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脅される我

 沙羅は叶を引きずるのをやめ、我もドアに手を掛けていたのに、部屋から出て行くのを躊躇(ためら)った。


 えっ、なんだ……?

 今こいつ……、何かおかしなことを口走らなかったか?

 前世は知らないと言ったのに、なぜ我らの前世での関係を知っている。

 

「はぁはぁ……やっぱり。瞬に聞いてた二人だったんだネ。名前を聞いてピンと来たんだ。やたら美人と、今どきロンゲの目つきの悪い男……」

「瞬……? もしかして、中津川って……」


 あっ。 


「そう、私は瞬の従姉妹いとこだよ」

 

 瞬の情報か! なんだ、またびっくりして損をしたではないか!! 


「自分たちが、勇者と魔王だなんて恥ずかしい妄想をしていることをみんなにバラされたくなかったら、国語文芸部に入って!! もし、入らなかったら……どうなるか、分かるよね?」

 

 叶は、沙羅の腰に回していた腕をするすると上げていき、沙羅の顎を持って自分の方へと振り返らせていた。真っ直ぐに目を見ながら、顎に指をぴたりと当てて止める。

 唇が触れ合いそうな距離に顔があり、なんだか、ものすごくいやらしい光景に見えるのは気のせいか。百合のワンシーンのような……。

 どちらも整った顔をしているから余計に。 

 

 だが、言っていることは完全に脅迫だが。


 我は全く構わぬ。そのような噂を流されたところで、なにか害があるわけではないし。

 なにせ我は元々友人もおらぬしな! 

 失うものなど、何もない!! 失うもののない人間に、脅迫など無駄な事なのだ。


「……分かりました。は、入ります……」


 完全に諦めの表情で、しぶしぶといった風に沙羅はそう言った。


 ――んっ!?


 入るのか!? こっ、こんな微っ妙~な脅迫で!?

 こんなことで沙羅が屈すると分かっていれば……。これまでにもっと早く沙羅を手勢に引き入れられたのではないか……? 今度使おう。

 ふむ、だが噂などで何かを失う者は大変だな。 


「で、でも……、私バスケをやろうと思っていたので、兼部でもいいですか……?」

「全然OKだよ! やったーっ!」


 ぎゅぅううっとその無駄にでかい乳を沙羅に押しつけながら、喜びを全身で表わしていた。そのまま、顔をこちらへ向ける。

 

「ところで、マオ君は?」

「入るわけがないだろう」

「ええーっ!? ちょっ! ちょっと待ってよ! ネッ!?」


 今度は我にまとわりついて、ぐいぐいと体を押し付けてくる……。むにむにとでかいアレが背中に当たる。


「やめろ、抱き着くんじゃない!!」

「私は、使えるモノはなんでも使うタイプなの!! 思春期の男の子はおっぱいと女の子のいい匂いに弱いって、ばっちゃが言ってた! だからイエスと言うまで離さないよ!!」

 

 くっ、いい匂いだと……!? 確かにするが……。

 だが、そのばっちゃとやらをここに呼んで来い!! 思春期の男子をなんだと思っているのだ、説教してやる!!

 全く中津川家にはろくなやつがいない!!


『ピンポンパンポーン♪ 2年C組中津川叶さん、すぐに職員室に来てください。繰り返します。2年C組中津川叶さん、すぐに職員室に来てください』

「あっ、呼び出されちゃった……」

「では俺はこのまま帰る」

「私ももういいですよね?」

「待って待って、お願いだから!! 二人ともちょっと待っててくれたらすぐ戻ってくるから、だから待ってぇえ!! ネッ!? お願いします!!」


 ドアの前に素早く立って我らを逃がすまいとする叶。


「しつこいぞ」

「無駄に大きいおっぱいとしつこいくらいしか取り柄ないの、私は!!」

 

 自分で取り柄言うな。 


「……すぐに、帰ってくるんですよね?」


 沙羅が、そう呟く。

 

 また沙羅の奴は……。

 我にもこのくらい寛容に優しくしてくれればいいものを……。

 あ、いやダメだダメだ。我の配下に下ることを断られた時点で、こいつは世界征服をはばむ壁でしかないのだから……。


「うん!! すぐだから!」


 そう言って、叶はテーブルから鍵を取って出て行く。


 ――……? 

 なんで鍵を持ったんだ、この女……あっ!!


「沙羅! その女を止めろ!!」

「えっ!? 何!? なんであんたに命令されないと……っ!!」

「いいから早く!!」

「それでは、ごゆっくり~」

「中津川先輩!?」


 ガチャリ――と無情にも、閉められる鍵。


「なんなの……? 一体?」

「閉じ込められた」

「そんなはずないでしょ? だって外から閉めたって内側から開くんだから……。えっ、なにこれ。内側からも鍵が必要なタイプ?」

「そのとおり~! すぐに帰ってくるから、待っててネ! その間に同じ文芸部員同士仲良くなっておいてネ~。私は部の雰囲気を大切にする部長なのだ」

 

 ドアの外から調子のいい声が聴こえた。


「入らないと言っただろう!! 貴様、まだいるんだったら早くこれを開けろ!」

「やだよ~。心配しなくてもちょっと経ったら帰ってくるから。二人でちゃんと仲良く話をしてよネ」

「ふざけるな!」

「ちなみに、今日は入学式だから部活は全部お休み。窓から叫んでもグラウンドに人はいないし、職員室と逆方向だから人がいる方に声は聴こえないからネ」

 

 無駄に用意周到なこの密室に、じとりと汗をかく。

 

「おのれぇぇえ!! 覚えていろよ!!」

「あっ、今のセリフは魔王っぽくないネ? 雑魚ざこっぽい。キャラ設定はしっかりしないと」

五月蠅うるさい!!」

「あっはっは、怖い怖い。退散退散~」

「待て!!」

「魔王を罠に掛けてやったぞ~! ふっはっはっはっは~!」


 バカみたいな笑い声が遠ざかっていく。

 くそっ、こんな時魔法が使えれば、こんな扉一撃で破壊して、その後あのビン底眼鏡女を消し炭にしてやるというのに!! ドアを破るには筋力も足りぬ、魔力もない。

 しかし、どうしたものか、この状況。どうにかしてドアが開かないものか?


「……しょうがないか。少し待ってれば、中津川先輩も帰ってくるって言ってるんだし」


 我が奴の抹殺の方法を考えているというのに、沙羅はしれっと、椅子に座っていた。

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