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不器用な青春シリーズ

風雪に枝はたえきれない

作者: フローラルカオル

髪を初めて染めた。もっとキレイになりたくて。高校になったら、新しい環境で、新しい自分になりたい。もっと自分が輝くように。タロウちゃんが優しくなってくれるように。

 桜が散る頃。

 学校の片隅のにぎわいの中1人、誰にも話しかけられない少女が1人。長い、あまりに黒い髪の毛の少女だった。本来綺麗な子かもしれない。けど、その目は肉食獣の檻に無理やり入れられたようで、獣達が気づかないように必死で黙ってる。そんな感じだった。

 ギューって結ばれた口を見ると、その緊張感は計り知れない。面白い子だな。そう思って様子を見ていた。

 入学式の今日、移動や待ち時間。新しい名前を覚えるのな必死な中、お互いに誰なのか、どんな人なのか無邪気に探り会うのをみんな楽しいと言った顔でしてる。それができない人もいるのだろう。さっきの子もそうだ。

 話しかけられた事にビックリして、プルプル首をふっては、なんとなく取っ掛かりもなく、その子達の話題もうつってついていけなくて、ポツン。話しかけやすそうな人はグループが作られ始めて、そっちに行ってしまった。その輪からも距離がある。

 仕方ないな。人肌脱ごうじゃないか。

「彼女ーどこ中ー?」

 その子がビクッとする。

 お調子キャラが話しかけてきたら、そりゃビクッとするだろう。俺はひゃひゃひゃっと笑いながら、

「俺の彼女にならない?」

 とたんに

「こらーっ!」

 俺の幼なじみが走ってくる。怯えたその子との間に入り、

「調子乗るな。おびえてる。この、スケベ‼」

 持ってた筆箱で殴ってくる。布製でもハサミとか入ってるだろうにやめてくれ。俺は

「ちぇー。声かけ損ねたーじゃーん」

 口を尖らせると

「タロウちゃん。しっしっ」

 犬のように追い払われた。俺は山口 太郎。新一年生。

 そして、

「この、スケベ。まだいたの」

 この幼なじみは森田 真由。真由はなかなか面倒見がいい女で、それは保証する。

 1人のこの子の事、気になっていたようだけど、どこで声をかけるか迷っていたのだ。それぐらいこの子が緊張してたからだ。

 まとまりだしたグループの中核をにない始めた真由に腕をひかれ、その子も怯えながらも話がしやすい距離までいけたようだ。

 あとは、その子の実力しだい。仲良くなりたければ、頑張るしかない。

 俺はヘラーっと笑って

「はいはい。怖い怖い。」

 俺と同じくお調子者の男子がいる辺りに逃げていったら

「ふられてやんのー」

「タロウちゃんってば、見境なーい」

「てか、なにげにあの子可愛かったな」

 やいやい、中学生からの知り合いには言われるのだ。やはり、可愛かったか。これは、俺、ますます株下がるな。

「モテ期そろそろくるはずなんだけどなー。おかしいなー」

 そして、ヘラヘラしとくのだった。





 ー帰り道ー

 前を歩く髪の毛の茶色いロングヘアーの女は真由だ。高校デビューを目指すらしい。都会の女って風であまり好きじゃない。だけど、真由にはよく似合っている。

「タロウちゃん女子からの評価悪いよ。」

 そんな女は言うのだ。

 対して気にした風でもない顔でそれを受け流した。そんな評価なんて、すぐになくなる。人の噂やなんかはうつろいやすいから。

 真由は

「聞いてんのー?」

 機嫌悪く言う。

 俺は真由と一緒の方向に帰りながらいつもこうして一緒だ。中学もこうだった。部活をして帰って……幼なじみにしては距離は近すぎて。

 真由は眉毛をへの字に曲げて

「聞いてるー?このスケベ、ヘラヘラヤロー」

 わかりやすく毒づいてきた。だからいってやるのだ。

「茶色。似合うな~」

「なっ、もうバカ‼」

 似合うかどうか自信なかった強いようで弱い女はホッとするのだ。

「知らないっ」

 少し小さな声で、3歩ほど前を歩く真由の髪が揺れる。美容院に行っただの、凄い時間かかっただの…だけど、それを似合うかどうかまでは聞けない。

 それを俺の口から引き出そうとしてた真由は今、照れた顔して歩いてるはずだ。

 誰も通りかからない過疎な道を行く真由の幸せが背中からも漂ってくる。

 真由はわかりやすい。わかりやすいけど、わかりにくい。

 どうして俺なんて好きになるんだ……

 それ、あえて知らないふりをする俺は優しいのか、優しくないのか、わかるだろ?

 真由はわからないように、後ろ手に手を組んで、今にも振り返りそうだ。

「タロウちゃん。この髪好きなんだね」

 そして、この人を大切に思っているんだ。森田 真由と言う、幼なじみとしての君を…

 これが、ひどくない訳ないだろ。

 真由は

「そっか。まっ、他の女子に嫌われても、あたしがいるよ」

 お前は可哀想だ。だから、その恋人にはなれない人の気が変わるまで待ってる……

「真ー由。お前これからモテるぞー」

「や…やだな。ちょっと持上げないで」

「へへへ」

 想い続ける…哀れな女。

 そして、ヘラヘラした鬼畜。

「へ……楽しい高校デビューだな」






 ーある日ー

 何ヵ月たっただろう。

 小綺麗になっていく真由の顔に、マスカラとか言うのがのり、顔が変わっていく。

 近くでそれを見ていた。俺は

「そういうのって、普通、隠れてすんじゃないの?」

「仕方ないでしょ。早く起きれなかったんだから」

 向かいの席に座っていく。

 変身の舞台裏はなかなか、面白い。でもマスカラ付けるときに、白目がちになるの、結構引く。

 朝の早めの時間、入ってくる人達が俺達をカップル扱いして、それを否定しない俺も悪いんだけど、冷やかされるのはなぁ。

 そしたら、

「おはよう。タロウちゃん」

 例の黒髪の女の子が来る。転校の緊張が和らいだ昨今、顔には下膨れ気味の男子がかわいいと言った顔がある。顎がしゅっとしてなくて、子供のようなのだ。

 目も怯えて瞳孔が縮こまっていた時と比べて黒目勝ち。

 化粧気のなくてさらさらした肌はほっぺたが赤い。眉毛もへの字になっておらず、機嫌よく丸めのアーチ。

 あー。豆芝みたいな女だったかー。

 等と失礼な感想をもらしていると、返事をしてないことに気付いた

「よー。おはよー」

 そしたら、その子はこっちに来て

「真由ったら、ダメだよ。男子の前で化粧しちゃあ」

 豆芝……あっ、いやこいつの名前、えっーと、確か木下 雪枝だ。

 その雪枝ちゃんが、真由の手を引く。

 真由は

「大丈夫だよー。こいつすっぴん知ってるからー」

 モテはじめた真由にくっつく幼なじみという、めんどくさいポジションの俺。その邪魔者としての俺の事を早々とみんな知ってる中で今気付いたのか。

「え?もしかして」

 なので、言わせてもらう。

「雪枝ちゃん。二股じゃないよー?」

 そしたら、マスカラの棒みたいなやつ手に持ったまま、手の甲でスコーンと殴った真由

「そのネタはもう古い。いつまで入学式の引きずってんの。新しいネタ考えろ」

「あいててて」

 雪枝は

「痛くなさそう」

 ぼんやりしてても、辛辣そうだ。初日も緊張を隠せなかった。嘘偽りのない正直な女なのだろう。

 真由は

「雪枝も理想高く持たなきゃダメよ。こんなので妥協しちゃダメ」

 惚れてる女のセリフか?それとも、他の男に行けっていう牽制か?

 真由は

「とにかく、性格くずだからね」

 俺はくずなりに、

「ならなんで幼なじみやってんのー?」

 言ったら真由は

「ノリよ。だれがこの腐れ縁。選べないって悲劇よね」

 そう言ってマスカラをしまった。やっと終わったか。いや、終わらない。また、マスカラに似た形状の赤いの出てきたぞ。それを口に塗るのか?

 真由は

「ように、見る目って物を養わなくちゃ。雪枝も気を付けて」

 そういった真由は唇もテカテカで、目もでかくなってて、キュルルンといった効果音さえついてきそうだ。

「ぷっ、受ける」

 笑ったら

「そこ、笑わない」

 怒られた。それを見て、雪枝とやらも笑った。控えめな笑いだった。









 ーある日ー

 モテ出して、調子に乗り始めた真由は目を引く存在になっていった。

 釣り合わない幼なじみとはそれでも交流を続けて一緒に帰っていたけど、番犬がわりと、彼女はのたまう。お姫様の護送がすっかり日々の業務としても、浸透してきた。

 付き合ってるという噂はまことしやかに流れ、真由はそれを軽く笑って否定するだけ。俺にはどっちでもいいことだ。

 二度目もいうけど、人の噂なんてすぐ消える。うつろいやすい人の心なんてどうでもいいからだ。

 そんなある日、真由は俺を屋上前の踊り場に呼び出した。

「こんなところでなにやってんのー?超不良」

 踊り場は生徒の出入りを禁じていた。何か悪い生徒がたまるからだ。

 真由は

「ちょっと……ちょっとね……」

 その様子がただ事じゃない事はわかる。困っているが、横をキョロリと見た目には困惑と照れ。

 ちょっとなら、帰ってもいい?

 そうは口に出さずに言葉を待っていると

「なんかさ……いや、やっぱいい」

 この様子を見るに、告られたってことでいいか。

「誰に告られた?」

 とたんに

「だれにっ、それっ、え?おかしいよね。噂なってんの」

 ほらなー。かまかけてみたら、案の定だろう。階段に座りながら

「正解だった?はや押しの天才。俺」

 そしたら、

「ふざけないでよ。こっちは………真剣に困ってて」

 そんな、甘酸っぱい青春ストーリーに巻き込まないでください。こっちにも生活があります。

 真由は気まずそうに、指と指をあわせ、何度か付けたりはなしたりしながら、

「どうしたら…いい」

 俺に聞くんだ。お前が好きな男に。言ってもらいたいんだろ。付き合うな。けど、俺、言わないよ?なら、俺は何て言うかわかるよな。

「誰か知らねーけどもらってくれるんだったら、もらってもらえよ」

 そしたら、真由はぎゅぅっ口を結んで

「相手はサッカー部の田崎」

 女子に人気の奴だ。情報もよく入ってくる。イケメンのいいやつだ。

「いい物件じゃん。」

 なのに、そいつをストレートに選ばず、俺に相談しちゃうなんて。お前はかわいいね。けど、俺は同情しないよ。俺は真由を幸せにできないから。

 大切にしてくれるやつに引き渡す事、止めたりしないよ。

 のぞむ言葉でもない事を言われた真由の顔は告白に失敗してふられたより無様な顔で、涙をこらえてるように見えた。ぐしゃっとしてて、悔しいや、悲しいや、怒り。それら混ざった真由の顔だ

「タロウちゃん……全然わかってないよね」

 真由は言う。まだわかってないのか。全部わかってるって。真由は不機嫌に茶色い髪を揺らしながら降りていく。付き合うだろう。当て付けのように。

 これで真由は俺の手を離れた。不幸な女でも、可哀想な女でもない。愛される女になった。

「俺の役目はここまで」

 真由の足音が完全に聞こえなくなる頃、そう言った。










 ーまた、ある日ー

 風の噂で真由と田崎はうまくいっている。最初はぎこちなくても、大切にされるって、愛してるって男にチヤホヤされて、心が変わっていく。

 そりゃそうだ。人の心なんてうつろいやすい。そんな変わりやすいものに執着したりしない。

 彼女が正面から来なくてよかった。そしたら、俺はなんて答えただろう。それでも、俺にとっての真由は幼なじみで、森田 真由って事は変わらない。

 大切な真由を傷付けず、手を離せた。それは奇跡のようで良かったと思っていた。

 今となっては言うけど、真由はかけがえのない存在だった。俺のそばでぶっきらぼうに傷つくより、優しい男がいい。そんな、軋みに似た歯車のあわなさを感じていた。

 変わっていく真由と、変わってほしくない俺。身勝手さも埋められなかった。俺には傷付けるばっかりの憎まれ口しか聞けないから。いつしかそうなってしまってた。

 それが恋だとしても、幼なじみと履き違えていたとしても、もうおしまい。

 俺も、真由も、違う道を歩き出した。そして、真由は俺と帰らなくなった。

 恋人のできた女は、男と過剰に仲良くしないものだ。





 真っ白なガラス戸を激しく叩く風の音。ボタンのような雪が斜めからふる。収まっていた雪が牙を向いて、ガタンガタンと言うたび、なにが打ち付けてるかわからなくなる。

 そんな時、靴箱で

「ああ、タロウちゃん」

 雪枝だ。重そうなコートのボタンを止めている。こんな日に、一緒に帰る人がおらず、不安そうだ

「よう、帰り?」

 実は、雪枝は方向が同じだった。

 真由と付き合ってると思っていた雪枝は遠慮して、時間帯をずらしていたらしい。けど、その必要もなくなった。だから、学校が終わった今、最近はさっさと帰っているのを見かける。

「あのさ……真由ちゃんて、最近一緒じゃないの?」

 彼女の耳にはまだ入っていないらしい。真由ちゃんは、田崎と、帰ってまーすって。何事も情報の遅い女だ。

「彼氏が焼くからだってさ」

 だから、都合のいい番犬はいらないんだ。

 雪枝は

「そっか。二人、付き合ってなかったんだね」

 長い間苦労かけてスマン。そう思ったら、

「じゃあ途中まで一緒だし、別々で帰るのアレだから…」

 サクッと言わないな。一緒に帰ろうって。そっか。不器用な女だったもんな。

「ああ。帰ろう」

 玄関のドアをあけると、生き物のような雪の塊が腕を伸ばしてほほを、ペタペタ触れるようにあとからあとからくっついてくる。

 凍えるような温度。氷るようなシベリアから吹いてきたかと言うような乾いた風が吹きすさぶ。

 さすがに寒すぎた。

 降った雪が溶けずに積もってまた積もる。繰り返した結果、樹木の枝は溶けることのない雪に苦しめられていて、張り付いたこぶのように厚く枝をしならせる。

 それにこの風だ。こん棒のようになった枝を激しく揺らしながら、風が緩んだり、やんだりするだけで痛いくらいに揺れ動くのだ。

 そばで、

「ひゃあっ」

 こけていた黒くて長い髪。見上げた化粧っ気のない顔。助けおこして

「ドジだな。ちゃんと歩けよ」

 そしたら、雪枝は

「ひどいよ。……痛いのに」

 正直な女だ。けど、景色もすっかりかわってしまった吹雪の中で、それは通用しないぜ。

 こんな雪で風も強い日に……。

 髪の毛がたなびいた。地面と平行に。いや、それ以上にはね上げる。毛糸で覆われた手袋で、それを押さえて、転ばないように支えてやるのは、もはや親切っていうレベルじゃなくて、本当にそうしないと飛んでいきそうだったからだ。

「こんなにひどいなんて、聞いてないぞー」

「なに……聞こえない」

 風の音がビョービョー響いて、会話も満足にできない。

 雪にまみれた折れた枝がおちてくる。それから、かばってから、また歩き、先に雪枝の家まで送ってやる。

 家がすぐそこになったとき、

「すきなんだよ。タロウちゃん…」

 風の途切れた合間に聞こえた。

 ピョオオオオオオーーーー

 すぐに突風が襲う。

 見つけた低い屋根。そこが雪枝の家だ。雪枝は風のいくらかやんだ軒下、

「どうして何も言ってくれないの」

「何が?」

 そしたら、そっか。と呟いて、雪枝は

「好きですってさっきいったのに」

 子供のようにいった。不器用な女は直球でくるらしい。

 いい度胸だな。真由と違って、それじゃあはぐらかしようもないだろ。

「バカ女。そんな、大事な事言うの、もっと場所あるだろ」

 雪枝は

「このまま……埋もれて死ぬかって……」

 一生一代の告白を死ぬ前にしとこうなんて。なら、受けてたつしかない。

「もう少し、いい枝振りになって折れないように育ててやる」

「は?」

 不器用でバカな女にはこれで今は充分。

 その赤くなった鼻軽くおして、

「じゃな」

 山口太郎は雪の中に消えていった。


さりげない優しさはあるのに、突き放す。好意にはぶっきらぼうになってしまうのに、それを切り離せない。好きだった真由なのに、自分ではない他の人と幸せになれる方に導く。器用に見せて、不器用。


タロウを嫌いだと言う人は多いはず。

だけど、不確かなどちらともなく定まらないこの感じが、大人になったら消えてしまう気もする。

分かりにくいタロウという人を書ききれなかったのは私の力量のなさかと思う。

揺れ動く、どちらでもない者を書きたかった作品です。


最後まで、好きと言わないのです。好きになり始めた恋心を。


過去の恋を、雪枝の黒髪に投影して、不器用なままのかわいい女でいてほしかった。

お互い想うゆえに、そうした事を話し合うこともなく、差違も埋めれない幼なじみの二人。


雪枝は違うでしょう。その差違を指摘できる、正直さと自分を偽れぬ不器用さをもっているから。


本編でくわしく触れることのなかった真由の内面。

読み終わってから前書きの真由の内面に触れると、その不器用さと、痛々しさを感じてもらえるのではないでしょうか。

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