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勇者の友人が気に食わない我

「由地沙羅です。江吉第二中学校出身です。体を動かすのが好きで、中学の頃はテニスをやってました。高校では、全然違う球技なんですけどバスケットをやりたいと思っています。これから一年間よろしくお願いします」

 

 ()()()()()()な挨拶という感想だ。


 我も()()()という言葉を使ったが、一年経たずにこの世界は破滅するかもしれないのだと思うと、軽々しく使える言葉でもない気もする……。

 しかし、前の世界でも死んでこの世界に転生したのだし、もしかしたらこちらの世界で死んだら、あちらの世界に戻るのではないだろうか……? 


 だが、京都に行くほどの気軽さで、そうだ、死のう。とはならない。

 死んで戻れると確定しているならやってみる価値はあるかもしれないが。


 40人のクラス全員の自己紹介が終わったところで、更科からプリントが配られる。

 

「配ったプリントは、明日からの授業の時間割です。これから始業式があるので、私を先頭に体育館に体育館シューズを持って移動~☆今日は始業式が終わり次第、HRをして終了になりま~す☆」

 

 ウインクをしながら更科はそういうと、持っていた出席簿を小脇に抱えて廊下に出る。

 

 この教師はいちいち発言が軽い。本当にこんなので担任が務まるのか……?

 などと思っていたが、皆がぞろぞろと動き出したので、我も後ろの個別ロッカーから体育館シューズを取り出して移動する。

 

 B棟にある教室からA棟へ。A棟から体育館へと渡り廊下を渡って移動した。

 雨が風で窓ガラスにバタバタと音を立てて当たる。移動する生徒の足音の方が五月蠅いが、相当な風が吹いているのを木々の揺れが教えてくれる。濃い灰色の空は、不穏そうにさか巻いていた。


「こんなに風が強くちゃ、学校の帰りもびしょびしょになりそうね」

「!!」

 

 気付かないうちに、すぐ横に沙羅がいた。


「そうだな。春の嵐だ」

 

 我が答えると、間髪入れずに

「学校から帰る前に、文芸部の部室に行くわよ」

 と、言った。


「……分かった」

 

 なぜだ? と聞くことをはばかられる。反論は許されない雰囲気の低い声色だった。

 今朝のことと、何か関係があるのだろうか……? 

 話を続けようと思ったら、用事は終わったとばかりに、また後ろに下がって行き、凜乃と千夏とおしゃべりをし始めた。

 もうちょっと位、話をしてくれてもいいのではないか?

 

 始業式はつつがなく終わり、HRの後、我は鞄を持って沙羅と国語文芸部の部室へと移動しようとした――が。

 沙羅に腕を絡めて、それを凜乃が止めた。 


「ねっ、ちょっと待って。さららん」

  

 なんだその奇妙なあだ名……。

 なぜか某エアコンのキャラクターが頭にぽわぽわと浮かんでくる。

 

「その腕を離せ。沙羅は今から我と一緒に文芸部の部室に行くのだ」

「文芸部? さららん、文芸部に何の用事なの? バスケット部に入るんでしょ?」

「あ、兼部でね。文芸部にも入るの」

「そうだったんだ~」

「そういうことだ、だからその腕を離せ」


 凜乃はむっとした様子で、沙羅の腕を掴んだまま我を睨んでくる。


「あんたも文芸部なわけ? 帰宅部だと思ってたわ。あ、もしかしてさららんが入るから追いかけて一緒に入ったの? きもっ」


 ……。

 目玉を(えぐ)り出して、そこから界堕虫(かいだちゅう)を突っ込んでやろうか?

 界堕虫とは、前の世界にいたころに拷問用に飼っていた虫で、入り込むと真皮のなかを()()()()と這い回る。形はムカデに似ている。真皮には神経が張り巡らされているが、その神経を気絶させない程度にブチブチと噛み切りながら、楽しげに体中を這い回るのだから、感じる痛みは尋常ではない。痛みから出る声音と魔力が界堕虫の好物で、まさに拷問特化の虫と言える。 

 が、ここに界堕虫はいないし、クラスメイトに拷問するわけにもいくまい。


「お前に関係ないだろう」

「……」


 ピリピリとした空気が流れる。

 なんで、こいつは我をこんなに敵視するのだ?

 罵倒され、睨みつけられ……。今日会ったばかりのこいつに、ここまで敵意をむき出しにされるようなことはしていないぞ。


「ちょっとさららんと話があるの。あんたは先に部室に行ってなさいよ」

「話……? 話なら、別にここでも聞くけど……」

 

 少し戸惑いがちに、沙羅がそう告げる。

 

「あんまり人に聞かれたくない話なのっ! わかるでしょっ!? だから、別の場所いこ!」


 キンキンと耳障りな声。とにかくやかましい。子供が駄々をこねるような口調だった。 

 ぐいぐいと腕を引っ張られながら、沙羅はごめん、と片手を顔の前に上げた。


「……真央。先に部室言ってて」

「分かった」


 二人は、そのまま教室から出て行った。だが、外は雨というには生ぬるい暴風雨だ。一体どこで二人きりで話をすると言うのだろうか……。

 

 ――我には関係のないことか。


 でもまあ、めんどくさい女に引っかかると大変だな。

 友達選びは慎重にすべきだぞ、沙羅よ。話しかけてきた相手と無差別に仲良くなるのは、常々《つねづね》どうかと思っていたのだ。

 あっ、これを言ったら沙羅にどう返されるか分かってしまったぞ。


『友人0のボッチ男子のあんたに言われても何一つ響かないわ。友達を一人でも作ってから言いなさいよ、ボッチ魔王』


 絶対言うぞ、これ!! 間違いない!!


 …………。


 ……なんだか、自分の想像で無駄に気分を害してしまった。このまま帰ってやろうか……。


「なに帰ろうとしてるの! そうはさせないぞマオ君!」

「うおっ!?」

 

 下駄箱の方へ向かおうとすると、後ろからブレザーを引っ張られた。この珍妙な喋り方は……。


「叶ではないか」

「迎えに来たよ。サラちゃんは?」

  

 そう言いながら、きょろきょろと教室の中を見渡す。教室にはもう数人しか残っておらず、ほとんどの生徒は帰ってしまっている。

  

「さっそくできた友人? に連れて行かれた。先に行っててほしいと」

「先に行っててほしいって言われたのに、さっき逆の方向に進んでたよネ。明らかに帰ろうとしてたよネ? 部室行くよ~」

 

 ビン底眼鏡先輩に捕まってしまったら仕方がない。

 

 我は叶に襟首を引っ張られ、引きずられるように部室に向かった。

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