気絶している?

 全身に冷や汗が吹き出したのがわかった。

 やばい、あのままだと地面に無防備のまま落ちてしまう。


 レイジは慌てて駆け出した。

 両手を前に伸ばして、間に合うようにグッと手を伸ばす。胸元から両腕を伝って暖かい魔力が溢れ出す。

 魔力がレイジの体を包み込んだ。


 その途端に、アンジェリーナの落下速度がゆっくりになった。

 周りの景色が、少し色が抜けたように薄くなる。耳に聞こえていた音が、遠くなっていく。

 何だこれは……時間の流れが、変わったのか?

 それとも俺が、加速したのか……。


 正直、何が起きているのか完全に把握出来ていないけれど、状況的には非常に有り難かった。

 ゆっくりと回転しながら落ちてくるアンジェリーナの動きに合わせて、落下点の真下に移動した。ちょうど体が上向きになったところで、飛び上がって横向きに抱きかかえた。

 抱きかかえたアンジェリーナの首に負担をかけないように、ゆっくりと着地する。

 そして音が、色が戻って来た。


「生きてるよな。大丈夫だよな」

 後で思えば、その動きには無駄が多く、全く意味がなかった。

 アンジェリーナを抱きかかえたままゆっくりと車まで歩いて行き、両手が塞がっていてドアが開けられないことに気づいて、回れ右をした。

 簡易テーブルの辺りまで戻ってきて、椅子が寝かせられる椅子じゃないことに気づいて周りをきょろきょろ見回した。

 テーブルも簡易なだけあって狭いし、そもそも食べ物が載っている。


 困った、どうしよう。


 どこかに一旦寄りかからせて、敷物なり用意してそれから横に寝かせれば良かったのに、ずっと抱きかかえたままうろうろしていた。

 いつの間にか意識が戻っていたアンジェリーナに、全く気が付かないくらい、慌てていたんだと思う。


「……レイジ君?」

「ごめん、待ってて。いま横にできる場所を探しているところ」

「ねえ、レイジ君ってば」

「ほんっと、ごめんね。両手が塞がってて、上手く用意ができないんだ」

「もう……大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」

「……へっ? うえっ?」

 だから変な声を出してしまったのも、仕方ないと思う。

 レイジが片足をついて腰を落とし、アンジェリーナをゆっくりと地面に下ろすと、しっかりと自分の足で立ってくれた。

 無意識のうちに、安堵のため息が漏れていた。


「なんだか、心配かけちゃったみたいだね。

 でもびっくりした……って言うか、何あの魔力。圧縮された密度がもの凄かったんだけど。規格外だとは思っていたけど、想定外以上に原点突破のダブルフィーバーなんだけど」

 しばらく、興奮したアンジェリーナが……けっこううざかった。


 って言うか、ダブルフィーバーって、なに?


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