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10話 いきなり車両事故

 冒険者ギルドの駐車場に車を停めて、エンジンを止めた。

 車両組合の人に言われたとおりボンネットを開けて、魔石を取り出そうとエンジンルームを覗き込んだ時にそれは起きた。

 突然『ドカーン』と言う大きな音とともに、車体が大きく揺れた。


「おおっ? 何だ、何が起きたんだ」

 慌てて首を上げて横に振り向くと、車の荷台の横部分に車がぶつかっていた。

 レイジは眉をひそめて首を傾げた。


 俺の車は駐車場の枠内には……入っているな。別に変なところに駐車したわけではなさそうだ。

 相手は箱形の車か。俺の乗っている車よりも、少しだけ小さいな。まあ、そうは言っても、衝突すれば車も壊れるよな。


 見れば、自分の車がかなり壊れていることが分かる。

 荷台だけでなく、後部車輪の車軸まで押されている様子だった。乗っている車は後輪駆動が基本だ。この感じだと、もしかしたら走行が難しいかも知れない。

 ともあれ、もともとレイジにとっては拾いものの車、ちょっと困ったな程度の認識しかなかった。

 しかし、後退でここまで壊すとは。何というか、さすがだな。


「あ……あの。ごめんなさい。アクセルとブレーキを間違えてしまって……」

 車の影から現れたのは、だいぶ小柄な女の子(?)だった。申し訳なさそうに手を胸の前で組んでいるけれど、何だろう少し手が胸に埋まっているぞ……。

 冒険者らしく、野外でも動きやすい服装をしている。


「いや、クラッチもあるし間違えようがないと思うんだが」

「いえ……その、私達の車はオートマチックなので……」

「オートマチック? なんだそれは……ああ、あれか。自動変速機付きの自動車のことか」

 また、何だかちょうどいいタイミングで知識が降ってきた。


 そうなると、俺の乗っている車は手動変速機で動いている車なんだな。

 速度に合わせてギアを任意の場所に入れて、それで走っている。この場合、後退は独立していて、まず誤動作の心配はない。

 足下のペダルもクラッチ、ブレーキ、アクセルの三つあるため、間違えても暴走する確率は低い。


 逆に自動変速機――オートマチックだと、レバーを縦に動かしてポジションを選ぶ方式で、あとはアクセルを踏むだけで動いてしまう。

 ペダルも、アクセルとブレーキの二つしかない。

 たぶん後ろを向きながら足を伸ばして、アクセルペダルに足が乗った。そのまま加速を初めて勢いで踏み込んだのか……この娘、体が小さいし。


「ごめんなさい……」

 女の子は、さめざめと泣き出してしまった。

 たぶん考えている時に難しい顔をしていたのだろう。それをどうやら、怒っていると取ったようだ。


「いや、大丈夫だ。大丈夫じゃないけど、既に起きてしまったことは仕方がない。車が動いている限り、事故はつきものなんだ。

 それよりも、一人なのか? 車なら、修理すればいいと思うんだが」

 レイジの言葉に、女の子は首を横に振った。


「修理は無理なんです。車両組合の傘下に修理工場があるのですが、修理するのに、もの凄くたくさんのお金が必要になります。

 それに、部品は現車調達なので、そこの修理工場に現物が無いと自分で部品を探しに行かないといけないんです……」

 そこまで説明すると、再び泣き出してしまった。

 いや待って、泣きたいのはこっちなんだけど。


 それにしても、なかなか厳しいな。

 もし気軽に修理ができないとなると、場合によってはこの車はただのゴミになってしまう。そうなった時に、問題はこの状態で売れるかどうか……なんだよな。


 レイジはため息をつくと、女の子に一声かけてから箱形の車を動かして、近くの駐車場の枠に停めた。

 座席に座ってみて分かったけれど、シートをちょうどいい位置にスライドさせずに、そのまま運転していたみたいだ。それを知らずに、無理に足を伸ばして運転したのかもな。

 それからカギを渡して、自分の車まで行って、壊れた荷台の下を覗き込んだ。


「あー、これは駄目か。車軸が曲がっているし、ホーシングが割れてオイルが漏れている。魔道車なのに、こういう所は妙に機械的なんだな」

 もう『知っている』ことを気にしないことにした。どのみち、この状態だと走行することすらできそうに無かった。

 中の荷物は……まぁ、売れそうなものがあれば冒険者ギルドに持っていけばいいか、すぐ目の前だし。そもそもが、俺が集めたものじゃ無いから、全部処分したところで困ることも無い。

 問題は、この車か……。



「どうしたユイミ、何かあったのか?」

「あ、ポラントさん、カイルさん。ごめんなさい、私……事故起こしちゃいました」

 冒険者ギルドから、二人の男がこっちに向かってきていることには気付いていたけれど、どうやら女の子――ユイミの仲間らしい。

 近くまで来て自分たちの車を一瞥すると、俺の側まで歩み寄ってきた。


「すまない。うちのパーティメンバーが事故を起こしてしまった様だが、そちらに怪我は無いか?」

 寝そべったままのレイジに、男のうちの一人が声をかけてきた。取りあえず顔だけ向けると、金髪碧眼の堀が深い顔をした男が、レイジを見下ろしていた。

 この人は、どっちだろう。ポラント? それともカイルなのか?

 黙っているのも変なので、体を起こして立ち上がった。


「いや、大丈夫だ。当たった時は、ちょうどボンネットを開けて、魔石を取り出していたところだ。車の前方にいたから、直接的な被害は無かったよ」

「そうか、体が無事ならまず一安心か。あとは車だが……どんな状態なんだ?」

 俺は自分の車を見た。

 そう言えば、オイルが漏れていたんだっけ。


 男には少し待って貰って、車内からオイルを吸いそうな布を取り出した。それを車の下に潜って、オイルが広がっている地面に敷く。

 オイルの漏れ自体はもう止まっていたけれど、この感じだとホーシングの中は空っぽなんだろうな。

 ちょうど覗き込んでいた男に首を横に振って、車の下から這い出した。


「リアデファレンシャルのオイルが抜けきっているから、走行できないかな。そもそも、車軸に大きなダメージを受けているから、本質的に走ることが出来ないけどな」

「……やけに詳しいんだな。ただ了解した。うちの車と違って、あんたの車は完全に壊れてしまったんだな。

 俺たちの方でで修理をしないといけないのだが……」

 そう言って、男はもう一人の男の方を向いた。


「ポラント、済まないがギルドに行って、職員を呼んできてもらえないか」

「ああ、わかった」

 ポラントは、相変わらず泣いているだけのユイミに何か声をかけると、冒険者ギルドに駆けていった。しばらくしてユイミは、自分たちの車に歩いて行って車の鍵を開けると、スライドドアを開けてリアシートに座った。

 まあ、妥当だと思う。

 そうすると、いま目の前にいる男がカイルなのか。


「申し訳ない。冒険者ギルドに仲介に入って貰って、確実に修理させて貰いたい。

 そう言えばまだ、名乗っていなかったな。俺の名前はカイルと言う。Eランクパーティの『青龍の鱗』でリーダーをやっている。

 さっきギルドに向かったのがポラントで、そっちにいるのがユイミだ」

「レイジだ。まあ、修理は慌てなくてもいい。ユイミさんから聞いたんだけど、修理部品は現地調達なんだってな。

 見た感じ街に同じ車は一台も走っていなかった。恐らく調達に苦労するだろうから、あまり無理はしないで欲しい」

「すまない、そう言ってもらえると助かるよ」


 その後、間に冒険者ギルドの職員を入れて、レイジの車をカイル達のパーティで修理することに、話がまとまった。

 レイジの車はしばらく、冒険者ギルドの車両倉庫に保管してもらえるそうだ。そのままギルド職員に鍵を渡した。明日の朝のピーク時間を過ぎたら、移動させてくれるらしい。

 その時に、後部座席に乗っている物の査定をお願いしたところ、快く応じてくれた。


 これが後にちょっとした大騒ぎになるなんて、その時の俺に知るよしも無かった。


 辺りも夕方からだんだん夜になって、辺りも暗くなっていった。

 お腹すいたな……。


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